山形県唯一の離島、酒田市の飛島の医療体制について同市は、島民から意見を聞かないまま4月から診療所に医師を常駐させない遠隔診療に切り替えることが12日、分かった。決定について市は16日に説明会を開くとしているが島民に周知していない。人口約250人、65歳以上が6割、50歳以上が9割超の超高齢の島は、降ってわいた決定に不安を隠せずにいる。【佐藤伸】
診療所には現在、杉山誠医師(75)が常駐する。後半生をへき地医療にと12年前に飛島診療所長になった。
高齢などを理由に昨年10月下旬、市へ3月退任の辞表をいったん提出。だが後継者がいないことや、泣いて不安を訴える島民の姿に翻意。11月から3度にわたり市に辞表撤回を申し出、土日は同市に戻り平日は飛島で診療するという案を提示した。しかし市は12月下旬に日本海総合病院(同市)に医師派遣を依頼し、杉山医師の申し出を断った。
同病院案は定期船で金曜に医師1人が島に渡り翌日に帰るという案。16人の医師が交代で務める。欠航や祝日は派遣せず、ほかはテレビによる遠隔診療で対応するという。海が荒れる11月から3月は派遣せず、5カ月間は全くの「無医島」となる。
市は議会の同意を得て4150万円の新年度当初予算を組んだ。ところが、これら一連の動きについて市は島民に説明も意見聴取もしていなかった。
飛島の男性(72)は「(説明会の日程が)飛島総合センターの黒板に書いてあるのを偶然見て、尋ねて知った。市からはいっさい説明がない。島民はどうなるのか」と不安を隠せない。別の男性(65)は「うわさでしか聞いていない。島民を見捨てるつもりなのか」と戸惑う。
市統計によると飛島診療所の診察数は09年度1日平均6・3人、年間1794人▽10年度5・9人、1629人。杉山医師は「遠隔診療では聴診、触診、打診という基本が全くできない。視診は心を見ることにある。テレビを通じた医師と患者は打ち解けることができるだろうか」と心配する。
大石薫・市健康福祉部長は「(杉山医師の)翻意は12月末に聞いた。島民から意見は聞いていない。事後承諾と言われればそうかもしれない。説明会の周知については、市の出先の飛島総合センターと自治会組織のコミュニティー振興会に任せていた」と話し12日、説明会開催を全島民に周知するよう両組織に指導した。
毎日新聞 2012年3月13日 地方版