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伊藤賢治さんへのインタビュー(日本語版)

インタビューは、2006年10月、都内で行われました。伊藤賢治さん、インタビューをセッティングしていただいたCocoeBiz., L.L.C.代表の江崎さんと、3人でお料理やお酒を頂きながら、ゆったりと長時間にわたるインタビューになりました。インタビュアーと記事は木村(Kago)が担当しました。



『PRESS START 2006 -SYMPHONY OF GAMES-』

2006年9月22日は、ゲーム音楽の歴史に着実な一歩が刻まれた夜になりました。様々な機種、様々な会社のゲームから、選りすぐりの名曲たちがオーケストラで演奏されたコンサート『PRESS START 2006 -SYMPHONY OF GAMES-』。伊藤賢治さんは、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』から『オーバーチュア』『オープニングタイトル』の2曲を、オーケストラとともに自らピアノで演奏されました。壮大な楽曲、そして力強い演奏が聴く者を興奮させ、魅了したのです。

木村まず、コンサートの話から始めようと思いまして・・・
伊藤『PRESS START 2006』ですね。
木村はい。植松伸夫さんがその企画者のおひとりでしたが、伊藤さんはその植松さんに誘われて参加されたとか。
伊藤ええ。もともとは、2年ぐらい前の『THE BLACK MAGES』ライブの『サガ』コーナーでピアノソロを弾いたとき、植松さんが「これぐらい弾けるんだったら、また一緒に何かできるかな」と思ってくれたらしいんです。で、『PRESS START』の企画のとき、『FF』以外にも、他のスクエニ(スクウェア・エニックス)作品の楽曲も挙がったらしいんですが、「そういえばイトケンってピアノ弾けたよな」って思い出したらしくて、じゃあ『サガ』やってもらおうかってことで、こちらに電話がきまして。
 最初は、ピアノソロでどうだと言われてたんですが、オーケストラコンサートでピアノソロっていうのもどうかなあと思って、どうせならオーケストラと一緒にやらせてくださいと、セッティングしていただいて。
木村植松さんに誘われたときのエピソードがありましたね。
伊藤突然電話がきたもんだからびっくりしちゃって・・・自分の携帯に植松さんの番号を入れてなかったんです。だから、電話が掛かってきたとき、発信元の番号だけが出たんだけど、電波状態が悪かったのか、切れちゃったんですよ。「またイタズラかなあ」と思って放っといたら、1分後ぐらいにまた同じ番号から掛かってきて、やっぱり無言だったんです。だから「うおるぁ!」って(笑)
江崎怖っ(笑)
伊藤「・・・植松ですけど」みたいな(笑)
一同アハハハ!
伊藤もうそれからひた謝りで。何年ぶりかにドバーッと冷や汗が出ましたね(笑)
江崎まさかー、って。
伊藤うん、まさかですよ本当に。それまで連絡とか取りあっていなかったので、いつの間にか植松さんの番号が消えてたんですよ。番号自体は変わってませんでしたけど。

木村『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』の曲を演奏するというのは、どのように決まったのですか?
伊藤それはもう、出演するしない以前に、先に発表されてたんですよ。出演は植松さんの電話がきっかけでしたけど、「実はやるんだけど」って、ファミ通を見たら、ほんとだ『ロマサガ』入ってる、って(笑)
木村(笑)
伊藤僕は全然ノータッチだったんです。で、「何の演奏する?」って言われて、ピアノと一緒にやる曲として思いついたのがあの2曲(『オーバーチュア』『オープニングタイトル』)で。
木村曲は伊藤さんが決めて、でも『ロマサガ』の曲ってことは最初から決まってて。
伊藤そうですね。
江崎お気に入りの曲だったんですか?
伊藤うん、それもありますし、『ロマサガ』の中では看板になる曲ということもありましたしね。
木村もし、『ロマサガ』というタイトル自体が先に決まっていなかったとしたら、何の曲を選んでいましたか?
伊藤時期的には『聖剣伝説4』が近かったので、(『聖剣伝説』シリーズの曲)『Rising Sun』とか選んでたかもしれませんし、あとスクエニ作品に限らなければ、『カルドセプト』とかもやりたかったなと思いますし。時期的なもの、旬なものってありますから、あの『PRESS START』の時期だと、『聖剣』か『カルド』かなと。
木村なるほど。
伊藤でも『ロマサガ』というのは決まっていたので、あの曲がいちばんオーケストラとしても聴きごたえがあるだろうし、ファンの人もそうじゃない人も、どっかで聴いたことがあるんじゃないかな、と思って。
木村どちらの曲も、『ミンストレルソング』のゲームのときから、伊藤さんがオーケストレーションをされて、生のオーケストラを使われていましたね。
伊藤そうですね。
木村『オープニングタイトル』のほうは、もともとはピアノパートがなかったと思いますが、新しくコンサート用に。
伊藤そうです。あとづけというか、コンチェルト風にやってみました。
木村堪能させていただきました。
伊藤ほかの曲目と比べるとちょっと短かったんですが、『ロマサガ』の代表曲といったらやっぱりあの部分ですし、あれにもう1曲加えるとまた意味合いが変わってきちゃうので、あれでよかったかなと。

伊藤「へーっ」と思ったのが・・・自分の曲だけだったんですよ、終わったあとシーンとして、2、3秒ぐらい間があってから「ワァー!」って。
木村ああー。
伊藤あの“間”って、なんかこっちのほうがジーンとしちゃいましたね、聴き入ってくれたのかなって。だから指揮者も、いつ拍手くるんだ・・・って、お互いに止まっちゃいましたけどね。曲の流れでワァーっていうよりも、ほんとに聴き入った結果ですから、だからこちらにとってはすごく感慨深いものがありましたね。
木村演奏が終わったあと、入ってくる植松さんと出て行く伊藤さんが握手されて。あの瞬間も、けっこう感動しましたよ。
伊藤ハハハ!
木村演奏前には植松さんと舞台上でお話しされていて、面白いお話がありましたね。入社されたころ、音楽機材の配線を植松さんにしてもらったとか・・・
伊藤あの、要は、ミキサーに楽器とかエフェクターをつなぐときに、もちろん楽器をつなぐことはできましたけど、エフェクターはそんなに使ってなくて。エフェクター独特の配線の仕方ってあるんですよ、効果的な使い方とか。そのへんは僕もあまり把握してなくて。頼める人といえば植松さんしかいなかったので、頼んでしまったんですけど。今そういう話をすると、「なんて畏れ多い」とか、「あの植松さんに!」って・・・でも当時は“あの”じゃなかったし(笑)
 で、当時、みんなマッキントッシュを使ってたんですけど、マックの社内LANを使おうということで・・・でも、LANをつなぐにも、どうやるんだ? って悩んでた時に、たまたま通りがかったのが坂口(博信)さんだったんですよ。「すいません坂口さん、これわからないんですけど・・・」「しょうがないな」って、ガチャガチャやって。あとでメールがきて、ちょっと転送してみろって・・・そこまで世話してもらって。その話をすると「坂口さんにまでですか!」って。何者ですかアンタ、みたいな(笑)
木村(笑) ほかに、入社された頃のお話しがありましたら。
伊藤僕が入った頃って、音楽室とは言えないようなところに押しこまれていたんですよ。それまで音楽スタッフは植松さんひとりだったので、音楽部屋というか植松部屋として個室が与えられたらしいんですけど、僕が入って、部屋をどうするかっていうのが、上層部の人に届いてなかったらしくて。2人して、かなり片隅に追いやられてしまいましたね(笑) 僕は入社した当初なのでそういうもんなんだと思ってたんですけど。
 とりあえずお互いにヘッドホンをして、仕切りを置いてたんですが、どうも僕の叩いてる鍵盤の音がうるさかったらしくて、ヘッドホン越しでも聞こえるって。こりゃ個室じゃなきゃ嫌だと(笑) それで、ちょうど菊田(裕樹)さんが入ってきた時が、開発部と同じフロアーにいた事務が別のビルに引っ越した頃だったんですよ。これはいいチャンスだと植松さん思ったらしくて、「社長室使わせろー」って(笑)
一同(笑)
伊藤「そこの部屋を3等分して、イトケンと菊ちゃんで分けて使いたいから」って。植松さんの意見ってやっぱり大きいんですよ。開発部ではいちばん年長でしたし、説得力もあって。しょうがないなあ・・・って、でもこっちとしてはラッキー、みたいな(笑) いちばんいい部屋でしたからね。
木村植松さんといえば、雑誌(『ガンガンパワード』)の付録CDで、第1号のゲストが植松さん、第2号が伊藤さんでしたけど、植松さんの回で、「次回のゲストは伊藤賢治さん」とお名前が出た時に、植松さんが「アイツ喋んないぞー」って(笑) でも実際にお話しされると、流暢ですよね。
伊藤あ、僕ね、植松さんと喋んないから(笑)
一同アハハハ!
伊藤あのね、年齢が離れてるから、話題もあんまり交わらないんですよ。ただ、音楽性の好みとか、根本的な部分の好き嫌いは似てるんですけど。スクウェア時代は、僕も『サガ』とか『聖剣』とかやらせて頂いて忙しかったし、植松さんも最初から忙しい方でしたから、そんなに話す機会もなかったですね。だから、その印象が強かったのかな。


木村コンサートに関して、こぼれ話のようなものがありましたら。
伊藤なかなか合わなかったんですよ。僕も初めてのオーケストラとの共演だったので、タイミングとか、指揮者の振りとか。リハーサルはもちろんあったんですが、『ロマサガ』が他の曲よりちょっと短かったこともあって、あまり時間がとれずに。いちばん最初の、オーケストラとピアノの弾くタイミングが同じだったんですが、それが最後のリハーサルのときでも合わなくて。
 さすがに指揮者の竹本(泰蔵)さんのところへ行って、「すいません、実は僕もちょっと、アマチュアな部分もありまして、申し訳なかったんですけど」って言ったら、向こうも「いやいやそんな〜(笑)」とか言いながら・・・3、4分ぐらい話をして、打ち解けることができて、いろいろ考えたり、竹本さんにも合わせてもらったりして。そこで初めての演奏で、いちばん出音が合ったときは、すごく嬉しくなっちゃって、そのままの勢いでワアーと弾いちゃったようなところがありますけど。だから、演奏が終わった時の指揮者との握手って、なんか自然に出ちゃいましたね。できた! みたいなね。
江崎一体感というか。
伊藤ええ。
木村あの、植松さんのラジオ番組に竹本さんが出演されたときのお話で。竹本さんは最後のリハーサルでも8割の完成度にしておいて、本番で100%の演奏が出るように持っていくんだそうで、お話しを聞いているとまさにその通りで。
伊藤そういう話を聞けば、なるほどなと思いますけど(笑)

木村コンサートが終わったあとに、出演者の方々が来場者をロビーでお見送りされてました。伊藤さんもいらっしゃいましたよね。
伊藤僕はイレギュラーだったんですよ。もともとは、植松さん、桜井(政博)さん、酒井(省吾)さん、指揮者の竹本さん、元スクウェアの野島(一成)さんの5人、企画者だけで出るはずだったんだけど、なぜか僕とか近藤(浩治)さんとかも呼ばれて、どうせなら出演者みんなで行ってくださいって、舞台制作の人がいきなり言ったもんだから、慌てちゃって(笑)
 「え、俺たちも?」みたいな感じで。『モンスターハンター』の甲田(雅人)さんとか、カプコンの柴田(徹也)さんとかも・・・で、行ったは良かったんだけど、あんな大ごとになるとは思いませんでしたね。ああいう風になるんだったら、企画側も、もっとちゃんと仕切ったほうがよかったですね。怪我人も出たらしいんですよ。
木村そうらしいですね。
江崎会場で?
伊藤というか、我々が外で出待ちしていたんですよ。で、送ろうという感じだったので、やっぱりみんな、握手してくださいとか、写真撮らせてくださいとか言いますから、どんどん人がたまってきちゃって。それで、僕らならまだしも、植松さんや桜井さんとか、かなり人が集まっちゃって、仕切りきれなくなって。そこで、転んじゃった人がいたらしくて・・・。かわいそうでしたね。それから、「すみません、ここで中止させてください」って。
 イベント自体は、すごく良かったので、たぶん、来年・・・再来年ぐらいには、あるんじゃないかな。まあ僕が呼ばれるかどうかはわからないですけど(笑)
木村是非お聴きしたいです。
伊藤リクエストがいっぱいあれば、こちらとしては出させていただきたいですね。
木村コンサート、これからも続けていってもらいたいですけど、一方で、特に採算のこととか、どうなのかなと心配してしまいまして。心配してもしょうがないんですが(笑)
伊藤個人的なことを言わせてもらうと、主催者がどこであれ、僕らは関係ないんですよ。今回は“ファミ通Presents”と書いてありましたが、僕も・・・たぶん植松さんたちもそうだと思いますけど、熱意をもって、気配りもちゃんとした人なら・・・たとえアマチュアの人でも。主催をちゃんとやってくれて、出演者に対しても、来てくださるお客様に対しても、ちゃんと気を配れる人、プロフェッショナルな心を持った人たちが集まれば、アマチュアでも、どこかの企業でも、そんなに関係ないんじゃないかな。
木村そういう意味では、こちら(ファン)も頑張らないと。
伊藤ええ。
木村植松さんも、以前からそういったことを仰っていましたので、今回は植松さんご自身がコンサートを企画されて、ひとつ借りができちゃったような感じなんです。
伊藤アハハ。でも本当、嬉しいのは、ゲームを制作する側もだんだん、僕らより下の世代の人たちが、一緒にやりませんかと言ってくれて。そういう人たちって、小さいときに、僕らが出していた作品を遊んでた世代なんですよね。その彼らが成人して、ゲームを作る側になって、あの時に絵を描いていた人、音楽を創っていた人と一緒にやりたいっていう希望が通って、こちらに話が来たときは・・・「ああ、自分たちの作品がちゃんと伝わったのかな」っていう実感がありますね。すごく嬉しいですね、そういうときは。
 熱意とか、プロ根性が備わってる人って、大会社にいるとは限らないじゃないですか。どんな立場であれ、熱意を持った人と一緒にやりたいなあと思います。そうすると、今度はこっちのほうからプレゼンしたりして、こういうことも出せますよって、自分が持っている以上のことを発表したくなったりする。そういうのが、すごく健全だと思いますね。
 決められた枠の中で、こういう予算、仕組みでやれば売れ行きも出るから、それに沿ってやってね、っていっても、ちょっとつまらないですしね。いい意味でのハプニングがないと。
江崎自由な発想ができるっていうのが、アーティストにとってはいちばんいいのかなと思いますね。
伊藤ええ、まさに。自由な発想、こういう考えもあるのか・・・っていうのは、企業然とした人だとなかなか出づらいものがありますからね。

木村次は是非、『聖剣伝説』とか『カルドセプト』とか・・・
伊藤うーん、『カルド』は難しいでしょうけどね。『聖剣』といえば、『新約 聖剣伝説』の頃に、秋葉原のアソビットシティっていう所で、トーク&ライブイベントがありまして、ライブ演奏はそれが初めてだったかな。僕は音楽担当として、何曲か演奏しながらトークをして、石井(浩一)さんとか、ブラウニーブラウンの亀岡(慎一)社長、シナリオを書いた生田(美和)さんと。司会は、山下章さん・・・アルティマニアとかを作ってるベントスタッフの社長さんに担当していただいて。
木村大勢の前での演奏というのはそれが最初で。
伊藤きっかけはそうですね。その後に『THE BLACK MAGES』のライブがあったんです。でも、あんまり得意じゃないんですよ、ライブって(笑) どっちかというとスタジオワークのほうが好きで。まあ、年に1回ぐらいならいいかなって・・・でも今年(2006年)はけっこうやりましたけどね・・・どこがやねんって感じで(笑)
一同(笑)
江崎冗談かと思っちゃった(笑)
伊藤や、本来そうなんですよ。緊張しますしね。
江崎大変ですよね、気苦労とかも。
伊藤うん、そこまでの準備もありますし。


『Everlasting Melodies』

2006年は、伊藤賢治さんが長年あたためてきた夢、オリジナルアルバム『Everlasting Melodies』も発売されました。歌物1曲(『心のたからばこ』)以外はすべて伊藤さんの奏でるピアノソロ。優しさ、爽やかさ、切なさ、寂しさなど、いろんな感情を呼び起こす楽曲たちです。

Everlasting Melodies

江崎大躍進でしたよね、本当に。
伊藤今年はいろいろやらせてもらいましたね。ゲーム以外にもオリジナルアルバムを出したことに意義があったかな、また来年へのいい足がかりになったかなって。
木村伊藤さんが、この英語公式サイトを開設されたときに、将来の夢として、オリジナルアルバムの発表を挙げていらっしゃいましたが、その頃から曲を書き溜めていらっしゃったのでしょうか?
伊藤みんな、今回のために書き下ろした曲です。中には、レコーディングまであと2時間! という状況で、おそろしい集中力でダーッと作ってしまった曲もあるし・・・でも意外に、その曲が自分の中ではいちばん良かったりして(笑)
木村あのような、落ち着いた感じのピアノ曲というのが、伊藤さんにとっていちばん自然に出てくるものでしょうか。
伊藤あれがベーシックです。あそこからいろいろ広げるのですが、根本的な部分は、あのようなピアノソロですね。
木村ジャケットは伊藤さんのアイディアですか?
伊藤まず僕がイメージをプロデューサーのかたに伝えて、「こんな感じでどうですか」といくつか候補を挙げてもらい、その中から僕が選んだものをまたプロデューサーが持ち帰って、デザイナーのかたに描いてもらった、という手順ですね。
木村イメージというのは。
伊藤もともとウィンダム・ヒルというレーベルが好きで、ああいった感じのをやってみたいなと思って。
木村ウィンダム・ヒルというと、花畑とか枯れた木の写真とか、ああいう自然のものというイメージで?
伊藤そうですね。
江崎伊藤さんの英語ウェブサイトも、そういうコンセプトなんですよ。自然との調和とか。
伊藤自然回帰しようとか、そういった主義ではないんですが、自分の奥底にはずっとそういうイメージがあるんですね。自分の求めるものは、結局はそこなんだ、という。
木村CDのレーベル面のデザインは、シンプルで、ちょっとレコードっぽい感じですが。
伊藤あれはプロデューサー側の指定で、僕も特に反対はなかったので。僕が意見を出したのはジャケットだけですね。
 あと、今回は生ピアノじゃなかったので、次回からは生のピアノでやってみたいですね。ストリングスも加えたりして。


舞台音楽 『終わらない僕たちの夜』『魔王降臨』

さらに、時田貴司さん(スクウェア・エニックス)などの方々が結成した『青春演劇ユニット・Pures』の旗揚公演『終わらない僕たちの夜 〜The spring time of life〜』、そして時田さんらが関わった舞台『魔王降臨「Live SIDE & Evil SIDE」』と、2つ(3つ)の演劇作品にも伊藤賢治さんが音楽担当として参加されました。他にもいろんな方々がその音楽を手がけられたのです。

※『Pures』の新作、2007年2月の公演『バレンタイン☆キッス』にも、伊藤さんが作曲で参加されています。

木村今年は舞台の音楽なども担当されましたが、ソフトとして発売されたりはしますか?
伊藤『Pures(終わらない僕たちの夜)』のDVDは出ます。でもCDはたぶん出ません。ただ、自分が担当した曲をリアレンジして、オリジナルとしてリリースという形はありえます。
江崎それは特に『Pures』という名前を使わなくても?
伊藤ええ、それは自分の楽曲なので。国内向けの説明として、“from Pures”みたいな形で使うかもしれませんけど。
 アルバム出してくださいっていうリクエストは多いんです。でも、いまスクウェア・エニックスの社員である谷岡(久美)さんとか、別メーカーにいる岡宮(道生)さんとかの曲を、一枚のアルバムにするのはちょっと難しいかな、と。
 ただ、僕とか下村(陽子)さんのような、フリーの作曲家が自分の作品として出すことについては、可能性は高い・・・というか、やっていきたいです。でもさすがに『冬ソナ』のパロディ(の収録)は難しいですね(笑)
一同(笑)
木村谷岡さんの曲でも、パロディっぽいのが・・・
伊藤いっぱいありますね(笑) 岡宮さんも『サ○エさん』とか『タッ○』とか・・・「まずいぞコレ」みたいな(笑) 岡宮さんにはさんざん「大丈夫?」って言いましたが「俺は全然問題ないと思うけど」みたいな感じで。
木村舞台という、その場で流れて消えていく音楽だからこそできたことですよね。
伊藤そうですね。
木村DVDになっちゃうにしても(笑)
伊藤ええ(笑) それがまた効果的なんですよ。僕とか下村さんとかは、そのギリギリの部分を知ってはいるので、これ以上踏み込んだらクレームがつくだろうな、というところを越えないでやってますけど、岡宮さんは軽々と越えちゃったりするので・・・(大笑)


『カルドセプト サーガ』

2001年に発売された『カルドセプト セカンド』は、伊藤賢治さんとしてはスクウェアからの独立後初めて音楽を手がけられたゲーム作品であり、その後の仕事への大きな自信になったといいます。そして2006年11月、最新作『カルドセプト サーガ』が発売されました。もちろん、メインコンポーザは伊藤賢治さん。

※『カルドセプト サーガ オリジナル・サウンドトラック』も発売中です。

Everlasting Melodies

江崎『ミンストレルソング』の音楽はいいですよね、すごくバラエティに富んでるというか。
伊藤じゃあ、『カルドセプト サーガ』は是非(笑) もうちょっと違ったバラエティがあるので、聴いてもらいたいですね。初挑戦のジャンルもあるんです、まだちょっと言えないんですけど。
木村ちょっとお聴きした感じだと、『カルドセプト セカンド』の延長上にあるような音楽なのかな、という印象だったのですが。
伊藤メインテーマだけを聴いているとそう思うかもしれませんけど、違いますよ(笑) 「えーっ!?」というような・・・作ってる自分でも「これ『カルド』に合うのかなあ?」みたいなのもありますね(笑) でも、プロデューサーの武重(康平)さんは「全然問題ないです、むしろいい意味で壊しちゃってください」って。一度は出しておきたかったけど『サガ』でも『聖剣』でも出せなかったジャンルを、『カルド』で出せました。古代(祐三)さんや僕がやってきた、クラシカルなファンタジー路線の『カルド』音楽から、まったく逸脱した曲もあるんです。
木村『カルドセプト サーガ』は、今までよりストーリーに力が入っているという話なので、むしろRPG的な曲が増えるのかと思っていました。
伊藤それも、当たり前に入っている上で、ですね。ストーリーも、冲方(丁)さんが参加されて、力が入っていますけど、その流れだけにこだわらずに、曲のジャンルとしてやってみたいことをやって、出すことが出来ました。これが受け入れられたら、面白いかもしれない。
江崎初めてのジャンルの曲を作るときに、勉強とかはされたんですか?
伊藤勉強というか、根本的な部分を聴いたりはしました。でも、自分はメロディーから作るほうですから、周りからも「どんなジャンルや曲調でも“イトケン”だよな」といわれますし、それは外せない部分ですね。
木村『カルドセプト サーガ』は伊藤さんが初めてXbox360で手がけられたゲームですが、Xbox360は5.1chサラウンドが扱えるということで、特別なところはありましたか?
伊藤いえ、それはミックスの問題なので、曲を作る自分としては意識していないです。
木村CDはステレオですから、このままサラウンドが当たり前になっていくと、いずれ、ゲームで鳴ってる音よりサウンドトラックのほうが音が悪いってことになっちゃうのかなと・・・。
伊藤どうですかね・・・そのときはそのときで考えようか、という感じですけれど(笑)
木村『カルドセプト サーガ』に関しては、心配なく?
伊藤どうミックスされようが、曲として完成しているので、そういう意味では心配していないですね。5.1chが主流になっても、そこでミックスしなおせばいいだけであって。
 サラウンドに対する曲の作り方っていうのもあるかもしれませんけれど、今は始まったばっかりですから、どう作るか、手探りの部分もあって。だから、まず2chのステレオの中でいい作品を残した上で、だんだんそっちにシフトチェンジできればいいと思います。自分としては、あくまでも作品ありきで、メディアがどう変わろうと、曲自体が良ければ・・・だって、ビートルズなんて、いろんなメディアがあっても曲自体は変わらないじゃないですか。そういうのが理想ですね。


オーケストレーション

木村思えば、『Everlasting Melodies』がそういうものかもしれませんね。10年後に聴いても、きっと変わっていなくて、でも新しい発見があったり・・・
江崎流行に流されないっていうものはいいですよね。
伊藤根本的な部分が良作であるならそれでいいかなと思って、それを作るために自分たちは努力してるんです。5.1chだって、古くなる時代がすぐ来ますよ。
 いま、自分なんかはどんどん昔に戻って・・・というとちょっと変ですけど、最近はもうメロディーを譜面に書いてますね。スクウェアに入った頃は、いきなりコンピュータに打ち込んで曲を作ってましたけど、今は・・・全曲じゃないですけど、メロディーとか、ちゃんと譜面に書いて目で確かめないと、って。オーケストラの譜面を書くときも、16段ぐらいの五線譜をガーッと書いたり・・・ベーシックな部分も、経験しておかないと、と思っていて。
木村コンサートでやった『ミンストレルソング』以前にもオーケストレーションはされていましたか?
伊藤初めてオーケストレーションをしたのが、『チョコボの不思議なダンジョン2』だったんですよ。それが思いのほか上手くいって。その後、『チョコボレーシング』の海外版で、太田裕美さんの歌(『心のたからばこ』)を外国の人に歌ってもらったんですが、日本版は浜口(史郎)さんのアレンジだったものを、海外版でやらせてもらって、それもけっこう上手くいったんですよ。それでだんだん自信がついて。で、フリーになってから来たのが、ゲームとは関係ない、普通の歌物のスタジオワークだったんですけど、そこでもいい結果が出せて。その後に『ミンストレルソング』のオケでしたね。
 自分に、オーケストレーションができるっていうウリがなければ、フリーにはなってませんでしたね。自分の目標が、服部隆之さんや岩代太郎さんなんですよ。その上の世代だと渡辺俊幸さんがいて。フリーになるってことは、ああいう方々と同じフィールドに立つということですから。
木村オーケストレーションの経験を積むことで、フリーでやっていこうという・・・。
伊藤きっかけですね。服部さんたちの背中を見続けるには、まがりなりにもオーケストレーションができるかできないかというのが大きな差だなと。自分の場合は、それが鍵でしたね。他の人は分からないですけど。


これからの伊藤賢治さん

木村今後そのような、いち音楽家としてやりたい計画や夢がありましたら。
伊藤いっぱいありますよ。固まりつつあるものも、まったく夢の段階で、どう固めようか、というものも。
 自分の中には、まず『Everlasting Melodies』のような、自分だけの名義でピアノを中心としたものがひとつあるんですよ。それから、自分と何人かのコラボレーションという形で、自分とは違った音楽性も含めて、ワールドワイドな音楽を、日本も含めた世界中に向けて作りたいというのがひとつ。あとは、iTunes Storeでピクサーが出しているような、短編の映像と音楽を合わせた作品を、小出しにリリースできればいいなとも思っています。
木村映像も含めての作品ということですか。短編の映像に、伊藤さんが曲を乗せるような形で?
伊藤僕が企画するものですから、まず音楽があって、ストーリーを乗せて、そこに絵素材を乗せる形でしょうね。一曲が3分から5分ぐらいのミュージカルストーリーで、完結させたり、続き物になったりは、作品によって変わってくると思います。長編映画みたいに構えて見なくてもいいような、PCで気軽に見られるショートストーリーにして、子供でも、ご年配の方でも、誰でも安心して見られるようなものがいいですね。
 理想とするのは、『スノーマン』なんですよ。あの流れに沿ったものか、派生したもので・・・いろんな人に協力してもらえれば、いいものができそうだと考えています。それは来年(2007年)以降になると思いますが。
木村コラボレーションというと、最近は清田愛未さんとライブをされたり、アルバムに参加されたりしていますね。
伊藤彼女のプロジェクトにべったりつくわけではないですけどね。お互いに、必要な時があれば呼んでね、うまくタイミングが合えば一緒にやりましょう、無理だったらまた今度、という感じで。彼女にしても、他のそういった方にしても、友達の間柄なので、そういうゆるい枠の中でずっと付き合っていきたいですね。
木村お互いに影響を与え合ったり、それによって新しく、面白いものが生まれたり。
伊藤それが大きいですね。自分だけの世界だと、100%に近いものしか出せないですけど、その人と組んだり、影響し合ったことで、100%以上のものができることがありますよね。そういうことを期待しつつ、お互いを面白がりつつやる。それは仕事だけの間柄では絶対できないと思うので。
 もう、のんびりいきたいんですよね。こういう仕事を一生涯していくだろうし、していきたいし。その中で、仕事だけの間柄じゃなくて、ずっと友達みたいな感じで、ついたり離れたり・・・お互いがメインになるものを持った上で、一緒にできる機会があればやろうと、そういう、なんかゆるい感じでやっていきたいですね。



海外に向けて

木村CocoeBizは海外の方々に向けて情報などを発信しているのですけど、伊藤さんの曲って、いまのところ、海外より日本で人気がある感じですよね。
伊藤まさにそうだと思いますけど、今後の自分にとっては、逆にやりやすいと思うんです。ゲーム音楽家というより、作曲家やピアニストとして活動する上では。対象を日本国内に限っちゃうと、ゲーム音楽作曲家の枠から外れにくいところがあって、海外のほうがいろいろやりやすいかなと思います。
木村そのような、海外に向けての活動についてお話しいただければ。
伊藤いま自分が進めたいのは、ヨーロッパ向けのほうにいきたいんですよ。江崎さんともお話ししてるんですが、ポール・モーリアやリチャード・クレイダーマンが好きで、ああいうフランス系の音楽が自分のベーシックな部分に結構あったりするので。
木村『ロマサガ1』のアレンジアルバム(『La Romance』)もフランス系でしたよね。
伊藤あれは偶然でしたね。プロデュースしていただいたパトリック・ヌジェさんも初めて知った方でしたし、知り合ってから、「あ、こういう活動をされているのか」って。
 もともとフランス系の映画音楽やニュー・エイジが好きだったので、フランス、イタリア、イギリス、あとノルウェーとかの北欧のほうに、自分のやりたい音楽を向けられればいいなと。ゆくゆくはクロスオーバー・クラシック的なものが出せればいいなと思っていますが、でも、それが一番というわけではなくて。
木村まずは、どこへ向けてじゃなくて、皆さんに向けて。
伊藤うん、基本的にはそうですね。枠を決めないで、聴いてくれるところに向けて。
 我々の立場ってやりやすいと思うんですよ。メジャーに属しているわけでもないし、自分たちの企画や考えで、ベクトルを向ければいい。そういうのを活用したいですね。


ファンの活動について

木村伊藤さんのファンの中には、伊藤さんの曲を自分でアレンジして、ネット上とかで公開している方がけっこういらっしゃいますね。言ってみれば無断でやっちゃってるっていう面があるんですけど、伊藤さんとしてはどう思われているのでしょうか。
伊藤それはもう、しょうがないかなと。でもね、やめてほしいっていう意思も、そんなにないんですよ。趣味として作って、ほかの人にも聴いてもらいたいっていう想いは絶対にあると思うし、そういうところを否定することは、僕にはできないので。コンピレーションアルバムを同人的に作って売ることに対して、著作権侵害だとか、やめてって言ったとしても、やる人はやるだろうし。そういう意味では、特に・・・どっちでもいい感じかな(笑)
木村スクエニにいらした頃の植松さんが言われたのは、僕はいいんだけど、会社(スクウェア・エニックス)としての考えはまた違う・・・と。
伊藤ただね、ネット上に原音をそのまま載せるのは許せないですね。たまに、アルバムの全曲を載せてるようなところがあったりして、僕からスクエニなり他のメーカーに報告したりはしています。
 あと、ライブを隠し撮りして、ネットで流すとかも、やめてほしいですね。ライブに居なかった人のためにやってるんだ、みたいに書いてたりするけど、言語道断というか、ね・・・。ライブをやる側は、来てくれた人たちのためにやってるんであって、他の人たちに向けてやるんだったら他の方法を考えるんだけれど、そういうことをやられちゃうと興ざめしちゃうっていうか。
 例えば、『FF』なり『サガ』なりを、耳コピしてMIDIで作ったとか、自分でアレンジしたというのは、努力した結果というか、自分が聴いて、消化した上での作品発表みたいなところがありますから、それはまだ許せる部分はあるんですけど。
木村その、努力の結果というか、好きが昂じて作られたアレンジなどは、聴かれることはあるんですか?
伊藤ありますよ。むしろ、かわいいな、微笑ましいとか思ったりして(笑) たまにそういうアレンジもので、クオリティが高くて、長く聴かれているものもあるし、僕は結構好きですよ(笑) 「こういう解釈もあるのか」って、自分の曲でも。
木村伊藤さんの曲は、メロディーが印象的で、いろいろアレンジを考えたくなるようなところがあるんだと思います。
伊藤僕らとしては、立場的に容認は出来ないけれども、ただ、自分たちの作品が愛された結果のひとつとも見えるから、頭ごなしに全部「ダメ」とは言えないんですよね。だから、しょうがないかな、みたいな。


こぼれ話

伊藤これはまだどこでも言ってない話だと思うんですが・・・『ファイナルファンタジーIII 〜悠久の風伝説〜』のスタッフリストの最後に、僕の名前も載ってるんですね。僕が入社した頃に、植松さんがレコーディングの準備をしていて、2ヶ月ぐらい経ってからスタジオ見学としてレコーディングについて行ったんです。で、メロディーをシンセで入れていくときに、「お前ピアノ弾けるんだったら、ちょっとやってみようか」ってことで演奏したのが、自分が参加した最初の作品なんです。当時開発してた『Sa・Ga2 秘宝伝説』より前だったので。
 『悠久の風』っていう曲の、メロディーのオーボエとか、いちばん最後の、『FF』のメインテーマのホルンのメロディーの音は、僕が(シンセサイザーで)弾いてるんです。当時「なんでイトケンの名前が載ってるんだ?」とか言われてたんですが、じつは参加してるんだよ、という。

伊藤もうひとつレアな話で・・・『チョコボレーシング』の曲は、『FF』の曲をアレンジしてるんですが、1曲だけ何の曲かわからないものがあるらしくて。
木村『モーグリフォレスト』ですね。
伊藤ええ。
木村あれは、イントロからずっと鳴ってるピコピコ音が『モーグリのテーマ』なのかなと思っていたのですが。
伊藤そこに気づくだけでも凄いんですが、もっと根っこの部分があって、あれは本当は『FF』のメインテーマなんですよ。それを変奏曲っぽくして、あのメロディーにしたんです。
木村へええー!
伊藤コード進行はまさにあの曲ですよ。メロディーはちょっと聴かないと「え?」という感じだと思いますけど。


メッセージ

木村今回はあまりお話を伺えなかったのですが、『聖剣伝説4』についても、特に「ここを聴いてほしい」というポイントがありましたら・・・
伊藤ラストバトル前からエンディングにかけての、一連の流れですね。音楽だけよりも、やはりゲームをプレイして映像と一緒に聴いて欲しいです。
木村それでは最後に、ファンの方々、これからファンになる方々に向けて、メッセージでも宣伝でも構いませんので、お願いします。
伊藤ゲームに限らず、依頼があればやっていきたいですし、『Pures』もそうですが、自分が楽しめるものありきで、なおかつ仕事にもなる、ようなこともやっていきたいなと。ネットTVに出てみたり、ゲリラ的に「こういう所にも出てるのか」みたいな驚かせ方もしていきたいですね。
 曲作りをしていく上では、音楽という原点を外さないようにしつつ、メジャーとかインディーズとか、日本とか海外ということも含めて、全部をボーダーレスにしていきたいんです。自分が本当にやりたいことを、来年からまた探りつつやっていきたいなと思っています。


長時間にわたり、お話しを伺うことができて楽しかったです。これからのことを語る伊藤さんの熱い意欲に圧倒される場面あり、雑談の中から文字通りぽろっと出たこぼれ話ありと、聞き応えのあるお話、そして読み応えのあるインタビュー記事になったと思います。伊藤さん、江崎さん、そして、長い記事をここまでお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!


Interviewed & Interview Contents by Kago. Editorial Supervised by Kahori Ezaki (CocoeBiz., L.L.C.) Contents may not be reproduced or published without the permission of CocoeBiz., L.L.C.



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