2012年1月14日 21時11分 更新:1月15日 1時44分
【台北・大谷麻由美、隅俊之】台湾総統選は14日投開票され、与党・国民党候補で現職の馬英九総統(61)が最大野党・民進党候補の蔡英文主席(55)を振り切り、再選を果たした。08年5月の総統就任以来、最重要課題と位置づけてきた対中関係改善が有権者に評価された。馬氏は14日午後8時(日本時間午後9時)過ぎから台北市内で勝利宣言し、「私個人の勝利ではなく、台湾人民の勝利、台湾の平和路線の勝利だ。台湾の人々の私に対する信任だ。向こう4年で台湾に必要な改革を進めていきたい」と述べた。
中央選管の最終確定結果によると、馬氏の得票率は51.60%、蔡氏は45.63%、もう一人の候補者だった野党・親民党の宋楚瑜主席(69)が2.77%。
中国の胡錦濤指導部は台湾との安定した関係の継続に期待しており、馬氏の再選を歓迎しているとみられる。
中台関係は今後、経済中心の交流に加え、主権問題を含む政治対話への移行が注目されるが、住民の多くが慎重姿勢の中、進展は難しい情勢だ。
馬氏も当選後の記者会見で2期目に訪中するか問われる中で、中国は認めていないが台湾が使用する「中華民国」に触れて「私の正式な身分は『中華民国総統』であり、未来4年間に変わることはない。この身分以外で中国大陸の指導者と会うことはできない」と述べ、中国側が「中華民国」を認めない限り、訪中はないとの考えを示した。
選挙戦は馬氏と蔡氏が激しく競り合ってきた。馬氏が「活力ある経済」「両岸(中台)関係の平和」などの実績をアピールし、中台それぞれが「一つの中国」の原則堅持を口頭で表明する「92年合意」を中台関係改善の基礎と位置づけてきた。
蔡氏は独立志向の強い民進党の候補だったが、中台関係を悪化させた同じ民進党の陳水扁前政権(00~08年)とは一線を画し、民主的な方法で新たな対中交渉の枠組み「台湾の総意」を形成すると呼び掛けてきた。
馬氏陣営は蔡氏陣営の対中政策を「台湾を高い危険に引き込もうとしている」と批判する一方、中国も「民進党はいまだに台湾独立の立場を変えていない。両岸関係は再び不安定になる」と指摘してきた。当選後の記者会見でも馬氏は「両岸政策で両岸の平和と国際社会の安心を得ることができた。だから選ばれた」と勝因を自己分析した。
馬氏は2期目も、対中政策では「統一せず、独立せず、武力行使せず」の原則に従って現状を維持する。また、これまで「先易後難(先に容易、後から難しい課題へ)」の方針によって経済分野中心に施策を進めてきたが、今後は政治分野にも関心を払うことになる。
ただ、政治対話については、その第一歩となる「中台間の戦争状態を終結させる平和協定」の締結交渉に関連して、馬氏が昨年10月、「交渉するか慎重に考慮する」と前向きな発言をしたところ、住民の多くが不安を表明。結局、交渉する場合には事前に住民投票で問う、などと慎重姿勢に転じた経緯がある。
一方の蔡氏は「当選後は党派にかかわらず、各界の優秀な人材を集めて組閣する」として「大連合政府」を打ち出すなど、馬政権との違いを訴えてきたが、政権交代につながるような支持は集められなかった。
馬氏の2期目の就任式は5月20日で、任期は4年。馬氏とペアを組んだ行政院長(首相)の呉敦義氏(63)が副総統に選出される。総統選は96年の直接選挙制度導入から5回目。
馬英九(ば・えいきゅう)氏 1950年7月、香港生まれ。台湾大学卒業後、米ハーバード大で法学博士号を取得。蒋経国総統(当時)の英語通訳をきっかけに政界入り。93年に法務部長(法相)に就任。98年の台北市長選で当時、現職だった陳水扁前総統を破り、初当選した。09年10月から2回目の国民党主席。
★台湾総統選 台湾の総統と副総統のペアを候補とし、有権者の直接投票で選出する。1996年に最初の総統直接選挙が実施され、国民党の李登輝氏が圧勝。2000年は民主進歩党(民進党)の陳水扁氏が国民党候補の連戦氏らを破り、台湾史上初の政権交代を実現し、50年余りに及ぶ国民党の一党支配は幕を閉じた。陳総統は04年に再選したものの、陳総統一家の腐敗疑惑が浮上。08年は民進党が大打撃を受け、清廉なイメージと対中国融和路線の国民党の馬英九氏が、民進党の謝長廷氏を大差で破り、政権を奪還した。今回初めて総統と立法院(国会)の選挙が同日開催された。総統の任期は4年。3選はできない。