食品の放射能汚染が懸念されるが、風評被害を防ぎ、消費者が納得して食品や食材を手にするには、小売り段階で全品検査し、各商品に測定値を表示することが望ましい。そして何より、子どもの被ばく量を抑えることが必要だ。
内部被ばくについては、ICRP(国際放射線防護委員会)が少数の人のデータや動物実験結果を基に、線量換算係数を出している。しかし、低線量被ばくに関して明確な結論はなく、安全基準はあいまいだ。4月から導入される食品の新基準値で、放射性セシウムの被ばく限度を年間1ミリシーベルトとしたのは評価できる。チェルノブイリ事故の被災地に比べ、日本は極めて早期に対応したと言える。
とはいえ、基準値を下げても検査漏れがあれば意味がない。検査用に抽出した食品が基準値以下でも、その他の食品は保証されない。消費者が安心するには、測定値を見比べ、個々の判断で選べるよう全品検査が求められる。
大量の食品を調べるには、ベルトコンベヤーに載せて測るような方法が必要だ。検査機器は大量生産すれば単価は下がる。政府は機器の開発費を投じるべきだ。独自に測定する小売業者も登場しており、民間の動きが広がれば、全品検査は定着するだろう。
子どもの放射線の影響は大人の3~10倍と言われる。将来的な人体への影響が分からない以上、子どもの被ばく量は少ないほどよいとしか言えない。子どもがよく摂取する牛乳や乳製品は飲料水と同じ1キロあたり10ベクレルにした方がいい。粉ミルクなどは大手の製造業者が多く、検査態勢を整えることは可能だろう。
今後は、日本人の消費量が多い水産物に焦点を当てるべきだ。ミネラルをため込む性質がある淡水魚も汚染が蓄積しやすい。水揚げ場所で産地が決まるため、広域検査が必要だ。人が多い場所は廃棄物が増え、汚染物質も集中しやすく、東京湾などに蓄積する可能性がある。やはり汚染が少ないものを流通させるしかない。【聞き手・五味香織】
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■人物略歴
食品からの内部被ばくを研究。62歳。
毎日新聞 2012年3月6日 東京朝刊