プロローグ 川神の姓を捨てた者
――川神院・深夜―――
ここ、川神院の総代部屋に2人の影があった。
バン!
「何で姉さんが総代候補になるんだよ爺さん!爺さんだって知っているだろ!姉さんは自分の力のロクに制御出来ていないことぐらい!」
「しかしのぉ恭也よ、今はそうじゃがモモも歳月を重ねれば己の力の制御も出来るようになると思うのじゃ」
川神院総代である…老武神・川神鉄心
「歳月…だって?ふざけるなよ爺さん!姉さんは絶対に将来、己の力を制御ができないまま、年をとるぞ!?そんな状態のまま、総代にするってのか!!」
もう1人の影は、川神鉄心の孫…長男・川神恭也である。
「じゃが、モモにはあふれるほどの才能があるのじゃ」
「武道ってのは才能だけが全てじゃねぇだろう!」
恭也にも武道家としての才能はかなりのものがある。だが、彼の姉である…川神百代と比べると劣る。
川神院の総代や師範代は百代を次期総代にすることが話に上がっていた。
それを聞いた恭也は怒っていた。鍛錬を真面目にやらない姉・己の力を満足に制御できていないこと。そんな人間が川神院の総代になれるのか?と疑問をもち、祖父である鉄心に話をしに来ていた。
「…俺じゃ駄目なのか?俺は鍛錬を真面目にしているし、自分の力を制御出来ているんだぞ?組み手だって今のところ、俺が勝っているし」
「“今”はの。近い将来、お主はモモに勝てなくなるじゃろうて」
“勝てない”その言葉を聞いた恭也は肩をビクンと動かした。
「……もういい」
ガタ
恭也は立ちあがって、襖を開ける。
「姉さんは将来、危険な存在になるってこと…俺は絶対だと思う。けど、それが分からないんだったら…俺にも考えってものがある」
「…恭也?」
鉄心は恭也が出ていくのを見ながら…己の孫の名を呼ぶのであった。
――恭也の部屋――
ゴソゴソ
恭也は鉄心の部屋から自分の部屋に帰ってきて、数時間後…荷造りをしていた。
自分の貯筋通帳・食料・飲料水などをバックに入れている。
「よっこいしょっと…」
恭也はバックを背負い、木刀と愛刀「正宗」を袖の中に入れる。
「……」
恭也は整理された自分の部屋を見る。
「…この部屋ともオサラバか…ふっまぁ…それもいいか」
感傷にしたっているのか分からないが、恭也は今日を境に川神院を出る決意をした。天下の川神院にいても、強者との経験が無ければこれ以上の成長はないと…恭也は判断した。
恭也は姉の存在のせいか、同い年の子供達と仲良くできず、友も出来ずにいた。
姉の強さを知る者達からすれば恭也も姉と同じ存在だと勝手に判断され、友もいないつまらない学校生活を送っていた。
姉である百代に、あんまり学校で騒ぎを起こさないでくれと言ったことはあったのが、百代は恭也の話を無視。
川神院の修行僧も百代を特別視することがあり、恭也は相手もいないので1人…鍛錬をするしかなかった。
川神院の技も技が書かれた書物を勝手に読み、吸収し、祖父である鉄心の毘沙門天などは覚えることは無理であったが、それら以外の技は全て覚えた。
鉄心に自分にも対戦相手を用意してくれと言っても…姉である百代が優先であったため、経験を積めなかった。
それに加えて次期総代は姉である百代と聞けば黙っている恭也ではない。抗議したが結局駄目だった。川神院にいても自分の居場所はないと思った恭也は、今日…川神院を出ることにしたのである。
――川神院・門――
「…さらばだ川神院」
気を消しながら恭也は門まで出て…川神院を去っていった。
そんな恭也を見ていた人物が1人いた。
「ほぉ?あいつは確か…鉄心の孫の1人だったな…奴に気付かれずに川神院を出るとは…鉄心は何をしていたんだ…奴は原石だぞ。
…面白い、あいつを鍛えてみるのもいいかもしれんな
久しぶりに鉄心の顔を見に来たが…面白いものを見たな」
その人物は、金髪で執事服を着た…川神鉄心のライバルである男
九鬼家従者部隊序列0番…最強の執事…ヒューム・ヘルシングだった。
「となれば…あの赤子に接触するか。何故だろうな…揚羽様と鍛錬をする時よりも心が躍るぞ…ククク…」
シュン
そう、呟きながらヒュームの姿が消えた。
――多摩川・堤防――
「はぁ…いざ出てきたのは良いけど…子供が夜とかに歩いてたら…補導されるだろうな…それに、どこに行けばいいのやら」
恭也、実はどこに行くかも決めていなかったりした。これからの事を考えていた恭也であったが、
「……さっきから俺の事、つけているの…誰?」
恭也は後ろを見向きもせず、そう言うと…
「ほぉ?気配を決していたはずだが…よくわかったな」
恭也の背後にヒュームが現れた。
「何となくわかっただけさ」
「アーハッハッハ!何となくで俺がいると気付くと?(こいつは、磨けば光るな本当に…)俺の名はヒューム・ヘルシングだ」
ヒュームの名を聞いた恭也は視線をヒュームに向けた。
「ヒュームだって?爺のライバルの?」
「俺の事を知っているなら話が早い。お前、川神院を出たんだな?」
ヒュームの質問に頷く恭也。
「お前は面白そうだ。九鬼に来ないか?」
「九鬼に…ですか?」
「そうだ。鉄心はどうやらお前に眠る才能を開花させる事が出来なかったとみる」
「俺の…才能?」
「ああ。まだ赤子だが…自身に秘めている力を開花させればどうなるか…」
ヒュームの話を聞いて恭也は黙りこむ。自分の話をしっかりと聞いてくれたのはヒュームだけだったからだ。
「…本当にヒュームさんの元に行けば俺は…強くなれるんですか?」
「強くなるならないはお前次第だ。強くなるには努力が必要だ。
が、俺の指導は川神院よりも過酷だぞ…それでも…俺に付いてくるか?」
「………」
目をつぶる恭也。
そして、目を開け、
「俺を…鍛えて下さい」
「フッ…そう言うと思っていたぞ」
ヒュームは歩き出した。
「ついて来い恭也」
「…はい!師匠!」
恭也は笑顔になり、ヒュームの後に付いて行った。
そして、朝になり恭也がいなくなっていることが分かった川神院は騒いだ事を恭也はしらないのであった。
そして…時は10年経ち、川神恭也改め桜井恭也は17歳になった。
*帰ってきたら何故か消えていました。
なので、もう一度投稿し直します。
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