第13話 滝までの道のりはハイキングコース並みでした
滝までは歩いて2時間くらいらしい。
ちなみに私の耳に2時間と翻訳されただけで実際は1刻といっていた。2時間が1刻。一日が何時間あるのか、刻よりも短い単位は何があるのかとか、ぜひ聞きたいけど、それ聞くとあまりにも不審者すぎるから聞けなかった。
彼らが時間についてなにか言ってくれるのを聞いて判断するしかないよね。「30分ほど休憩しましょう」とか判りやすいこと言ってくれないかな。覚えるから。
水とお弁当らしきものをシアンさんが準備してくれた。
番人さんが何も食べてないかもしれないしね。
弁当の準備は私も手伝ったわよ。何にも出来なかったけど。
山登りはさすがに暑いだろうし、黒眼黒髪うんぬんの危険もなくなったからコートは宿泊所においてきた。
ほんとはアイテムボックスにしまいたかったんだけど、彼らが手に荷物を持っているってことはアイテムボックスはこちらの人にとって非常識なことだろうから内緒にしておいたほうがいいかなって思い、泣く泣くおいてきた。ううう。絶対帰ってくるからまっててね私のコート。
異世界人だということ以外では、人のステイタスを見ることができることとアイテムボックスは私のトップシークレットだ。
これは知られるとかなり面倒なことになる。どっちも軍事利用し放題だからね。
私も水くらいは持ちますって言ったんだけど、ここから滝まではちょっとアップダウンが厳しいらしい。
で、見るからに運動できなさそうな私は「転んでも大丈夫なように両手を空けておけ」だって。
くそっ、判っていやがるヴァンさんめ。
いやあ、騎士ってすごいよね。
鎧つけて、腰には重たそうな剣も差してるのにすいすい歩くんだもん。
魔獣を警戒して、ヴァンさんが前を歩き、数歩遅れて私、私のすぐ斜め後ろをシアンさんが歩く。
しぜん、会話はだいたいシアンさんと私で、時々ヴァンさんがそれに加わる。
「勝手にこの森に入りこんで青つゆ草を採ったら捕まっちゃったりするんですか?」
「節度を守ってくれるのなら特に罰則はありませんよ。
小さな村には癒し手がいませんので薬草で治すしかありませんから。このあたりの村で病人がでると採りにきているようです。」
「シアンさん達も青つゆ草を採りに来たんですよね?」
「城には定期的に届けてもらっています。
今回は少しこちらに来る用事がありまして、手持ちのものが少なくなりましたから都合をつけてもらおうかと。」
それからシアンさん達はこれからの私の身の振り方について説明してくれた。
「このあたりは小さな村はいくつかありますが、どこも農家や猟師、木こりのようなものしか住んでいません。リィーンが生活するには辛いと思いますよ。
一番近くの街は、我々が今住んでいるコルテアという街で、ここから馬車で4日ほどかかります。
コルテアは我が国では王都につづいて2つめの大都市ですから、人も多く、さまざま仕事をしている人がいます。そこならリィーンでも出来る仕事がきっと見つかるでしょう。
癒し手の技術があるなら診療所か、一定以上の魔力が求められますが騎士団でも癒し手として働くこともできます。
我々がコルテアまで連れて行ってさしあげられればいいのですが、今は公務中で、これから青つゆ草を受け取って次の目的地に行かなくてはいけません。少し危険な場所に行くことになりますから、リィーンを連れてはいけません。
ここの番人が定期的に青つゆ草を届けにコルテアに来てくれていまして、次の配達がもうそろそろです。そのときにあなたも一緒につれていってもらえばいいでしょう。
彼も面倒見のいい御仁ですからね。それまでは宿泊所で面倒をみてもらえばいいでしょう。」
「でも私、お金も何も持っていないのに。」
そういうとヴァンさんも
「親爺も話し相手ができて喜ぶんじゃねぇか。金のことは気にしねぇでいいからしっかり手伝いでもして世話になっておけばいいんだよ。」
と言ってくれた。
うう、ありがたい。
身元不明の一文無しの超不審者な私に。ヴァンさんもシアンさんもいい人だ。これも騎士道精神ってやつなのかしら。
ヴァンさん達がそういうなら番人さんもきっといい人だ。
宿泊所で泊めてもらう間、番人さんのお役に立てるよう頑張ろう。
そしてその間にこの世界についていろいろ教えてもらうとしよう。
最初はいろいろシアンさんと話しながら歩いてたんだけど、だんだん道が険しくなってきて、私はすぐにバテた。
毎日番人さんや採取の人たちが通るから道はちゃんとあるんだけどね。
滝はすこし山の上にあるんだそうな。
ハイキングコースだよ。アスレチックもかくや、だよ。
この道を毎日歩いているなら、番人さんもきっとワイルド親爺だ。
途中魔獣にも何度か遭遇したけど、どこから魔獣が出てきてもどちらか、あるいは二人揃ってあっという間に倒してしまう。
私の出番はまったくなかった。
剣での戦いを初めてみたけど、そのスピードと斬激のすさまじさに声も出なかった。
ヴァンさんはあんなに大きくて重たそうな身体をしているのに、いざ戦うとなったら放たれた矢みたいに一瞬で敵に近付き、抜刀したと思った時にはもう魔獣が倒れてた。
はじめてヴァンさんに会った時、『赤獅子』じゃなくてどうみても熊じゃんと思ったけど、こうやって戦う姿はなるほど獅子だと思った。
シアンさんもスピードのある攻撃なんだけど、しなやかでムダのない動作はまるで踊っているみたいだった。
『貴公子』の称号は伊達じゃない。
すごいね。誰が考えたんだろう。称号。
「をを!あれこそ『赤獅子』だ。」とか、「きゃあみてステキ。『氷の貴公子』さまだわっ。」とかそんな感じでみんなが呼んでるのかな。
誰かがそう呼ぶから称号がつくのか、その称号がついたから皆がそれを呼ぶのか。
そういえば私の称号って『異世界の旅人』だけど、誰が決めたのこれ?
誰も私が異世界人だって知らないのに。私だって「どうも!ワタクシ『異世界の旅人』です」とか言ってないのに。
もしかしたらこの世界の神さま的な存在が称号を決めてるのかも。
だとすると神様ってきっと厨二。
うっはこいつテラいけてんじゃん。とか赤獅子TRUEEEEEEEEEE とか言ってそう。神さまパネェ。
うーん。
ほんとにどうでもいいこと考えてた。うん。この考察。いみなしね。
ごめん。道の険しさが辛くてさ。妄想に現実逃避してしまったZE。
あ、そうそう。
ひとつ新しいスキルも覚えたぜ。
宿泊所までみたいな1本道じゃなかったから、迷ったらどうしよう私二人とはぐれたら確実遭難するって思って枝分かれする道をみるたび必死で暗記してたら、
-スキル『マッピング』を取得しました-
と文字が浮かんだのだ。マッピング。歩いた道が勝手に地図になっていく。
しかもパッシブスキルだ。常時発動してるやつね。MP消費もなし。なんて便利。
日本にいる間に欲しかったよこの機能。
「駅を出たら東にまっすぐ」っていわれて「東って具体的にどっちですか?」って聞いた過去の私よ、サヨウナラ。
これで迷う心配はないわね。
-リィーン・カンザック-
HP(生命力):438/586
MP(精神力):728/728
種族:ヒューマン
年齢:22
職種:魔術師
属性:【光】【火】【水】【地】【風】【無】
スキル:索敵・隠密・マッピング
称号:『異世界の旅人』
状態:
スキルを確認しようとステイタスをみたら、私の名前が変わってました。
神崎美鈴じゃなくてリィーン・カンザック。
日本に帰るその日まで、神崎美鈴は封印します。
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