政府と東京電力は昨年12月、福島第1原子力発電所が安定した「冷温停止状態」になったと宣言した。今年2月20日、報道陣に公開された所内は落ち着きを取り戻してはいたが、安定を維持するための設備のもろさも目に付いた。今後、廃炉へ向けた作業が本格化するが道は険しい。
チカ、チカと緑色のランプが点滅する。トラックの荷台に載せた3台の注水ポンプが動いているしるしだ。
冷温停止状態を維持する“命綱”の仮設ポンプは福島第1原発の敷地ほぼ中央の高台(標高約35メートル)にある駐車場に置いてある。炉心溶融(メルトダウン)を起こした原子炉に冷却水を送り込む。
原子炉を冷やす「循環注水冷却」システムは炉の汚染水を水処理装置へ送り、浄化してから高台のポンプへ水を揚げて再び原子炉に戻す。1~4号機の周囲にぐるりと引き回された仮設の配管は約4キロメートルに達する。
樹脂製の配管は凍結を防ぐため黒いゴム製断熱材で覆ってある。段差のある場所では金具で固定したり道路脇の側溝に収めたりしてあり、破損防止への配慮はうかがえる。しかし「冷却システム」と呼ぶにはあまりに心もとない、急ごしらえの寄せ集め装置群にみえる。この冬は凍結による水漏れも頻発した。
核燃料が発する崩壊熱は時間とともに減っている。仮に冷却が止まっても、危険な状態に陥るまでの時間は以前より長い。高台の注水ポンプも、予備の3台のポンプを載せたトラックが隣に控える。
「冷温停止状態」は回転するコマに似ている。うまく回っている間は安定しているが、勢いが弱まれば倒れてしまう。不安定さを抱え込んだ「安定状態」にすぎない。
危うさを秘めながらも、敷地内では新たなステップ(核燃料の取り出しと廃炉)へ向けた作業が本格化しつつある。最も進んでいるのは4号機だ。水素爆発で壊れた原子炉建屋の上部からがれきや、天井を支えていた構造物が撤去されている。
報道陣に公開された日には最上階に作業員の姿が見え、巨大なクレーンが作業資材を上げ下ろししていた。4号機の核燃料プールに入っている使用済み核燃料はあまり損傷していないもようで、2年以内に取り出し始める計画だ。
1~3号機の溶け落ちた燃料は取り出す技術がなく新たに開発しなくてはならない。原子炉内部の状況をまず確認したいが「放射線量が高い所では既存のカメラや光ファイバーなどは役立たない」と専門家は話す。2号機の温度計も一部、壊れてしまった。
遠隔操作のロボットを改良し偵察を試みているが、先は長い。少なくとも30~40年はかかる廃炉の第一義的な責任は東京電力が負うにしても、国が強力にバックアップしなければ達成は難しい。スリーマイル島原発事故を経験した米国など世界の知恵と技術を集めて取り組む必要がある。
(編集委員 滝順一)
東京電力、福島第1原子力発電所