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03年 1月21日発行(裏50号)
「 裏DIGITAL-G ネタ版 」
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<はじめに>
とある休日の午前中、彼女が俺に声をかけた。
「ね、YUKI。これはなぁに?」と。振り向き、凍りつく、俺。( ;゜д゜)
「ねぇねぇ『制服の中のめしべ1』って、なに? いやらしいビデオ?」
あぁ・・・やっちゃったよ。前夜、片付けるの忘れてた・・・。
えぇえぇ、そうです、その通りです。いやらしいビデオでございます。
しかも、2ちゃんのふぇち板黒タイツスレで絶賛されたヤツです。(´_`)ゞ
パンツ脱がした後、ご丁寧に黒タイツだけまた穿かせてするんですよ。(´_`)ゞ
言えねぇだろ、そんなこと・・・。「ごめんなさい」とヘコヘコする、俺。m(_ _)m
「ふーん・・・。忙しいとか言って、こういうの見る時間はあるんだ・・・」
ども、すっかり頭の上がらない毎日のYUKIです。とほほ・・・。どもども。
というわけで、第7話。今回は前作を読んでいると分かりやすかったり。
ではでは。
第2部 「恥辱の限りを」 第7話
(主な登場人物)
*森崎優花 21歳 W大3年、英文学部、気は強く情にもろい、スポーツ好き、テニスサークルの華
*坂木沢龍次 19歳 W大1年、法学部、テニスサークルで腕前は一流、見た目はもろにナンパ野郎
*天野一也 21歳 W大3年、理学部、小学校から隣家の優花と交際3年、まじめ、頭はいいが・・・
*高倉まりえ 27歳 T工大助教授、W大講師、前作のヒロインで影の主役。苗字変わってますな
一方、その頃―。
「もうそろそろ、終わるかな」
目がしょぼつく。徹夜明け2日目ともなると、さすがに疲労の色は隠せない。昼食をとるため席を立つ時間さえもどかしく、サンドイッチの最後の一口を放り込んで缶コーヒーと一緒に流し込んだ。包装紙を机のわきのごみ箱に落としてマウスをつかむ。画面がパッと明るくなって、数字の羅列が一面に広がった。
明け方、ようやくデータ入力を終えた、ある特定の塩基配列の演算。もう結果が出るころだろう。瞼を何度もこすりながら、キーボードを叩く。もう少し、もう少しだ。確たる根拠などないけれど、なんとなく、怪しい。ずっと気になっていた。まりえに話したら笑い飛ばされそうだからと打ち明けずに黙っていた。指示された研究の合間を縫って、ここ数週間ずっと、1人で取り組んでいた。もうすぐ、その結果が出る。推定されるタンパク質の構造が現れるはず。ディスプレーを流れていた数字の列が止まったのを確認すると、大きく息を吸ってEnterを押した。
「さぁ、ちゃんと出てくれよ」
一昨日から、優花とは会っていない。今朝1回だけ、「元気? 無理しないでね」とメールがきた。たった一行のメッセージだけど、優花の思いやりが伝わってくる。たったそれだけのことが、とても嬉しいと感じる。また頑張ろうと思うエネルギーになる。いつも自分だけに見せてくれる無防備な、無邪気な笑顔を思い浮かべる。机の上に投げ出していた携帯のストラップを、優花からもらった小さな狸のマスコットのついたストラップを両手で包み込むようにして、祈るような思いで目を閉じた。ゆっくりと小さく、10までつぶやき、数えた。そして、開く。
「なんだよ、これ・・・。こんな、の、ありかよ・・・」
信じられない。驚きを通り越して、思わず目を見張った。
「先生っ! 高倉先生っ! 高倉先生っ!」
イスを後ろになぎ倒して怒鳴った。コンピューター制御の分析機器がずらりと並び、書類と学会誌があちこちに雑然と積まれた殺風景な研究室で、突然の天野の叫び声が昼過ぎののんびりとした雰囲気を破る。
「すごいわね・・・」
画面に浮かぶ立体構造を、体表面に沿ってまりえの細い指がなぞる。コンピューターが描き出した複雑な形状のタンパク質の表面はプラス電荷を意味する赤色ですべてが染まっていた。いつものように天野の左肩に手を置き、肩越しに右側から白衣の身を乗り出して覗き込むまりえのほのかな甘い香りも、肩に触れる柔らかな感触も、昂奮しているせいか今は全く感じない。耳元で何度も、「ピピンて、ピピンって、くるわねぇ・・・」。そう何度も漏らしている。
「もしもし、T工の高倉です。あぁいえ、この前はどうも。いえ、こちらこそ」
じっと画面から視線を逸らすことなく、受話器を取り上げた。
「それで先生、急ぎでちょっとお願いがあるんですけど、そちらのホストを1台、貸していただけないかしら。・・・先生、そんな堅い事おっしゃらずに。・・・そこをなんとか、えぇ、今すぐにでも・・・。それなら、筑波の方で・・・。えぇ、ほんと、いつもお世話になりっぱなしで。・・・ありがとうございます」
まりえの、さらさらの長い黒髪が揺れる。透き通った瞳、真っ白で滑らかな肌、薄く艶かしい唇、成熟した大人の魅力と愛くるしい幼さを併せ持った清楚な横顔を見やった。
「それじゃ、すぐに送りますから。うちの若い子がとってもおもしろいデータを導き出してくれたの。えぇ、よろしくお願いします」
電話を終えたまりえがようやく、天野の方へ。「よくやったわ」と言って、吐息がかかるほど間近で顔を向けた。その大きな瞳は優しい光を帯び、真っ直ぐに見詰められて思わず、ドギマギしてしまう。
「これ、ずっと1人で頑張ってたのね。えらいわ、天野くん。さすが、私が見込んだだけのことはあるわね」
「そんな・・・。ただちょっと気になってただけで・・・。まぐれみたいなものです」
大きく開いたシャツの胸元で、真珠のネックレスが煌いている。見詰め返せず、俯いた。まりえの前髪が額に触れた。
「勘だけど、このタンパク質でほぼ間違いないと思う。あなたが研究、大きく進展させたのよ。自信持っていいわ。ほら、しゃんと胸を張りなさい。男の子でしょ」
天野の頬に右手を添えて上向かせる。まるで、これから口づけを交わそうとする恋人同士のよう。天野にとって研究室に入ってからというもの、まりえに怒られることこそ何度もあったが、誉められるのは初めて。それも学会で注目を浴びている一線の若手研究者から「見込んだ」とまで言われた。自分のことをそんな風に思っていてくれたなんて、考えたこともなかった。
「あ、ありがとうございますっ」
じんわりと、身体の奥でこそばったいような喜びが沸き起こる。そういえば、誰かに怒られることも、こうして誉められることも、両親を失ってからはずっとなかった気がする。優花の両親はとても優しく接してくれるけれど、怒られたりしたことはなかった。優花ともケンカはするけれど、やっぱり違う。先生は俺のこと、ちゃんと気にかけてくれていたんだ。不意に、まりえに、懐かしい家族の面影が重なった。
「さてと、天野くん。今すぐ、あなたが入力してくれた塩基のデータ、筑波のBRC(理化学研筑波研バイオリソースセンター)に送っておいてね」
立ち上がったまりえは白衣のポケットに無造作に手を突っ込むと、いつもの少しキツい口調に戻った。ブラインドの隙間から午後の陽射しが小柄なその姿を穏やかに照らしている。
「はい、分かりました。この前のところに繋げばいいんですよね」
ニッコリと微笑み返したまりえに「そうそう、今夜、時間あるかしら。ご褒美になにかおいしいものご馳走してあげるわ。いつもパンとカップラーメンじゃ、身体によくないでしょ。これからもっと忙しくなるのに、天野くんに倒れられたら困っちゃうからね」と、思いもかけない誘いの言葉を投げられた。
優花は今日、サークルを引退した仲間と日帰りで遊びに行っている。おそらく帰りは遅くなるだろう。サツキからは、サークル恒例の宴会もあるはずだと言われていた。
「はいっ、大丈夫です。よろこんで」
まりえの後姿を見送ると、机の引出しから水色の小箱を取り出した。今年の夏、サークルに打ち込む優花に会えない日に励んで貯めた、なけなしのバイト代をはたいた。昨日、新宿のデパートまで行って買ってきた。小さなダイヤのリングだった。
優花、寂しい思いさせてゴメンな・・・。俺、頑張ってるよ・・・。優花が側にいてくれてるから、頑張れるんだ・・・。今度の研究、うまくいったら・・・。そのときは、もう1度“告白”するから・・・。そして、俺と・・・。
「すごく、おいしいですね・・・」
次々に出てくる料理を味わうたび、素直に驚き、感嘆した。
根菜の突出しから締めのブリの照り焼きとご飯、しじみの味噌汁まで、質素で淡白な味付けの裏側に旬の素材をとことん活かし尽くした料理人の丁寧な仕事振りが滲み出ている。和食だとまりえに聞かされ、てっきり大学近くの定食屋かと思った。
「そんなにたくさん召し上がっていただいて。ほんとにありがたいこと。お客さまのお口に合ったようで何よりです。ご飯、お代わりいたしますか」
品の良い、四十代半ばぐらいの女将がしゃもじを手に静かな笑みを見せている。神楽坂の路地裏にある古い木造の料理屋。店の名前も何も出ていない。ただのれんだけが下がった、一見ではただの民家と間違えそうな小さな店の奥座敷でまりえと向き合っていた。自分は今、ものすごく、贅沢な食事をしているのだろうと思った。
「お腹いっぱいになった?」
「はいっ、もう食べられません」
まりえの方は、千枚漬や塩辛なぞをつまみに燗酒をちびりちびりとたしなんでいる。「この後、主人と待ち合わせているから、食事はそのときにね」と言って。ほんのりと朱に染まった頬。研究室で見せる凛々しさはなく、初めて垣間見る柔らかな雰囲気をまとっていた。
まりえが手洗いに姿を消し、ビールで泡立つコップに口をつけていると、強い視線を感じた。和服姿の女将がじっと、穏やかな表情はそのままに、まるで天野を品定めでもするかのように見詰めている。
「あの・・・何か!?」
「あら、失礼をしてしまったかしら。ただちょっと、まりえ先生が気に入っていらっしゃるようですから、お客さまはどんなお方なのだろうと思いましてね」
「先生が、俺を? 気に入っている? そんな馬鹿な」
そんなことあるはずがない。「ほかの分野に転向した方がいいんじゃないの」とまで、日ごろは散々な言われようなのに。思わず言い返した。にも関わらず、女将は「えぇ、とても気に入っていらっしゃると思いますよ。まりえ先生にはもう、10年近くご贔屓にして頂いていますけれど、ご主人とご家族と、ごく親しい友人の方しか、うちにお連れになられたことないんです。若い学生さんは、あなたが初めてなんですよ」
「たまたまでしょ」と笑い飛ばす。そんなことより、嬉しい気持ちに任せて聞いてみた。いつもより調子よく飲んで酔った勢いか俄然興味が湧く。
「高倉先生って、若いころ、どんな感じだったんですか」。身を乗り出して問うた。
「それはそれはもう」。正座した女将は畳に指をついて天野の方に向き直り、「とっても可愛らしいお嬢さんでねぇ・・・」。遠い目をして言葉を継いだ。
「高校を出てすぐ涼二坊ちゃん、あ、ご主人と結婚されてうちのお店にこられるようになったんですけど。あの頃はおしとやかで可愛らしくてお優しくて・・・」
「えっ、先生って、高校出てすぐ結婚してたんですか」
「ご存知なかったの。同じ高校の同級生だったんですよ。とっても仲がよろしくてねぇ」
「初枝さん、少しおしゃべりが過ぎるわよ」
いつの間にか戻ってきたまりえに振り向き、女将は「あらやだ。すぐにおビールお持ちしますからね」と慌てて襖の向こう側に逃げていった。
「だいたい『あの頃は』って、どういう意味なのかしらね」。そう言ってお猪口をぐいっと開ける、まりえの顎から細い首筋、開いた胸元にかけてほんのりと赤い。白衣の上からもはっきりと分かる二つのふくらみは、身体にフィットした淡い色のブラウス越しに尚の事その豊かさを誇示している。スタイルの良さは優花と同じだが、吸い込まれそうなゾクリと惹かれる魅力はまるで違う。あらためて、女の色気を強く発散する美貌に目を奪われた。
「先生、高校の同級生と結婚したんですってね。やっぱり先生から告白したんですか」
「天野くんまで・・・。『やっぱり』って、どういうことかしら」。潤んだ瞳でじーっと斜に構えて見詰められた。やば、先生、絶対酔っ払ってるよ。
「あ、いや、何でもないです。すいませんっ、で、その、えっと、じゃぁ、先生のご主人って、どんな人なんですか」
とりあえず、話題を変えよう。先生みたいにきれいで、人生強気で押していける人が、どんな男の人と結婚したのか。それも、すごく興味あるし。こんな風に2人で飲みながら話す機会もなかなかないし。というか、初めてじゃないか。
「そうね・・・。私の、ご、主人、さま、は、ねぇ・・・」。ゆっくりと言葉を区切って話し、またお猪口を一気に開けると、悪戯っぽい表情を浮かべて座卓に身を乗り出した。
ご主人さま!? いつものように、からかわれているんだと受け止めた。
「彼はね、私のすべてよ。彼が私のすべて。私が今、こうしているのも、彼と出会って、自分でも気付いていなかった本当の私を教えてくれたからなの。これから生きていくのも、ぜ〜んぶ、彼がいるから。それでね、私のすべて、心も身体もすべて、ぜ〜んぶ、彼のものなのよ。分かってくれたかしら、天野くぅん」。さらりと言ってのけた。
「はぁ・・・」
いや、聞きたいことはそういうことじゃなかったんだけど・・・。そんなにのろけなくても・・・。理論派で合理主義者だと思っていた指導教官から、思いも寄らない“のろけ話”を聞かされ、苦笑いして相槌を打った。
「ところで、天野くんはうまくいってるの、彼女と」
「えぇ、もちろんです」
愛しい恋人の顔が脳裏に浮かぶ。
「そう・・・。なら、いいんだけど・・・。でも、彼女、とってもきれいな子ね。ずいぶん言い寄られたりしてるんじゃないかしら。心配じゃなくて、彼氏としては」
「ま、ナンパされたりとか、結構そいうのはあるみたいですけど。でも、優花は、彼女は『一也だけだよ』って『心配なんかしなくていいよ』って言ってくれてるから別に心配してないです。俺も、彼女を信じてるし」
無意識のうちに対抗した。少しだけ、のろけてみた。
ところが、「ふぅーん・・・」。まりえは手酌すると一気に飲み干す。お猪口を座卓にカツンと音を立てて乱暴に置くと、「それだけ・・・なの?」。一転して声が冷たい。
「えっ!? それだっけって、どういう・・・」
戸惑い、聞き直す。
「信じてるだけ、それだけじゃ、だめよ。いいこと、天野くん、よく聞きなさい」
「先生、ちょっと、どうしちゃったんですか」
あぁ、いつもの説教モードに入っちゃったよ。なんなんだよ、一体。のろけたり、怒ったり。こうなったら、聞くしかない。がっくりと肩を落とし、しきりに長い髪をかきあげて射るような視線を投げる瞳を上目で見た。
「男と女なんて、そんなキレイ事だけじゃ済まないのよ。信じてるとか、そんな甘っちょろいこと言ってるだけじゃ、いつか彼女、奪われるわよ。どんなに信じてたって、裏切られるし、傷つけられる。それが嫌なら、本当に彼女のことが大切なら、誰にも渡したくないと思うのなら、ただ優しい顔をしてぼけっと信じてるだけじゃなく、力づくでも彼女を繋ぎとめなきゃ。身も心も徹底的に自分のものにしなさい。男の子でしょ、そのぐらいの強さがないとだめよ。大丈夫、天野くんには素質があるわ。私の見込み違いじゃなければ、だけどね」
まくしたててまた、燗酒を煽った。
「天野くんにはいずれ、そっちの方も指導してあげようかしら・・・」
まりえの瞳に、妖艶な影が揺らめく。
「分かった?」
「はぁ・・・」
優花が自分を裏切ることなど到底想像できない天野にとって、今ひとつピンとこない。あいまいに返事をしてビールに手を伸ばしたとき、スーっと襖が開いて女将が顔を出した。
「ちょっとよろしいかしら。まりえ先生、涼二坊ちゃん、お見えになりました」
「えっ、涼二がっ」
パァッと満面に笑みを広げて、天野のことなどまったく眼中になく、「涼二、お帰りなさいっ」と明るい声をあげて座布団の上から跳ね上がるように立って迎えに出て行った。女将が「ね、とっても仲よろしいでしょ」と微笑んだ。
自宅のベッドに仰向けで転がる。全身がふわふわと浮いている感覚。少し飲みすぎたよう。薄暗い自室で、ほろ酔い気分で天井を眺めた。
「高倉先生、本当に旦那さんに惚れてるんだな・・・」
背の高い夫の胸に抱きつき、しなだれかかり、無邪気に甘えるまりえの子供のような顔を思い出す。初めて会ったまりえの夫は、まるで獰猛な肉食動物のように鋭い雰囲気をたたえながらも、優しくまりえの肩を抱き、長い髪を撫でていた。丁寧な口ぶりで交わした挨拶の言葉の端々に、芯の強さを感じた。俺も、あんな風に頼り甲斐のあるいい男になれたらな・・・。ぼんやりと考えた。
ベッドサイドに放り投げていた携帯電話を取り上げる。
優花・・・。無性に会いたくなる。もうすぐ11時。せめて、声だけでも・・・。朝から何度かかけてつながらなかった短縮を押した。まだ帰ってこないのかな・・・。静まり返った部屋で、呼び出し音に耳を傾ける。こういうときに限って、会えない。声が聞けない。携帯を切ろうと指を動かした瞬間、つながった。
「もしもしっ、優花っ」
自分でも思いがけないほど、大きく呼びかけた。しかし、電話の向こうから返事はない。
「優花!? もしもし、優花、優花、俺だよ。もしもーし」
何度か呼びかけてようやく、「・・・あ、一也、・・・ごめんね」。聞きたかった、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「今、電話、大丈夫?」
「あ・・・うん、平気・・・ちょっと、なら・・・」
周囲に気を配っているのか、いつもより口数が少ない。心なしか声も小さい。
「今日、何時ごろ、帰るのかな・・・・・・優花?」
「ごっ、ごめんね・・・。今日は・・・帰れそうもないの・・・。もっと早く、電話しようと、あ、あ、電話しようと、お、思った、ん、だけど・・・」
「そうか・・・」。がっかり。思わずため息がこぼれた。
「ごめんね、本当に、ごめんね・・・」
しょうがないな。「うん、分かったらから。そんなに謝らなくてもいいよ。あんまり、飲みすぎないようにね・・・・・・もしもし、もしもし、優花!?」
「あ、ごめ、ん、んんっ・・・ごめんっ」
「ほんと、大丈夫? 飲みすぎじゃない」
「そう、かも・・・。それじゃあ、ね、・・・一也、も・・・気をつけ、て・・・ね。それじゃっ」
「あ、優花っ」
「・・・ん、なぁに!? あっ、やぁんっ、あっ」
「どうかしたの、優花!?」
「ごめ・・・あ、ごめん、・・・何でもっ、何でもないの。お酒、ん、こぼしちゃっ、てぇ、ん。ごめん、ねぇ・・・」
声が艶っぽく上ずっている。こりゃ相当、飲んだな。あんまり飲めないのに。
「そっか。じゃ、また明日、電話するから。無理するなよ。お休み」
「・・・あ、一也も、研究頑張ってね、ずっと、応援してるからね」
「ありがと。優花、大好きだよ」
「うん・・・ありがとう」
携帯を枕もとに置いて目を閉じる。そのまま、深い眠りに落ちていった。優花が「大好き」という天野に、「私も」ではなく「ありがとう」と、違う言葉で答えたことは今までなかった。それすら気付かず、眠った。
(つづく)
*「鬼椿」次回予告*
優花が龍次の手の内にあることを知らず、まりえとの食事でほろ酔い気分の天野。
仲睦まじいまりえ夫妻の姿を見て羨ましく、思わず恋人に電話した。その時、優花は・・・。
少しずつ、歪んでいく3人・・・。次回「背徳と快楽と」。君は寝取られの涙を見る。w
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(c)YUKI 無断転載等禁止
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