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クロスベル編(ここから先、零・碧の軌跡ネタバレ)
第五十三話 潜入、黒のオークション(前編)
<保養地ミシュラム ブティック『コルセリカ』>

ホテルに戻ったエステルとヨシュアは、特務支援係の班長であるセルゲイの指示に従って、ショッピングモールにあるブティックで服を揃える事にした。

「うわあ、高い服がたくさんあるわね」

エステルは値札を見て驚いたようにつぶやいた。

「こんな高い服を任務のためとは言え、プレゼントしてくれるなんて、ディーターさんは凄いよね」
「あたしはドレスより、スニーカーの方が良かったわ。だって遊撃士の仕事をしていると、ドレスなんて着る機会がないもの」
「誕生日プレゼントじゃないんだから」

ヨシュアはエステルの言葉にため息をついた。
オークションに参加する客として潜入するので、イメージを大きく変える必要がある。
しかしエステルとヨシュアは社交パーティに出席した経験も無いので、コーディネイトはブティックの店長に任せる形となった。
試着室に案内されたエステルとヨシュアは、店長に勧められた服を持って中へと入る。
ヨシュアには白いタキシードスーツと度の入っていないダテメガネ、印象を変えるためのアイテムを渡された。

「なんか、結婚式に出るような服装だな……」

タキシードに着替え終わったヨシュアは、鏡に映った自分の姿を見てそうつぶやいた。
そして今日の昼間にテーマパークの鏡の城で見た自分達の姿を想像する。
隣に立っているエステルは、グランセル城でクローゼが着ていた様な白いドレスを身に付けて、ヨシュアと腕を組んでいた。
2人の結婚を祝う人々の歓声や教会の鐘の音まで聞こえて来たような気がした。

「ねえヨシュア、どうしたの?」

試着室から中々出て来ないヨシュアを不思議に思って、エステルが声を掛けた。

「ごめん、すぐに行くよ!」

妄想の世界から引き戻されたヨシュアは、エステルに大きな声でそう答えて試着室から飛び出した。
すると、ヨシュアの目に飛び込んで来たのは、大きく胸元が開いた真っ赤なドレスを着たエステルの姿だった。

「うわっ!」

ヨシュアは驚いた声を出して、掛けていたダテメガネを落としてしまった。

「そんなに変かな?」

エステルが困惑した顔で尋ねると、ヨシュアはあわてて首を横に振る。

「いや、そんな事無いよ」

セクシーと言うワードはエステルに無縁の物だと思っていたヨシュアは、エステルの変身ぶりに驚いた。
おてんばな貴族のお嬢様をイメージしたらしいのだが、上手く化けたものだとヨシュアは感心した。

「で、でも、ちょっと目立ち過ぎじゃないかな?」
「だけど、あたしって笑ったりするから、この方が自然なんだって」

顔を赤くして尋ねるヨシュアに、エステルはそう答えた。
確かに、エステルに表情や立ち振る舞いまで礼儀正しくさせようとしたら、固くなって不自然になってしまうかもしれないとヨシュアは納得した。
それにこのドレスならアクセサリーにつける宝石類が少なくて済むとブティックの店主に言われ、エステルはそのドレスに決めた。



<保養地ミシュラム 宝飾店『ディアマンテ』>

次にエステルとヨシュアは身に着ける宝石のアクセサリー類を借りるために、宝石店へと向かった。
2人は貴族のような服装に着替えていたので、店の入り口でガードマンに止められる事も無く、中に入る事が出来た。
宝石店の中では、分厚い防弾ガラスのケースの中に宝飾品が陳列されており、店の所々で店員が貴族の客に対して宝飾品の説明をしている。

「あたし達、何か浮いている気がするわね」
「でも、今のうちにこういう雰囲気に慣れておかないと」

エステルとヨシュアはアリシア王母の晩餐会に参加した事があるが、知り合いに囲まれていたので、あまり緊張はしなかった。
立ちつくしている2人の所に手の空いた店員が近づいて来て、会員証の提示を求める。

「あの、あたし達、会員証は持っていないんですけど……」

エステルがそう答えると、店員は丁重にこの店は会員制だと告げた。
困ったヨシュアがディーター総裁の名前を出すと、接客をしていた、店の責任者であるマネージャーがエステル達の所へとやって来た。
マネージャーはディーター総裁から話を聞いているようで、エステルが着ている赤いドレスに似合う宝飾品としてエスメラスのネックレスとイヤリングを勧められた。

「あたし達、市長さんの依頼でエスメラスの大きな結晶を運んだ事はあったけど、こうして宝飾品になったのを見たのは初めてね」
「あの時はエステルが原石を粗末に扱うから、ハラハラしたよ」

ロレントで準遊撃士の仕事を始めて間もない頃、鉱山から取れた宝石の原石を街まで輸送した仕事の時の事を思い出したヨシュアはため息を吐き出した。

「大丈夫だって、あたしはあの時より、ずい分成長したんだから」

エステルはヨシュアの言葉に胸を張ってそう答えた。
確かに身体はかなり女性っぽくなっていると気が付いたが、ヨシュアは平静を装おうとする。

「これは借り物なんだから、絶対に失くしてしまわないようにね」
「まったくヨシュアは心配性なんだから」

ヨシュアが念を押すと、エステルは不満そうに顔をふくれさせた。
実際、イヤリングはピアスに比べて外れてしまう事があるので紛失してしまいやすいのだ。
口をとがらせたエステルに向かって、ヨシュアは困った顔で注意をする。

「エステル、そんな子供みたいにすねないでよ。ほら、あそこに居る子だって、僕達とあまり変わらない歳なのに落ち着いているよ」

ヨシュアの指差した先には、紫色のドレスを着た銀髪の女性がスーツを着た男性と共に宝飾品を選んでいた。
エステルと同じ緑色のエスメラスの宝飾品を付けているのに、頭に付けた紫色のリボンと着ている紫色のドレスがさらに落ち着いた雰囲気を出していた。

「エリィ君、この指輪も似合うと思うよ」
「アーネストさん、もうこれで十分ですから……」

どうやらスーツ姿の男性が女性に指輪をプレゼントしようとしてるのに対して、女性が断って少し揉めているようだった。

「ヨシュアは、ああ言う大人びた娘の方が好みのタイプなの?」
「何を言い出すんだ、僕は今夜のパーティに参加する心構えについて話しただけだよ、僕はその……いつもの元気なエステルが好きだって言うか……」

そんなエステルとヨシュアのやりとりを聞いた宝石店のマネージャーは、ペアの結婚指輪を勧めて来た。

「ま、まだ先の話なので!」

恥ずかしくなったヨシュアは、宝石店のマネージャーにお礼を言って、エステルの手を取って逃げるように店を出た。



<保養地ミシュラム ハルトマン議長邸前>

準備を終えたエステルとヨシュアは、ルバーチェ商会主催のオークションが行われるハルトマン議長邸が見える場所へとやって来た。
クロスベル市と保養地ミシュラムを分断する大きな川の上に突き出すように建てられた3階建の大きな洋館は、荘厳なだけではなくエステルとヨシュアに威圧感を与えた。
ハルトマン議長邸の周りは川に囲まれていて、出入り口はミシュラムの住宅街と洋館の正門を結ぶ橋だけだ。

「行くよ、エステル」
「うん」

エステルとヨシュアは覚悟を決めて、手を繋いでゆっくりと橋を渡り、他の招待客に紛れてハルトマン議長邸の正門へと近づいた。
見張りに立っているのは、見ただけでルバーチェ商会の構成員だと分かるサングラスに黒服の男達だった。
緊張しながらしながらヨシュアは、黒のオークションの参加証である金の薔薇が描かれたカードを黒服の男に渡す。
黒服の男はカードが本物だと確認すると、ヨシュアに金属探知機がつけられたゲートを通るように指示された。
女性はいろいろとアクセサリーを身に着けているので、検査は免除されるようだった。
ヨシュアから金属反応が出なかったので、立ち塞がっていた黒服の男達は道を開いた。
第一関門を無事に突破したエステルとヨシュアは背中に冷汗をかきながら速足で洋館の中へと入った。
玄関のエントランスホールに入ると、エステルとヨシュアは案内役の初老の執事風の男性に声を掛けられる。
執事風の男性は、黒のオークションは3時間後に正面の大部屋で行われるとエステル達に説明した。
そして今の時間は1階の西側にある部屋(サロン)で、バイキング形式のパーティが行われているので、そちらに出席したらどうかとエステル達に勧めた。
ハルトマン議長お抱えの一流シェフが作った料理が振る舞われていると聞いて、エステルは目を輝かせる。

「その目は、料理を食べたいって言っているんだね?」
「うん」
「分かったよ、サロンに行こうか」

ヨシュアはエステルに引っ張られる形でサロンへと向かった。
サロンでは黒のオークションに参加する招待客が、どんな品物を競り落とすかで会話に花を咲かせていた。
出品される品物のウワサは貴族の間でも広がっているようで、やはり多数の人形が出品される事が話題に上がっていた。
招待客の話に注意を払うヨシュアとは対照的に、エステルはお皿に山ほど料理を乗せて食べまくっている。
さすがに遊撃士としての仕事を忘れてしまっているとヨシュアはエステルを注意しようと思うと、先に別の招待客がエステルに声を掛ける。

「ははっ、あんたってば、凄い食べっぷりだな」

そんなエステルに軽い調子で声を掛けて来たのは、紫色のスーツを着た短い赤毛の青年だった。
赤毛の青年に指摘されたエステルは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「あたしってそんなに目立ってる?」
「少なくとも、貴族のお嬢さんには見えないぜ」

変装を見抜かれているような気がしたエステルは、居心地の悪さを覚えてヨシュアに声を掛ける。

「別の場所に行こっか?」
「そうだね」
「おっと、もうちょっとここに居れば、面白いもんが見られるぞ」

サロンを出ようとしたエステルとヨシュアを赤毛の青年が引き止めた。

「面白い物って?」
「まあ、良いからここに座れって」

赤毛の青年に押し切られたエステルとヨシュアは、空いているソファへ腰を下ろした。
その後しばらくの間、赤毛の青年と当たり障りのない世間話をしていると、サロンの入口の方が騒がしくなった。
招待客達の拍手に囲まれれてサロンに入って来たのは、紺色のスーツを着こなした堂々とした風格の壮年の男性と、寄り添う頭のはげた中年の男性の姿だった。
頭のはげた中年の男性の方は、いかにも成金趣味と言った感じの紫色のスーツを着ている。
サロンに居た貴族達の中から、「議長万歳!」「会長万歳!」の声が上がった。

「今入って来たのがクロスベル議会の帝国派で知られるハルトマン議長と、ルバーチェ商会のマルコーニ会長さ。あんた達、見た事無かっただろう?」

赤毛の青年の言葉に無言でエステルとヨシュアはうなずいた。
招待客達の輪の真ん中に立ったハルトマン議長とマルコーニ会長は、今回も黒のオークションが開催される喜びのあいさつをした。
そしてハルトマン議長は、集まった招待客達の前でスピーチを始める。
クロスベルがこれからも発展するには、帝国との関係を強化し、帝国との国境の門に警備隊だけではなく帝国の軍隊も駐留させるべきだと提案した。
サロンに集まった貴族達はハルトマン議長の意見に賛成し、拍手をしている。
話を聞いたヨシュアは深刻な表情でつぶやく。

「他国の軍隊を自国の軍事拠点に置くなんて、かなり危険だと思いますけど」
「ははっ、好きなように言わせとけ。どうせオズボーンのおっさんはハルトマン議長達に負の遺産を押し付けて、切り捨てる気で居るからな」
「そこまで詳しく知っているあなたはもしかして……」

ヨシュアが尋ねようとすると、赤毛の青年はヨシュアを止めて提案する。

「そうだ、腹ごなしに夜釣りに行かないか? オークションが始まるまで、まだ時間があるしな」
「こんな時に釣りなんて誘われても困るんですけど」

釣り好きのエステルも、赤毛の青年の提案には異議を唱えた。

「とりあえず他の場所に移動しようよ」

ヨシュアに言われて、招待客の貴族達に囲まれているハルトマン議長達の横を抜けて、エステル達は赤毛の青年についてサロンを出て行った。
廊下に出たエステル達の耳に、言い争う招待客の男女の言い争う声が聞こえて来る。

「何だね、その男は! 夫である私の誘いを、体調が悪いと断って置いて!」
「ワジ君はね、あなたの何倍もルックスもセンスも良いし、なにより気が利くのよ」

ワジと呼ばれた短い明るい緑色の髪の青年は他人事の様につぶやく。

「やれやれ、困った事になったね」

口ではそう言っているが、ワジと言う青年は面白がっているようだ。
エステル達の前を進んでいた赤毛の青年も面白そうに笑いながらヨシュアに話し掛ける。

「あんたも気を付けろよ、この娘の場合は口よりも先に手が出そうだからな」
「あんですって!?」

赤毛の青年の言葉を聞いたエステルは少し怒った顔で赤毛の青年をにらみつけた。
エステルが怒っても、赤毛の青年は陽気に笑い声を上げながら歩いていた。



<ハルトマン議長邸 中庭>

赤毛の青年について歩くエステルとヨシュアは、人の気配が無い細い廊下を進み、人工の池がある庭園に着いた。
すると赤毛の青年はスーツのポケットに忍ばせていた折り畳み式の釣竿を2本取り出し、エステルに渡す。

「ほらよ、共和国の職人が作った竹竿だぜ」
「本当に釣りをするつもりだったのね」

エステルはあきれた顔でため息をついた。

「いやあ、こんな所でエステルちゃんと爆釣勝負が出来るとは思わなかったよ」
「僕達の名前を知っているのは、あなたがオリビエさんが言っていたオズボーン宰相付きの書記官だからですね?」
「ふうん、可愛い顔してるのに、鋭いんだな」
「可愛いは余計ですよ」

赤毛の青年にからかわれて、ヨシュアは固い表情で返事をした。

「そっちだけ、あたし達の名前を知っているなんて不公平じゃない?」
「分かった、俺の名前はレクターだ」

エステルの言葉に、赤毛の青年は降参のポーズをとってそう答えた。

「あなたがここに居るのは、オズボース宰相の命令ですか?」

ヨシュアが尋ねると、レクターは首を横に振る。

「いいや、俺は個人的に案内役を頼まれたのさ」
「案内役……ですか」

レクターの言葉を聞いて、ヨシュアはそうつぶやいた。

「浮遊都市でオズボーンのおっさんと顔を合わせたようじゃないか」
「それで僕達を心配してレクターさんをこちらに?」
「まあヘマをされたら、おっさんも困るからな」
「余計なお世話よ」

エステルは不満そうにそうつぶやいた。

「この館の警備体制は特に厳重だから、気を付けろよ。俺が館に入る時、ガルシアの姿も見かけたぜ」
「ガルシアって?」
「そっか、直接会った事は無いのか」

エステルが不思議そうな顔をすると、レクターはガルシアについて説明する。
ガルシアとはルバーチェ商会の幹部であり、マルコーニ会長の右腕とも呼ばれる男だ。
身長は2メートルを超す大男で、元猟兵団の強さを活かして用心棒も兼ねている。

「でも確か、ボース地方で騒ぎを起こして、アガットさん達の手で捕まったと聞きましたけど?」
「王国からクロスベルに送還された後、商会からの賄賂(わいろで釈放されたようだな」
「あんですって!?」
「それ程クロスベルの議会や警察も腐敗してるって事さ」

レクターが話している間に、レクターの釣り竿に魚が掛かったようだ。
引き上げると、鋭い牙を持ったどう猛な魚が食いついていた。

「この中庭の池だって、水路を通じて外の川と繋がっているけど、こんな危ない魚が放たれているもんな」
「それでは脱出経路には使えないですね」
「なら、今のうちに全部魚を釣り上げちゃうって言うのはどう?」
「ははっ、それは面白いな」
「エステル、本気で言ってるの?」

言っている側から2匹も釣り上げたエステルを見て、ヨシュアはあきれた顔でため息を吐き出した。
その後レクターとエステルの30分爆釣勝負が行われ、レクターの圧勝となった。

「悔しいっ! あたしの家の庭にある池だったら勝てたのに!」
「その竹竿はプレゼントするから、次に俺と会う時まで、せいぜい腕を磨いておく事だな」

余裕で去って行くレクターの後ろ姿を、エステルは歯ぎしりしながら見送る。

「くーっ、タングラム門で負けた時より悔しいわ!」
「まったく、何を言っているんだよ」
「こうなったら、あたし達の手でルバーチェ商会の悪事の証拠をつかんで、レクターさんをギャフンと言わせてやりましょう!」

エステルがそう言って握った拳に力を込めると、ヨシュアは複雑な顔でつぶやく。

「単なる憂さ晴らしの気がするけど……」
「オークションの時間まで、じっと待っては居られないわ、もっとこの館の中を探ってみましょう!」

エステルは鼻息を荒くして、ヨシュアの手を引いて歩き出した。



<ハルトマン議長邸 左翼側>

中庭を出て階段を上がると、2階は客間が並んでいたが、招待客はオークション会場のある1階へと行ってしまっているようで人の気配は全く無かった。
2階は調べる価値無しと判断したエステルとヨシュアは、2階を素通りして3階へと向かった。
3階に上がると、廊下の突き当たりに豪華な装飾がされた扉があるだけだった。
扉の前では黒服の男が2人立っていて、エステルとヨシュアの姿に気が付いた黒服の男は、この先はハルトマン議長の居室だから引き返すように告げる。
ハルトマン議長は1階のサロンに向かったはずだと黒服の男が付け加えると、エステルとヨシュアはお礼を言って階段を引き返した。
2階に降りたエステルとヨシュアは客間が並ぶ静かな廊下を通り抜け、館の反対側の3階への階段を上がろうとする。

「あら、その先の部屋はオークションの品物が収められている倉庫に使っているようで、立ち入り禁止みたいですわよ?」

いきなり声を掛けられたエステルとヨシュアが驚いて後ろを振り返ると、ツインテールの巻き髪をしたドレス姿の女性が後ろに立っていた。

「あなたもオークションの招待客ですか」
「ええ、出品予定の品物を持って行くのが遅れてしまって、たった今、届け終わったところですの。間に合ってよかったわ」
「マリアベル様、そろそろオークション開始の時刻でございますが」

1階から上がって来た初老の執事風の男性がやって来て、ツインテールの巻き髪をした女性に声を掛けた。
マリアベルと呼ばれた女性は男性に礼を言うと、エステルとヨシュアにオークション会場まで一緒に行かないかと提案した。
そしてエステル達は呼びに来た男性の後について1階のオークション会場へと向かった。
マリアベルは今回のオークションに多くの人形が出品されるウワサを聞いて、楽しみにしているらしい。
オークション会場では、部屋にたくさん並べられた椅子は8割ほど招待客で埋まって居て、オークションの盛況ぶりを感じ取れた。
壇上では司会者がオークションの段取りについて説明している。
オークションは休憩を挟んで前半と後半に分けて行われるようだ。

「ベル、あなたもオークションに来ていたなんて……」

椅子に座っていた招待客達の中に居たエリィがマリアベルの姿に気が付いて声を掛けた。

「あの人って宝石店に居たよね」
「うん、マリアベルさんの知り合いだったみたいだね」

エステルとヨシュアも空いている席を見つけて座ると、司会者が黒のオークションの開始時間を告げた。
まず壇上に立ったのは、オークションの主催者であるマルコーニ会長だった。
招待客から拍手で迎えられたマルコーニ会長はゆっくりと会場を見回し、堂々とした態度で言い放つ。

「今夜のオークションは、十分楽しんでもらいたい。……この中に紛れている遊撃士の諸君にもね」

マルコーニ会長の言葉を聞いたエステルとヨシュアは、動揺して椅子から落ちそうになった。
遊撃士の存在に気が付いて居ながら、どうしてマルコーニ会長はオークションを中止しなかったのか?

「そして遊撃士協会に帰って報告するのだな、何も無かったと」

マルコーニ会長がそう言うと、招待客からも拍手と歓声が上がった。
エステルとヨシュアは、怒りを押さえて順調に行われるオークションの様子を見守るしかできなかった。
しかし、部屋の隅に立っていたレクターは楽しそうな笑顔を浮かべてそっとつぶやく。

「仕掛けられた爆弾が爆発するまで、もう少しって所かな」

レクターの声はとても小さかったので、オークションに参加している招待客達の歓声にかき消されてしまい、誰の耳にも届く事は無かった。
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