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東日本大震災:孤独死の防止策急務 3県の仮設で22人

仮設住宅の窓から顔を出し、若いボランティアを相手に会話を弾ませる石森シケ子さん=宮城県石巻市で鈴木梢撮影
仮設住宅の窓から顔を出し、若いボランティアを相手に会話を弾ませる石森シケ子さん=宮城県石巻市で鈴木梢撮影

 東日本大震災の被災地で、誰にもみとられず亡くなる「孤独死」が相次いでいる。岩手、宮城、福島3県警の調べでは、3県の仮設住宅で計22人が死亡した。また、避難生活で体調を崩したことなどによる「震災関連死」は少なくとも1465人に上る。いずれも多くは高齢者。せっかく震災を生き延びた命が失われる悲劇を防ぐため、対策が求められている。【鈴木梢】

 ◇見守り支援、本格化

 宮城県石巻市では1月、仮設住宅を巡回中の看護師が死後3~4日とみられる男性(当時57歳)を発見。市関係者によると、死因は心筋梗塞(こうそく)で、アルコール依存傾向もみられたという。福島県郡山市の仮設住宅でも1月、心臓手術を受けた経験のある同県富岡町の男性(当時73歳)が心筋梗塞のため、浴槽で亡くなっているのを町職員らが見つけた。

 3県警によると、独り暮らしの仮設で誰にもみとられずに死亡したのは、岩手5人▽宮城12人▽福島5人の計22人。このうち15人が65歳以上だった。

 95年の阪神大震災では、震災後3年余りで仮設での孤独死が200人を超えた。仮設入居時に地域のつながりが断たれ孤立化が進んだことへの反省から、東日本大震災では多くの仮設で地域ごとにまとまって入居できるよう配慮された。

 しかし、そうした配慮ができなかった所もある。被害が甚大だった石巻市は「早く仮設に入りたい」という住民の要望を優先し、入居先を抽選で決めた。見知らぬ人同士が仮設の団地に入ることになったため、自治会の結成が遅れ、全134団地のうち41団地で自治組織がない。

 同市の開成団地では昨年9月、独り暮らしの男性(当時60歳)が自殺し、死後約1週間誰も気づかなかった。団地に住む男性(70)は「自分のことで精いっぱいで、ご近所と打ち解けて話すことはない」と明かす。

 同市の万石浦団地の自治会長、後藤嘉男さん(71)は、自宅のある地域から1家族だけ入居した。団地では以前、心臓を患う独り暮らしの女性(85)が発作を起こしたが、仮設の薄い壁をたたいて知らせ、隣人が救急車を呼んで助かった例があった。自治会は独り暮らし世帯に非常通報装置を付ける計画を立てたが、費用負担が壁となり実現していない。

 こんな中、ボランティアによる見守り支援が本格化している。

 「お体に変わりはないですか?」。石巻市の「ボランティア支援ベース絆」の3人が、同市の石森シケ子さん(81)が住む仮設を訪ねた。石森さんは死別した漁師の夫や神奈川県平塚市に住む息子のことを楽しげに語り、1時間以上が過ぎた。

 65歳以上の独り暮らし世帯に3キロの米を毎月届ける「サンライス元気村」という取り組み。全国からの寄付金をもとに届ける米をきっかけに、安否確認だけでなく持病の有無や食生活も把握する。米は重く買い物が大変で、定期的に届くと安心感があるため、同様の取り組みは阪神大震災でも好評だったという。

 毎日新聞のまとめでは、阪神大震災の災害復興公営住宅で、震災から15年以上過ぎた昨年1年間でも孤独死した人が36人いた。00年からの累計では717人に上る。

 被災地の仮設でも独り暮らしの高齢者は多い。福島県が1月末、仮設の入居状況を調べたところ、回答した1万664世帯のうち65歳以上の独り暮らしが1323世帯で1割以上を占めた。孤立化防止の取り組みは長期的な視点も必要だ。

 ◇関連死 7県で1465人 移動、高齢者に負担

 厚生労働省や被災県などによると、東日本大震災の関連死は、福島、宮城、岩手など7県で少なくとも1465人(2日現在、各市町村審査会の認定数。岩手のみ2月28日現在で審査会を経ない認定数も含む)に達する。福島県の679人が最も多く、宮城県597人、岩手県160人が続いた。

 宮城県によると、震災関連死と認められた人の多くは、津波をかぶって肺炎や低体温症に陥った高齢者で、石巻市では4割以上が80代だった。福島県も高齢者がほとんどで、避難で移動を繰り返した末に体力を失った事例が目立つという。

 石巻市雄勝町の特別養護老人ホーム「雄心苑」は震災発生時、ライフラインが途絶え、利用者66人が山形県内の18カ所の高齢者施設にヘリで搬送された。避難先で17人が持病が悪化するなどして死亡したが、雄心苑の生活相談員は「薬も食べ物も手に入らず、山形の施設が受け入れてくれなければ、より多くの命が失われていた」と振り返る。

 山形県によると、防災協定を結ぶ宮城県を中心に延べ338人の高齢者を163施設で受け入れた。だが、高齢者の広域搬送について細かい取り決めがあったわけではなく、担当者は「福島から一度東京に避難して山形に来る高齢者もおり歯がゆかった。今後は県外からの避難者支援をマニュアル化し、より円滑に受け入れたい」と話す。

 全国老人福祉施設協議会の研究部門「老施協総研」の尾関英浩・副委員長は「国や県が主導して災害時の広域避難協定を結ぶなど、高齢者を受け入れる民間と一体となってシステムづくりに取り組む必要がある。そうしないと、次の大災害でも環境変化に弱い高齢者が死亡する悲劇を繰り返すことになる」と指摘する。

毎日新聞 2012年3月11日 11時02分(最終更新 3月11日 11時20分)

 

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