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2012.03.10

 鳩山政権の東アジア共同体構想は「戦略的愚劣」 米政府元高官が回顧録 

カテゴリオバマ政権出典 産経新聞 3月10日 朝刊 
記事の概要
ホワイトハウスのアジア政策を昨年4月まで統括してきたオバマ政権元高官が8日、回顧録を出版して講演し、鳩山政権が提唱した米国抜きの東アジア共同体構想を「ストラティージック・フーリシュネス(戦略的愚劣)」と表現、当時の日米関係の最大の懸念だったと指摘した。

米国側は水面下で「全く容認できない」と日本側に伝えていたが、鳩山政権が「米国の弱い者いじめ」と主張しかねず、公の場での批判を控えたという。

回顧録「オバマと中国の台頭」を出版したのは国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を2009年1月〜11年4月まで務めたジェフリー・ベーダー氏。著書で日本に関する8ページ分のほとんどを鳩山政権に割いている。

ベーダー氏はアジアで最も親密な同盟国の米国抜きの共同体構想は「驚愕」だったと回想し、中国でさえも「微笑と困惑」を隠せなかったと講演で語った。

提案を聞いたベトナムの大統領は米中のバランスを崩しかねないと不安視し、「この危険なアイデアを潰す助けが欲しい」と他国に助言を求めたという。

ベーダー氏は、かつて戦争状態にあったベトナムでさえ理解する「戦略的愚劣を最も強固な同盟国は理解しなかった」と記述した。

また、ベーダー氏は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、決着を先送りする鳩山首相にオバマ大統領が圧力をかけたことも明らかにした。

2010年4月、核安全保障サミットで訪米した鳩山首相との公式会談を「失敗に終わる」と見送り、47カ国の首脳が集まる夕食会で、意図的に鳩山首相の席を大統領の隣に設定した。

事情説明する鳩山首相の言葉をオバマ大統領は「あなたは、トラストー・ミー(私を信じて)と言ったでしょう」と遮り、早期決着を突きつけたという。
コメント
オバマ政権というよりもアメリカ政府が鳩山元首相の唱えた東アジア共同体構想に強い危機感を持っていたことがよくわかる。

しかし日本の政界では鳩山氏を含めて、多くの政治家がアメリカのこの危機感の本質を理解できないと思う。

この本質は、単に東アジアの日本と韓国と中国の3国が仲良くすればいいという話ではなからだ。鳩山氏にはそれがわかっていない。

この3国がアメリカ抜きで仲良くすれば、朝鮮半島は中国の政治・経済・文化圏に組み込まれ、次ぎに日本も中国や朝鮮半島の影響力をもろに受けて、時間的な問題で中国圏に組み込まれることになる。

韓国ばかりか中国でさえも、そのような東アジア共同体構想は中国とアメリカとの関係を極限まで悪化させると困惑する。

その理由を説明しよう。

東アジアには3種類の国家がある。中国やロシアは大陸国家でこれをグランド・パワーの国という。日本やアメリカはシー・パワーで海洋国家と分類する。そして地政学的にみて朝鮮半島は、そのグランド・パワーとシー・パワーが押し合う関係の半島国家である。

イタリアや朝鮮半島のような半島国家は、グランド・パワーが膨脹する時は海洋に向かう大陸の影響が強くなる。逆にシー・パワーの勢力が強い時は大陸に向かうシー・パワーの通り道となる。

日本を襲った蒙古来襲、日本が朝鮮を併合して満州国を建国したこと、朝鮮戦争でアメリカの支配を嫌って中国軍か介入したことなど、大陸国家と海洋国家が半島国家を巡って支配権を争うことは歴史が証明している。

だから近い将来、その朝鮮半島に誕生する統一国家を、アメリカと軍事同盟を結ぶことを中国が許すか、あるいは統一国家が中国やアメリカとは軍事同盟を結ばないのか。さらには中国と軍事同盟を結ぶか。その結果によっては、極めて深刻な米中対立の種になりかねないのだ。

朝鮮半島と日本が中国の政治・経済・軍事の影響圏に入れば、中国とアメリカは太平洋を挟んで直接対峙する安全保障関係になる。

それを鳩山氏は単純に、仲がいいことは良いことだと、東アジア共同体構想を打ち上げたからアメリカや中国は危機感を持ち、困惑したのである。

この東アジア共同体構想は中国や韓国も困惑したのである。だたし、あくまで共同体構想の範囲は経済に限られ、安全保障分野は除外すると明言すれば、多少は猛烈な暴風が吹くのを避けられたかもしれないが、鳩山氏は最初から戦略的な思考がないから気が付かない。

そこ中国と韓国が日本との首脳会談で気を利かせて、日中韓の首脳会談では主に北朝鮮問題や経済関係を話し合う場に作り変えたのだ。

本来なら、日本の外務省が地政学的な配慮から、東アジア共同体を安全保障問題から除外するよう設定すべきだった。しかし外務省の軍事オンチは戦略的な思考が出来ないから、事の重要性が理解できない。

それでアメリカは焦ったのである。さらにアメリカは鳩山氏が米海兵隊を沖縄から追い出すように考えて辺野古案を固持することになった。

アメリカの本心は出来るだけ早く沖縄から海兵隊を撤退させて、他の地域に振り分けたいのに出来なかった。

もはや、これは日米の外交秘話ではなく、日本の政治家の未熟さに振り回されるアメリカや中国の笑い話の話題である。

まあ、これで日本は軍事大国になって、アメリカや中国と渡り合える国にならないことだけは理解して貰えたと思う。

でも日本人としては、ちょっと悲しいような政治の話でもある。
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