キ●●●部●奇談 − 其の壱

(平成18年05月10日)

投稿者:  冷泉 文恵  


 ずいぶん以前に、黄泉の国に旅立ってしまったが、山口瞳という作家がいた。

部類の将棋好きで、将棋にまつわる読み物を数多く書いた人物でもある。 その山口が残した言葉の一つに、 『将棋指しというのは、キ●●●部●の住人だ』 というものがある。 この場合の将棋指しとは、プロ棋士のことを言うのだが、プロ棋士との交友が深い山口にして、始めて言い得た言葉なのでろう。

後年、ヌードを晒したり、中原誠永世十段との不倫騒動で、世間を賑わすことになるのが、女流棋士として一世を風靡した林葉直子である。 その直子が中学生の頃、米長邦雄の家に内弟子として住んでいたことがある。

米長と言えば、自他共に認める、24時間フル稼働の発情男。 美少女の内弟子に、食指が動かぬはずがない。 速攻の攻めが、見事に決まり、アッという間に男女の関係を構築したのである。

現在なら、16歳以下の少女との交接は御法度で、東京都条例違反になるのだが、やがて東京都の教育委員になる米長にとって、そういうことは問題外以前の問題。 ただひたすら、林葉直子に対して性戯伝承に励んだのである。

性感に目覚めた美少女と、24時間フル稼働の発情男が一つ屋根の下に暮らしていれば、お祭り騒ぎは茶飯事となる。 物音も立てれば、大声も張り上げる。 当然ながら、米長夫人の知るところになったのである。

「週刊・野中広務」 と別称される週刊文春に、泥沼流人生相談というコーナーを持っていた米長が、愛人との浮気がばれたらどうするかの質問に答えている。 素っ裸で愛人と同衾中の所を見られても、シラを切るのが肝心だと。

さて ・・・・、自分が同様の立場になったらどうしたかであるが、嘘をつくのは永世名人級なのが米長である。 『実は、直子に誘われたんだ ・・・』 それが、米長邦雄のファイナルアンサーであった。

「中学生の女の子に、無理矢理誘われて一線を越えました」 が、二十年後、東京都教育委員にして将棋連盟会長の重職に就くことになる人物の弁明である。 米長邦雄の女房になるくらいだから、この女性も脳味噌が相当にキテレツなのであろう。

「そういうことだったのか」 と、簡単に信じたのである。 その上で、林葉直子の実家に、文句の一報を入れたから、話は相当に妙ちきりんな展開を見せることになる。

『あんたの娘に誘惑され、主人は大変に困っている』 の電話を受けて、ビックリしたのが林葉直子の父親である。 警察官が職業の父親にしてみれば、自分の娘が師匠を誑かしたと聞いてビックリ仰天。 福岡から、一目散に上京してきたのである。

玄界灘の風音を、子守歌代わりに聞いてに育った人間は、揃いも揃って気が荒い。 上京するや否や、千駄ヶ谷の日本将棋連盟に突進したのである。 そこで、対局中であった娘の直子を、対局場から引きずり出した。 将棋界で、今なお語り継がれる、 【林葉直子の父親乱入事件】 の舞台背景がそれである。

引っぱり出した父親が、直子に話を聞いてみると、米長夫人の言い分とは随分と違う。 『先生に、無理矢理 ・・・・・・』 父親の怒りの矛先が、米長邦雄に変化するのに、さほどの時間は要しない。 押っ取り刀で、米長邦雄宅に乗り込んだのである。

『それで、私にどうしろと言うのかね』 米長の答えがそれである。 警察官のアンタが、私をゆすると言うならそれも良いだろう。 私には多くのマスコミがバックに付いているし、アンタを社会的に抹殺することなど訳もない。

『それより、こういうことが公になれば、恥をかくのはアンタたち父娘ではないのか』 ならば、一切を不問にしようじゃないか。

九州育ちの男など、米長にかかれば赤子同然。 林葉直子の父親は、憮然、暗然、失意を胸に、関門海峡を渡ることになったのである。

その数日後、突然に米長邦雄は、林葉直子の破門を宣言する。 そして、陰に陽に、林葉直子と父親は、近親相姦関係にあると吹聴するのである。 『その様な、異常な親子関係を知ったから破門にした』 支那、朝鮮人民でさえ、思いもつかない様な、中傷発言を連発したものである。

米長邦雄という、異常極まりない人物に、女にされた林葉直子は、その後順調に淫乱街道を驀進することになる。 キ●●●部●が産んだ、奇談の一小話である。

そして、そのキ●●●部●が、名人戦の帰趨を巡って、大騒動を引き起こしている。

当然ながら主人公は、キ●●●中のキ●●●にして、将棋連盟会長の米長邦雄。

いつになっても、奇談には事欠かない、キ●●●部●なのである。