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「コンクリートの復興」は進んでも、「なりわいの再建」が置き去りになっていないか。
東日本大震災から1年たち、その点が気になる。
もともと高齢化と過疎化が進む地域だ。仕事がなければ、現役世代の流出は加速する。
防災都市が完成したが、職のない高齢者が暮らすばかり。そんな未来にしてはならない。
被災地には、いまこの時も、深刻な危機が忍び寄る。その認識を共有すべきである。
■「土建回帰」を避けよ
津波への備えは大切だ。
だが、私たちは倒壊したコンクリートの構造物を目の当たりにし、それに頼り切る危うさを実感した。
いま被災地では、以前より巨大な構造物を造る槌音(つちおと)が高い。
岩手県の釜石湾口防波堤の復旧工事が、先月から始まった。
31年の歳月と1200億円をかけた「世界最深」の防波堤は津波で破壊され、市街地は壊滅的被害を受けた。ところが政府は「津波のエネルギーを減殺した」と復旧を決定。500億円を投じる計画なのだ。
高速道路の建設もすすむ。
仙台・八戸間を結ぶ三陸沿岸道路は多くの利用者が見込めないことから、政権交代後は予算が減っていた。
それを地元自治体は、震災時の避難に使われた「命の道」だと建設促進を働きかけ、バッジやビデオまで作った。これらの高速は「復興道路」として、今年度当初で270億円だった予算が1200億円に補正で増額された。379キロを7年から10年でつくるという。
これには首をかしげる。
増税までして集めた資金には限りがある。津波対策を進めるなら、高速道路よりも高台移転の支援を優先すべきではないのか。同じ道路なら、まずは高台へ逃げる避難路だ。
だいたい、こんな集中投資が何年続くというのか。一時だけの「土建国家」復活は、その反動のほうが心配だ。
■危機では「早さ」優先
地域の復興は、その地に根づく産業の立て直しにかかる。
宮城県気仙沼市の場合は水産関連産業だ。漁業、水産加工、流通……。市民の大半が、なんらかの形で水産業にかかわる。復旧が遅れれば、人口が流出して「市の存亡にかかわる」と、市は復興計画に記した。
震災前は約7万4千人だった人口は、2月時点で4300人ほど減った。人口流出による社会減は2400人と、震災犠牲者の1千人余を大きく上回る。
かぎは水産加工場の再建だ。進まなければ雇用は戻らず、顧客も逃げる。生鮮品しか出荷できないのでは、水揚げもままならない。この1年間は例年の3分の1。震災後の失業手当が切れていく中、時間との戦いだ。
現実はもどかしい。
地盤沈下した敷地のかさ上げにどうやって国費を入れるか、調整に時間がかかったからだ。何省のどの補助金を使うのが有利か。補助の要件を緩めてもらえるか。枠組みが固まり、市が関係者に説明したのは今月になってからだ。
気仙沼漁協の村田次男専務は「国の支援に涙が出るが、問題はスピードだ。早く復旧しないと漁業がだめになる」と焦る。
こんな問題は、復興交付金の使い道を「5省の40事業」などと縛らず、もっと自治体の判断に委ねれば越えられるはずだ。そのやり方では、公平を欠くこともあるだろう。それでも、危機の際には迅速な決定を最大限に優先すべきだ。
■地域で折り合い探る
中央集権構造と、それに慣れきった自治体や地域の依存体質は復興の壁になる。
被災地が悩む海岸防潮堤の問題も、根っこはそこにある。
数十年から百数十年に1度の津波に備える国の方針に沿い、岩手、宮城、福島の3県は最大15.5メートルにかさ上げする計画を進める。これには「まるで牢屋だ」「海がみえず、観光も商店街も廃れる」と批判も相次ぐ。
宮城県は海岸を22に分割して高さを設定、松島湾は平均海面から4.3メートルとした。松島町、中でも観光が主産業の松島海岸にとって、日本三景の眺望が隠れる致命的な高さといえる。
若手町民による復興計画検討会議は、松島海岸では防潮堤の高さを最低限にとどめ、背後にある高台への避難路を整えるよう提言した。県はこれに応じ、この海岸は目の前の島々で津波が弱まることを理由に、2.1メートルで足りると結論づけた。
この経験は示唆に富む。
地域によって、地形も集落の位置も産業も異なる。ならば地域で話し合い、津波対策と暮らし方の折り合いをつけるしかない。機械的に基準をあてはめ、一律の高さを押しつけても仕方がない。
地域が汗をかき、それを行政が受け止める。その先に、真の復興への道が開ける。