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2012年3月8日(木)付

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河村市長発言―日中の大局を忘れるな

国交が正常化し40周年を今秋に迎えるにもかかわらず、日中関係がぎくしゃくしている。原因は、歴史認識と尖閣という国交正常化以後も日中間のトゲとなってきた問題だ。[記事全文]

スポーツと復興―発信力を支援に生かせ

スポーツの春、到来である。サッカーのJ1(Jリーグ1部)は10、11日に開幕する。プロ野球は今月末の開幕に向けてオープン戦が真っ盛り。10日には日本代表が台湾代表を迎え[記事全文]

河村市長発言―日中の大局を忘れるな

 国交が正常化し40周年を今秋に迎えるにもかかわらず、日中関係がぎくしゃくしている。

 原因は、歴史認識と尖閣という国交正常化以後も日中間のトゲとなってきた問題だ。

 名古屋市の河村たかし市長は先月、表敬に訪れた中国南京市の共産党委員会幹部らに「一般的な戦闘行為はあったが、南京事件というのはなかったのではないか」と発言した。

 南京大虐殺については、日中首脳の合意で作った日中歴史共同研究委員会で討議した。

 犠牲者数などで日中間で認識の違いはあるが、日本側が虐殺行為をしたことでは、委員会の議論でも一致している。

 そういう重い経緯のある問題で、姉妹友好都市である南京市の訪問団に対し、河村氏が一方的に自らの考えを示したのは、あまりに配慮が足りない。

 河村発言に対して、南京市民らが強く反発した。上海の日本総領事館は、交流文化行事「南京ジャパンウイーク」の延期を決めざるをえなくなった。日中柔道交流は中止になった。

 だが河村氏は、発言を撤回する気はないようだ。

 国益がぶつかる政府間とは別に、都市や民間の交流は信頼関係醸成に有効だ。それなのに河村氏の発言は、政治家としても市長としても不適切である。

 中国側も、市民や青少年交流が「相互信頼を絶えず深化させる」(楊潔チー〈ヤン・チエチー、チーは竹かんむりに褫のつくり〉外相)と評価するのなら、交流を狭くするような動きは避けてほしい。

 河村発言問題が収まらないなか、日本政府は2日、沖縄県の尖閣諸島の四つの無人島に新たな名前を付けた。すると、中国政府は翌日、独自の名称を発表して自国領と主張した。

 日本だけでなく、中国でも世論が政治に影響を及ぼす。列強の侵略の記憶が根強く残る一方で、大国意識の強い国民は「弱腰外交」に敏感だ。

 このため外交当局はしばしば世論の攻撃の的となる。命名でただちに反応したのは、世論を沸騰させないためでもあろう。

 尖閣沖漁船衝突事件などで日本の対中世論も厳しいが、日本政府は命名で記者会見や報道発表をせず、ホームページでの掲載にとどめた。藤村修官房長官は「事務的に淡々とやってきたことだ」と語った。こうした冷静さを両国は保つべきだ。

 歴史認識や尖閣といった問題で、日中双方がともに満足できる魔法の杖を見つけるのは至難のことだ。

 そうであるならば、日中の両国は友好と安定の大局を選ぶしかあるまい。

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スポーツと復興―発信力を支援に生かせ

 スポーツの春、到来である。

 サッカーのJ1(Jリーグ1部)は10、11日に開幕する。プロ野球は今月末の開幕に向けてオープン戦が真っ盛り。10日には日本代表が台湾代表を迎え、震災復興を支援する慈善試合を開く。義援金を募るだけでなく、被災者を招待し、広く支援を呼びかける予定だ。

 1年前の震災は、スポーツ界にも影響を与えた。Jリーグは開幕直後に中断した。プロ野球は、予定通りの開幕にこだわったセ・リーグが選手会やファンから批判を受けた末、約3週間遅らせて、セ、パ両リーグの同時開幕にこぎ着けた。

 J1のベガルタ仙台、パ・リーグの楽天、男子プロバスケット、bjリーグの仙台は、被災者であり、支援者でもあった。「見せましょう、野球の底力を」。楽天・嶋基宏捕手の言葉はいまも胸に残る。

 「スポーツになにができるのか」という自らへの問いかけと模索は続く。

 日本サッカー協会の特任コーチとして被災地に足を運び続ける加藤久さんは「被災者が一番恐れているのは、忘れられることだ」という。派手なイベントでなくてもいい。いま、仮設住宅では、お年寄り向けの体操教室が人気という。大切なのは、地道で息の長い支援だ。

 昨年は競技を問わず、多くの選手たちが被災地に入ったが、例えば、サッカー教室を開くことが子どもの移動などで地元に負担をかけた例もあった。押しつけでもなく、自己満足でもない支援が求められる。

 Jリーグでは全40クラブがそれぞれ被災地40カ所と姉妹都市のような関係をつくり、支援を展開するアイデアが出ている。被災地と正面から向き合い、各地の事情や要望に耳を傾ける。担当者は「長くやるためにじっくり準備したい。気づいたら、ずっと支援してくれているといわれるように」と話す。

 社会への発信力を考えれば、プロスポーツは、ひとつのメディアとしての役割と可能性、そして責任を持つ。

 この際、野球とサッカーが垣根を越えて、手を組んではどうか。2大プロスポーツが協力することで、スポーツ界全体に機運が広がるはずだ。

 7月にはプロ野球がオールスター第3戦を盛岡市で、Jリーグは慈善試合(場所未定)を計画している。連携して開催すればいい。

 競技の枠を超えたチームワークはスポーツの力を示し、自らの存在価値を高めることにもつながる。

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