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楠正由貴 持道具チーフ インタビュー

楠正由貴 持道具チーフ インタビュー
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楠正由貴 持道具チーフ インタビュー
 
 まず最初に「カーネーション」は大正時代から始まるドラマだと聞いて、持道具としての目線で、ある程度のモノを想定できていたんですが、それが平成まで続くと知った時はやはり驚きました。ドラマでの時代の流れと共に、モノを取っかえ引っかえして変えていくのが一番大変だったかも知れないですね(苦笑)。
 持道具と小道具の領域はあいまいなところもありますが、だいたい役者さんが身につけるものは持道具という考え方です。例えば帽子や履物、日傘、風呂敷…など。「木岡履物店」の下駄や草履も、すべて持道具が用意したものです。だんじりのシーンなら地下足袋と団扇(うちわ)、結婚式なら扇子、戦争期の空襲では雑のう(肩からかける布製かばん)、水筒、防空頭巾…。よく登場する洋裁のシーンでは、針、糸、ハサミといった感じですね。糸子の描くデザイン画は、用紙や色鉛筆は持道具で用意して、制作さんに描いてもらいました。
 もちろん、登場人物の多いシーンになると、必要な持道具も多くなります。人が密集する闇市のシーンもそのひとつですね。売り手と買い手すべての帽子や履物、かばんだけじゃなく、商品としての傘、トランクなども持道具の領域です。闇市でずらりと並ぶ商品は、小道具さんとの合作なんですよ。「じゃあ、うちはトランク○個、持っていくわ」といった感じでね(笑)。屋外でのロケになると、その数も並大抵じゃないですよ。段ボール50箱分とか持っていきます(笑)。
楠正由貴 持道具チーフ インタビュー
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 持道具の工程としては、まずは台本に忠実に、そして衣装と色目を合わせ、さらに時代も考慮してふさわしいモノをそろえていきます。一番苦労したのは、昭和30〜40年代でしょうか。この時代はビニール製品が多いので、なかなかモノが残っていないんですよ。
 第18週で、糸子が直子へプレゼントしたビニールのかばんが、まさにそうですね。あれは当時のもので、よく残っていたなぁと思います。一点しかないものなので、優子と直子が取り合いのケンカをするシーンは少しハラハラしましたねぇ(笑)。
 ちなみに、優子がもらったかばんは、当時もあった上等な素材ということでハラコ製のアンティーク風デザインを選びました。聡子がもらったスニーカーは、彼女のキャラクターをイメージして赤いものをセレクトしています。
 また、アクセサリーも持道具の担当です。糸子に関しては、歳を重ねるにつれて、少しずついいものを身につけていくようにしています。小原洋装店が繁盛するにつれて裕福にもなるし、オシャレにも気を配るようになるでしょうから。イヤリングもそうだし、腕時計もそう。夏木マリさん演じる晩年の糸子は、指輪もつけるようになるんです。中でもパールの指輪など、夏木さん自ら「これはどう?」と選ばれたものもあります。
楠正由貴 持道具チーフ インタビュー
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 持道具は、倉庫に抱えているストックの中から見繕ったり、なければ新しく購入して調達するのが基本ですが、中には自分たちで作るものもあります。
 例えば、幼い直子が部屋で遊んでいた、おもちゃの「ミニだんじり」は私が手作りしたんですよ(笑)。将棋のコマを入れる箱をひっくり返してだんじりの土台に、柳行李(やなぎごおり:柳の一種の枝で編んだもの)の弁当箱を切り出したものを屋根の素材にして作りました。だんじりの車輪には、ミシン糸の芯を使ってるんですよ。
 今回は、下駄もよく作りましたね。昔の人は足のサイズが小さめなんで、当時の下駄だと、役者さんの足に合わないものが多いんです。なので新しい下駄を買ってきて、鼻緒を古いものにすげ替えて、当時の風合いを出しています。
 ちなみに、履物と言えば、周防が履いていた舶来品の革靴(第15週)がありましたが、あれは新しく購入しました。台本の設定にある、珍しいけれど当時手に入るブーツと言えば、サイドゴアブーツだなと考えたんです。サイドゴアは明治時代から日本にあるんですよ。でも単なる黒では面白みがないので、茶系のもので探し回っていた時、色に深みのあるイタリア製のサイドゴアブーツと出会って「あ、コレだ!」と思ったんです。
楠正由貴 持道具チーフ インタビュー
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 「カーネーション」はとにかく出演者が多いですから、細やかな管理が大切な仕事のひとつですね。実際の撮影では、シーンを細かく分割して時間軸もバラバラで撮影するので、持道具としては前後のつながりを誤らないことが一番の難しさです。ですから、撮影現場には必ず立ち会います。それぞれの役者さんに必要な持道具をお渡し、撮影後はすぐに回収して、役者さん別に管理しています。
 これまで収集してきたストックや新たに探し出したモノの中から、時代ごとのよきモノを出していくことが喜びでもあります。「カーネーション」で言うと、奈津のトレードマークでもある日傘が時代もの。5種類ほど登場しましたが、どれも時代感のある古き柄で面白いんじゃないかと思います。本当は、まだまだ出したいものがあるんですけどね(笑)。持道具の仕事のおもしろさは、常に勉強できるところ。古い時代の雑誌や写真資料など当時の資料を読むなどして、誰よりもその時代を知ることが肝心ですね。

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