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一階層【堕王の天槌】
はじまりの話。-参~-壱
 -参/

「お前は死ぬべきなんだ。生きてちゃいけないんだ」

 辿り着いた男はそんなことを言った。

「誰も殺していないし、誰も死んでいない。怪我人は病院に運んで治す。家を失った者や職を失った者には社会保障も受けさせよう。何が不満なんだ?」
「これだけの事をやっていて、何を言ってるんだお前はッ! 恥というものを知らないのかッ!」
「京都焼失の事なら理由がある。あれは滅ぼすべき敵だった。日本に禍根を残す気か? お前は?」
「手段がおかしいんだよ! なんで、なんで人間一人を殺すのにッ、都市を丸ごと燃やす必要があった! そして、そんなことをしながらもお前には一切の罪悪感がないッ! 最悪だッ! お前こそが死ぬべきだったんだッ!」
「焼失した文化財の事を言ってるのか? なるべくは持ち出したが、確かに残念だったな。それに復興には金を出してやる。人も動かす。国会も機能させよう。そもそも、殺すべき敵以外に、誰も死んでいない。そして、敵は人間ではない」

 男は、俺を見て、信じられないような顔をした。

「人間じゃない、だと。お前は何を言ってるんだ? お前は、おかしい。正気じゃない」

 だから俺は言うのだ。分かっていない人間に。

「あれは魔王、第四世代人類殺戮型魔王【アグル・ティアコラス】。お前の幼なじみの樋上涼子ちゃんはとっくに意識なくして、乗っ取られてた。配慮してるんだ。殺す前にちゃんと検査してやったんだぜ? つーか、勇者様。お前が倒すべき魔王を代わりに倒してやったんだから、少しは感謝したらどうだ? 放って置いたら、日本ごと炎上して終わってたんだぞ?」
「許せるものか……。……許せるもんか。許せる、もんかぁああ!」
「蜜美、やってくれ」

 俺が指を鳴らし、そうして終わる。三年前の出来事だ。


 -弐/

 ――死ぬべき人間は、誰だったのか。

 その日は、飼っている猫たちに餌を与え、テレビとパソコンの電源を落とすとベッドに向かった。
 観光街の多い、片田舎の地方都市。温泉で有名なその土地の片隅に構えたアパートで、俺は眠りについた。
 夢は見なかった。


 -壱/

【全てが終わった後の話】 
【誰もが終わったと確信した後の話】

 彼は帰ってこなかった。会長も帰ってこなかった。タカぼんさん、いや、連理貴久はあの時、私が彼を憎悪し、対決し、逃げ帰ったときが最後の、あの事件から出会えた、最後の機会だった。
 そうだ。彼を真正面から殺害できた最後の機会だったはずなのに。私は失敗したのだ。
 そして私が罠に嵌められ、強制的に元の世界に帰らされた後。彼女はひっそりと私の魂の奥へと帰って行った。
 それから一週間ほどで、あちらの世界で知り合った多くの人も帰ってきた。
 世間的には大事件だったけれど、彼女彼らと出会って事の経緯を聞く気にはなれず。私は誰にも会ってはいない。
 きっと彼らは何も知らないから。
 真相を知っているはずの人間は帰ってこなくて。
 一番真実に近かった彼は、既に彼ではなくなっていて。
 そもそも、私が信じていたかったあの人は、嘘をついていた。

 ……、ごめんなさいと言うべきだったのか。
 すみませんと謝るべきだったのか。
 どうでも良いと振り切るべきだったのか。
 私には、何も思いつかない。
 ただ願わくば。あの人が死んでいるようにと。あの人が殺されているようにと。あの人が、憎くて、憎くて、憎くて、愛おしくてしょうがないあの人が。
 きっと彼に殺されたことを。深く深く祈っている。
 二度と会えない、あの人。
 連理、貴久。

 私は、彼を裏切るべきではなかった?



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