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2012年 3月 7日(水)放送
ジャンル文化・芸能 地域 話題・ブーム
(NO.3171)

アニメを旅する若者たち “聖地巡礼”の舞台裏

視聴率 11.9%
株式会社ビデオリサーチ 世帯視聴率(関東地区)

謎のブーム アニメの“聖地巡礼”

瀬戸内海に面し、江戸時代の町並みを残す広島県竹原市です。
去年の秋、突然週末におよそ2000人の若者が集まるようになりました。

「きょうは、どちらからいらっしゃったんですか?」

「神奈川です」

「愛知です」

「私は東京です」

「アニメの聖地巡礼で」

きっかけになったのは去年東京、大阪を中心に放送されたあるテレビアニメです。

「いい? かおちゃん、撮るよ。」

主人公は竹原に引っ越してきた女子高生。
父親の遺品のカメラで町や友人を撮影しながら何気ない日常の中に幸せを感じるストーリーです。

「ぽって、見えちゃうぞ。」

竹原を訪れたファンは町を隅々まで歩き回り、アニメの背景で描かれた場所を探します。
頼りにするのは、聖地マップ。
ファンがインターネット上で情報を集めて作ったものです。

こちらは、主人公たちが放課後にいつも集まる、お寺。

「ほら 煙突の向こう 海も見えるんだよ。」

「すごいですね そのまんまですね」

この場所は、主人公がいつも立ち寄る写真館でファンが必ず訪れる人気スポットです。

「あった あった」

聖地巡礼では主人公たちと同じ体験をするのも楽しみの一つです。

「願い事をしながら お地蔵様を抱えて 思ったよりざっくり軽かったらその願いがかなうって」

「重たいです」

「このアニメのキャラクターは、このときどうやって考えてたんだろうとか、どういうことを思ってこの景色を見てたんだろうっていうところも自分が感じられるのかなっていうふうに思います。」

ファンにとっての聖地であるアニメの舞台を誰よりも早く探し当てることに達成感を感じている人もいます。

これまで40か所以上の聖地を回ってきた南谷真哉さんと志川太一さんです。

「これ、金沢の駅前ですね。
これ、自分です。
主人公が、ここの交差点を走るっていうところを実際にやってみようと。」

月に1度は背景に描かれた場所を探す旅に出かけています。

「そのことば、お返しします。」

これは石川県の温泉街を舞台にしたアニメ。
主人公が通ったこの道を3時間かけて探し当てました。

「道路標識が一緒でここと、ここ。
あとは、ここのラインが同じでここに電柱があってとか。」

「通り過ぎようと思ったときにあっ、ここじゃねえ?っていう感じで、
見つけるとやっぱうれしいですし。
それからなんかこう、難易度っていうんですかね、普通だったら見つかんないような場所みたいなのを見つけられたときはやっぱり、うれしいですね。」

●ブームの背景 アニメ産業の苦境

若者の間で巻き起こる聖地巡礼ブーム。
その背景にはアニメ業界の変化があります。

この10年深夜に放送されたアニメ番組が若者にヒット。
新作が次々と投入され大人向けアニメの放送時間が増えています。
その結果制作現場にのしかかる負担は増加。
一つ一つの作品に時間をかけられなくなりました。
そこで、実在の町並みをデジタル写真に収めてそのままアニメの中に取り込む手法が広がってきたのです。

こうしたアニメの作り方の変化が意外にも地方の制作会社によるアニメのヒットにつながりました。

富山県南砺市にあるこの会社では4年前に制作した作品が聖地巡礼を引き起こしました。

「何すんだ!」

富山県の高校を舞台にした青春物語。
雪国の家屋や石畳の道が細かく描かれています。

この会社が背景のモデルとしたのは会社の目の前にある町並みです。
実は背景の多くが会社から半径1キロ以内にある建物です。

「あそこから180度と向こう側から180度だね」

背景をゼロから想像して作るのと違い、近くの町をモデルにして描けば手間暇かけず、コストも抑えてリアルな背景を作ることができます。
これによって地方の制作会社からも独自の作品が生まれるようになったのです。

アニメ制作会社 堀川憲司社長
「美術として全く新しい世界を構築するっていうのはものすごく才能も時間も必要とされるんだけれども、半年前とか8か月前から準備してその世界観を1個作ろうってまず無理ですよね。」

アニメ業界の苦境から生まれた地域密着のアニメ。
それが、いまや現実の町まで変え始めています。

「ああ! すごい!」

去年、この会社が作ったアニメから実際の祭りが生まれました。
アニメのクライマックスで描かれた架空の祭り。
放送の2週間後ぼんぼり祭りとして開催され全国からカメラを手にした5000人のファンが集まりました。

アニメ制作会社 堀川憲司社長
「どんどんどんどん、それが今エスカレートしてるっていう表現が正しいのかどうか分からないけれども、舞台がいろんな所に分散して、日本国内を舞台にしたアニメーションっていうのがすごくいっぱいできるようになってさらに、そのブームって言っていいのかな、は加速はするんじゃないかなとは思いますけどね。」

激変 アニメ産業 “聖地巡礼”ブームの謎

ゲスト境真良さん(国際大学客員研究員)

(聖地巡礼は)アニメの見方の一つだと思うんですよね。
アニメってのは虚構っていうふうに思われてますよね。
実際問題、本当に虚構なんですけれども、虚構であることを分かったうえで、どのぐらい作りこまれているか、どういうふうに緻密に作られているかということを、そこを楽しむ見方っていうのは、結構アニメの中にはあると思うんですね。

●虚構か現実か 推理する楽しみ

(「冬のソナタ」「ローマの休日」の舞台など)それはもうもともとあるって分かってるじゃないですか。
でもアニメの場合には、あるかないかを分からない、でもありそうだ。
ここを探していく、これが制作者と鑑賞者の間の化かし合いというか、推理の、一種の推理ゲームみたいな形になっていると思うんですけれども、これが一つの楽しみだと思うんですよ。
そしてその場所を暴いて、実際に場所に行ってみようと思う。
岡田斗司夫さんが「通の目」っていう言い方をかつてしてらっしゃいましたけれども、内側にある事情、制作会社が富山にあったら現場も実はテーマじゃないかとか。
こういうふうに見ながら、どんどん推理をしていく。
これが一つの見方のゲームというふうに言っていいと思うんですね。

●ブームの背景はインターネットの出現

そういう見方っていうか楽しみ方っていうのは、決して今お話あったように、全く新しいものではない。 昔の「ローマの休日」があったわけですが、アニメの場合には、その謎解きゲームがあって、ファンの間でそれを意見交換するっていう楽しみ、見方があるわけですね。
これがやっぱりインターネットの出現によって、圧倒的にやりやすくなった。
全体の聖地巡礼が、まさに聖地巡礼運動とも言うべき、大きなムーブメントとなったのは、こういった理由があるような気がします。

●地域密着アニメはなぜ若者に受け入れられたのか

たぶん、キーワードが「等身大」だと思うんですが、作品を鑑賞するときに、どうしても自分がその世界に入り込んで、没入していくっていうことがありますね。
そのときに、共感とか実感、リアリティーとか共感というのをどうしても大事にする。
そうするともちろん、いろんな人たちにいろんな環境があるわけですけれども、宇宙に行ってある星にたどり着くとか、あるいはすごい政治家になって日本を救った。
そういったことよりも、やっぱり、あした学校に行って何があるだろうみたいな、等身大のドラマのほうが、実感とか共感を持ちやすいというのが、基本的な構造ではないかと思います。
こういう傾向は昔からあったんですが、それが今回の聖地巡礼みたいなものと、うまく結びついてきているということのように思います。

“聖地”を作れ 狙う自治体

「覚えてないの?
私だけ?」

先月、埼玉県内のスタジオでアニメのせりふの収録が行われました。

制作したのは埼玉県。
1000万円を投じ県内の観光名所や特産品などを登場させます。

これから英語、中国語など4か国語の字幕をつけ、外国人観光客を呼び込もうと狙っています。

「お母さんにお願いされてるでしょ!」

東京と埼玉を結ぶ鉄道路線に目をつけ沿線ごとの観光地を舞台にしたアニメを4話制作。
今月下旬から、動画サイトで世界に向けて配信します。

埼玉県観光課 福島るり子さん
「東京の外国人の観光客を横取りするためです。
埼玉ってこんなにすぐ東京の近くで、こんないい所があるんだよというのをいっぱいアピールして『ちょっと行ってみようか』 ちょっと来られる所なんですよ。
ですのでそういったアピールをしたい。」

現在、放送されているテレビアニメの内容に自治体ばかりか住民まで関わる所も現れています。
千葉県鴨川市です。

「おはようございます。」

月に1度、今後のアニメの展開について話し合うため制作担当者、市の産業振興課住民代表が一堂に会します。
ことし1月に放送が始まったアニメでは随所に鴨川の名前が出てきます。

「鴨川にはいつ来たんだっけ?」

「昨日よ」

「じゃ、鴨川のいいとこ まだ全然知らないね」

制作者側も地元の協力を得てファンが盛り上がればメリットがあると考えています。

「ぷはあ! エナジー充填(じゅうてん)!」

この日の会議では、地元住民から登場させたい名物があるという提案がありました。

「アニメの中で ものすごいおらが丼を出してもらって」

おらが丼とは、地元の飲食店が、たいやあじなど鴨川の食材を使って出している丼ぶりです。

テレビ局担当者
「そのメニューを これっていうのを決めるのには、設定して絵をかいてもらってアニメにしてっていうのがあるので
一体どういうものをアピールしていくか つめてもらった方がいいんじゃないかな」

鴨川の町並みをもっと出してほしいという要望も上がりました。

地元住民
「ビーチのシーンが多いで、美しいのだけども そろそろ飽きるんじゃないのって話があった
で、もっと出てほしいな 他の所も」

このアニメで、聖地巡礼を引き起こすことを狙っている鴨川市は、物語に登場する場所のアピールに力を入れています。
これまで5500万円をかけて整備してきた、この展望台はその中心です。

鴨川市産業振興課 畑中博司さん
「アニメの冒頭のオープニングでもまどかが、この像にいるシーンから始まりますのでやっぱり『ラグランジェ』を象徴する、一番象徴する場所の一つじゃないかなと思います。」

市では、展望台を基点にした巡礼のルートを作り空き店舗の再利用や商店街の活性化につなげたいと考えています。
ここに、市が作る聖地マップを置く休憩所を設け、ファンが集まる拠点にする計画です。

「あそこには(建物が)建たないから 絶対に。
ここにバーンと絵を描いちゃえばいいんだよ」

「向こうから 駅から降りて歩いてきて」

「あれが全部見えるんだよ」

しかし、こうした積極的な取り組みが意外な反応を生んでいます。

アニメファンがインターネットの掲示板に書き込んだ意見です。
厳しい意見が寄せられるようになってきました。
こうした反応に、市の担当者は訪れたファンから直接話を聞き始めています。

鴨川市産業振興課 畑中博司さん
「鴨川市役所の者なんですけれどもちょっとお話伺っても?」

「あんまり露骨にやられるとたぶんやっぱり、そうですねやっぱ、そういうとこあると思います。
なんて言うんですか、先にたぶん打ち出すっていうよりも、実はそこが舞台になってるんじゃないかっていうような形であとあとなんか分かったほうがたぶん人が来るのかなって。
最初から、なんか全面的に押し出しちゃうと、ちょっと。」

鴨川市産業振興課 畑中博司さん
「ファンの方の意見をなるべく聞いてですね、紹介しすぎず、ファンの方がどういったら楽しめるのかというところを、もっともっと研究していきたいなと思います。」

どう生かす? “聖地巡礼”ブーム

もともと、コンテンツを観客のほうが分析して自分たちで巡礼のルートを作っていくっていう、ある種、ユーザーが作っていくタイプのコンテンツなので、それをなんか供給側のほうから提示されて、自分はなんか踊らされてるんじゃないかって思ってしまったら、やっぱり反発は生まれると思うんですよ。
でもひとつ、僕はなんていうか、好感を持ったのは、かわいいじゃないですか。鴨川の。一生懸命で。

最初はどうか分からないけど、一生懸命ユーザーの反応とかみんなのことを考えながら、どうしたらいいんだろうと思い始めていて、基本的には環境側が作って、そのムーブメントに乗っかって、みんなが、世の中が変わっていくというのがすごく楽しいんですが、だんだん鴨川もそこらへんの領域に近づいてきたような気は、しなくもないです。
(ファンが)動かす形にだんだんなってきてるのかな?
分からないですけど。

やっぱり聖地巡礼は、ファンのコンテンツですから、ファンが市を動かす、ファンがコンテンツを動かす、ファンが地域を動かす、これがだいご味なわけでして、そこらへんから自分が、じゃあ鷲宮のサポーターになろうとか鴨川のサポーターになろうとか、ここ大事だよねって気持ちが生まれてくる、そこが大事なメカニズムだと思います。

●重要なのは収入源の確保

(以前のような壮大な世界観のストーリーから離れているが)基本的には、どんなコンテンツも一定の制約の中で想像力をかきたてますので、想像力が単純に下がるということはないと思うんですね。
でもやっぱり、ある特定のコンテンツばかりの領域が膨らんでいくのは、バランスとしてはいいことじゃないような、個人的には気がしています。

途中、話もありましたけれども、メディアの状況も変わってくる中で、アニメのビジネスというのは、決して順風満帆ではありません。
そういう意味では、いろんな形の収入源を開発しなくちゃいけない。
海外の市場もあるでしょうし、グッズとかイベントのような収入もあるでしょう。
それにたぶん、この話は結びついてると思うんですけども、そうであるがゆえに、どこのお客さんをどう狙って、お客さん目線でコンテンツを作り、発信していくということがとても大事になってくるわけで、日本の特定の東京の周辺、関西の周辺、あるエリアの周辺の人だけに受けるようなタイプのコンテンツ作りをしていると、やはりそのあとの収益が伸びにくくなるんではないかという懸念はどうしても残ると思います。

一番大事なことは、繰り返しになりますが、テレビや映画に乗せるということ以外のさまざまな収入源をきちんと確保して、これをビジネスの中の収入源として取り込んでいくこと、まずこれが第一です。
次に海外も含めた市場の開拓が大事で、なかなか海外に対して、コンテンツを出すというのは難しいといわれるんですが、でもぜひそのハードルはぜひ越えて、世界同時公開的なイメージでビジネス展開をせざるをえないということは分かってほしいと思いますね。

●“聖地巡礼”ブーム 今後は

ある種のブームなので、当然下がっていくとは思うんですが、でもこのジャンルは伝統的です。
海外についても、海外の場所も聖地にするような作品も出るかもしれないし、そういう意味では期待はしています。