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原発防災 進まぬ自治体の対応

3月8日 20時58分

東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で、避難などの防災対策を整備する範囲が、これまでの原発の半径10キロから30キロに拡大されます。
その結果、対象となる市町村は130余りとこれまでのおよそ3倍に増え、これらの市町村や道府県は、原発事故を想定した新たな地域防災計画を、ことし10月初めごろまでに作ることを義務づけられます。
しかし、各地では避難などを巡って課題が山積しています。

高齢者施設の避難に課題・佐賀

九州電力の玄海原子力発電所からおよそ3キロのところにある佐賀県玄海町の特別養護老人ホーム「玄海園」では、福島第一原発の事故を教訓に、入所者の避難対策の検討を進めています。
100人のお年寄りが暮らしていて、このうちおよそ半数が寝たきりですが、避難にはいくつもの課題があることが分かってきました。
寝たきりのお年寄りを移動させる場合、ベットから車いすへ移すだけでも2人がかりで、寝たきりのお年寄りの体に負担をかけない状態で移送する専用の車両は、この施設には2台しかありません。
また持ち運びのできるたんの吸引器や酸素マスクも足りません。
この施設が避難先としているおよそ32キロ離れた多久市にある別の施設でも、寝たきりのお年寄りのためのベッドが足りません。
特別養護老人ホームの施設長は、「100人の避難は施設だけでは限界があります。避難することで2次災害が起きないようにしなければならないので、本当に大変なことです」と話しています。
佐賀県が改訂した地域防災計画では、高齢者施設の避難先の確保や移動手段などは、それぞれ施設ごとに対応を委ねているのが現状です。
玄海原発の30キロ圏内にある77の高齢者施設にNHKが尋ねたところ、「避難先が決まっている」と答えたのは僅か1割にとどまっていました。
佐賀県は「市や町と相談しながら適切な場所を進めていきたい」と話しています。

住民が独自に避難準備・松江

松江市鹿島町の古浦地区は、島根原発からおよそ3キロの場所にあり、事故が起きた際に直ちに避難する「PAZ=予防的防護措置準備区域」に入っています。
福島第一原発の事故を受けて、地区では自治会が中心になって、ことし1月までに320世帯すべてを対象に、原発事故が起きた場合の避難に関する独自のアンケート調査を行いました。
このうち、避難にあたって不安に感じていることを尋ねる設問では、「足が不自由で支援が必要」、「高齢で独り暮らしなので避難できるかどうか不安」という声が寄せられました。
地区ではアンケート調査の結果を基に、こうした人たちの避難を手助けする人を事前に決めることにしています。
また地区では、原発事故で避難する際にはマスクや長袖の服を身につけることなど、注意点をまとめたパンフレットを作成し、すべての世帯に配付しました。
しかし、この地区から松江市の中心部に行く道は1本しかなく、しかも原発のある方向に向かって逃げるしかない状況で、避難対策は万全ではありません。
地区の自治会長を務める亀城幸平さんは「アンケート調査をきっかけに、住民には福島の事故を自分自身の問題として考えてほしいです」と話しています。

びわ湖での避難に課題が・滋賀

福井県の原発から30キロ圏内にある滋賀県高島市では、福井県の原発で事故が発生した場合、多い時には3万人以上が避難の対象になると想定し、去年8月から避難計画作りを進めています。
その大きな課題として浮かび上がっているのが、住民を避難させる手段や経路の確保です。
原発と反対方向の南に避難する幹線道路が国道2本に限られているため、住民が一斉に避難を始めた場合、大渋滞になると考えられるからです。
その対策として市では、市内にある合わせて12の漁港や船だまりを拠点とし、びわ湖を使った船による避難も選択肢として検討しています。
ただ、これらの漁港はすべて昭和50年代に改修されたもので、耐震基準を満たした設計になっていません。
その1つ、高島市マキノ町の知内漁港も昭和51年に改修された港で、30年以上が経過した今は、堤防の側面を覆う鉄板の腐食が進み、現在改修工事が行われています。
市では、港の耐震性の調査を始めることにしているほか、避難に使う船をどれくらい確保出来るかどうかも検討を進めることにしています。
高島市原子力防災対策室の古川茂樹室長は「車が大渋滞して動けないという状況の中では湖上輸送が選択肢としてあると思う。港の耐震化は遅れている部分があるのでこれから調査していきたい」と話していました。

受け入れ先も不安・鳥取

原子力発電所の事故に備えた避難対策は、重点的に整備する範囲となっている30キロ圏内だけにとどまりません。
原発からおよそ75キロ離れた鳥取県の倉吉市は、鳥取県の避難計画案で、島根原発で事故が起きた場合、島根県境の米子市の一部の住民およそ1万2000人の受け入れ先となっています。
このため倉吉市では、学校や公民館など27の公共施設が避難所に指定されましたが、避難生活が長期化した場合、市は施設を利用する地元住民に影響が及ぶことを懸念しています。
避難所の1つに指定され、およそ270人の避難者を受け入れる計画の上北条小学校では、体育館はほぼ毎日、体育の授業や地域のクラブ活動に使われていて、学校は避難の長期化で授業などに支障がでないか不安を感じています。
山田正隆教頭は、「避難される方に快適に過ごしていただけるようにしたいと思うが、やはり学校は子どもたちの学習の場であるということを外せないので、そのあたりはこれからの検討課題だと思う」と話しています。
倉吉市では、およそ1600人分の食料品や毛布などの生活用品を備蓄することになっていますが、市民の避難を想定したものであるため、備蓄は足りないほか、避難者にどのように提供するかなど運営面でも課題が残されています。
倉吉市は「外からの避難者をどのように受け入れていくのか、全然決まっていないので、鳥取県や住民と調整をしないといけないと思っている」と話しています。