|
ここから本文エリア らんどまあく@茨城
「すずき文字」工房 車体に躍動「魂の筆」2010年04月03日
車体に巨大文字が躍動し、怒濤(どとう)の絵が浮きあがる。他の誰にも描けない。この男の世界観を人は「すずき文字」と呼ぶ。 鈴木勇さん(75)は看板業40余年。北茨城市磯原町に自ら建てた古工房は、トラック1台がやっと入る。看板もない。 日本中からトラックが詣でに来る。ここは「聖地」だ。受け付け前夜に行列ができ、数分で年間の作業予約が埋まった。最近まで4年待ち。「申し訳ない」と、今は予約をとらない。 「先生」。客は、鈴木さんをこう呼ぶ。名刺や社印、制服まですずき文字だという運送会社社長は「あこがれの芸術品です。魂がこもって、常に完璧(かんぺき)以上。街で止まれば人だかりで、社業も伸びます」と力説する。 間違って描いても、逆に値打ちが出るほどのカリスマ絵師。当人は「ただ職人でありたい」という。塗料まみれ。背は仕事の姿勢に曲がったままだ。 中学時代、教師に藤の絵をほめられ誇らしかった。炭鉱で働いた青年期、詩集を編み、油絵を描いた。合理化で離職後、塗装や看板の仕事に進む。 「下手くそで親方に相手にされず悔しかったね」。帰宅後、未明まで正座して練習。独立しても、「電車の中でも筆を離さなかった」と友人は言う。「木」のはねる部分を納得して描くだけで丸3年かかった。 すべて独学。本屋に通い、美術書から心理学まで、1行でも参考になれば買い込んだ。 自分が好きな物から発想を得る。万年青(おもと)の葉の翻る姿、ボクシングのカウンターパンチ、スポーツカー、といった具合だ。文字に落とし込み、独特のスピード感とバランスを生む。 30年ほど前、大津港の保冷車が東京・築地市場で評判となった。本人の知らぬ間に、口コミで全国区の人気を得ていた。 依頼は幅広い。命名、墓石、神社の奉納幕、ふすま絵、ゲームの背景。美術展の出品依頼もくる。代金は相場より安く、無償サービスもしばしばだ。 字は刻々、進化する。線一本をひく間によくなることもあるという。「人生ずっと努力。常に完全燃焼。今取り組む作品が生涯のベストです」 4年前、仕事中に脳梗塞(こうそく)になった。2年前、がんで胃の大半を取った。妻子や孫の支えで、今も毎日、描き続ける。 命がけで目指すのは神業だ。
マイタウン茨城
|
ここから広告です 広告終わり ここから広告です 広告終わり |