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阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

FACTAleaks――対セラーテム戦争16 勘違い回答

2010年10月06日 [leaks]

予想通り、セラーテムから回答書が届いた。第一印象はまあ、于文革氏からの抗議文と大差ありません。

田原君の協力を得て中国で取材をしたことを、鬼の首でも取ったように騒いでいるのがおかしい。フリーランスの記者に取材を依頼して何が悪いのでしょうか。FACTAはFACTA、新世紀は新世紀です。新世紀が田原君に協力を依頼したとしても、どちらも自分の取材を土台にしているので、本来の出所は別々の記事だということがわからないんでしょうかね。

回答書がブログで公開されるのを意識して、FACTAがいかに「悪徳」であるかを強調しようと必死ですが、大証批判はこれとは別にとことんやりますのでセラーテムさんはご心配なく。回答書が感情的になってくるのはこちらも思う壺である。それで自分たちの信用が回復すると本気で思っているのだとしたら、別の意味でコワイ方々だ。

本誌が送った4通の質問状に、セラーテムは一度もまともに回答できなかったばかりか、中国の「新世紀」誌の記事が自主的に削除されたなどと真っ赤な嘘をついて大恥をかいた。冷徹な投資家にとって、それがすべてと言っても過言ではないでしょう。

さて、回答書を掲載しよう。なぜかファクスで送ってくるので、打ち直しに手間が掛かる。

*   *   *   *   *

ファクタ出版株式会社
阿部 重夫 殿
平成22年9月13日
株式会社セラーテムテクノロジー
代表取締役社長 池田 修

1 はじめに
貴社のFACTA9月号(平成22年8月20日発行)や「対セラーテム戦争」と題する貴社編集長ブログは、当社に対する敵意や偏見で満ちあふれており、真実を国民に伝えようという姿勢は見あたらず、過激な表現で読者の関心を引こうとしているだけです。しかも、貴社の取材は、北京誠信の1つのオフィスを外から見ただけで従業員がほとんどいないと判断したり、他人の写真を于文革氏であるとして掲載したり、当社決算説明会の司会担当者が大証の「宮川やすし調査役」であるとして、「ゴキブリ」、「愚かなスタッフ」と攻撃するなど(司会は宮川氏ではありません)、極めて杜撰であると言わざるを得ません。
 当社が貴社に対して回答することにより、商業主義に偏向した雑誌社に協力することになるのは遺憾ですが、これ以上誤った情報が掲載されることを避けるため、必要な限りで回答させて頂きます。

2 質問事項に対する回答
(1)質問項目1)について
 北京誠信の従業員数は、平成21年12月末の買収完了時点で、すでに360名であり、平成22年6月末時点では424名です。北京誠信は実態がないという貴社の見解は、全くの虚像であり誤解です。これらの従業員は、北京誠信の登記上の住所である北京市豊台区科技園以外に、観湖国際1座含む北京市朝陽区内の3拠点で勤務しております。これらの拠点はすべて北京市主管部門に登記されておりますので、中国内でまともな調査を行えば、上記の事実はすぐに判明するはずですが、貴社には、そのような調査能力すらないものと思われます。
 なお、当社社外監査役および当社監査法人により、上記の拠点の実地監査も実施されております。
 また、豊台区科技園のオフィスにてお会いになられた北京誠信の女性社員の入社が数日前と質問状に記載されておりますが、彼女は、4年前にすでに入社しております。また、本人に確認したところ、そもそも入社時期についての質問は受けていないとのことです。

(2)質問項目2)について
 前回の回答の通り、北京華電恒盛電力は2002年よりほぼ事業を休止し、現在抹消手続き中です。北京市供電局の方針により、抹消手続き中の法人代表の変更は行われません。
 また、于文革は、北京市供電局を2009年5月に退官し、同時に北京京供誠信電力工程の法人代表および総経理を辞任しました。同社法人代表の変更手続きに関しても当社が北京誠信を買収した2009年12月までには完了しております。
 于文革および北京誠信のオペレーションは、北京市供電局および北京京供誠信電力工程とは、一切関係ありません。

(3)質問項目3)について
 中国雑誌「新世紀」の報道関しては、貴社は、記者側関係者である田原真司氏が中国の雑誌社「新世紀」に貴社8月20日発行のFACTA誌とほぼ同様な内容を投稿したにもかかわらず、その事実を読者に隠し、意図的に「ほか一名の記者の連名」と記載するなど偏見及び悪意をもった編集方針で当社に対する記事を作成しております。その後、この中国雑誌「新世紀」は、同社社内調査を行った結果、記事の内容は事実と異なることが判明し、自主的に同社HP記載の記事を削除しています。
 また、当社が民政局住宅合作社の責任者に確認したところ、同社として本件に関する取材を受けた事実はなく、電話すらないとの事でした。
 当社プレスリリースの通り、当社では中国のスマートグリッド事業を川上である発電所/川中である送電網および供電局/川下である智能小区と分類しており、当社が開示した2つのプロジェクトは川下の智能小区のプロジェクトであります。事業主および契約概要はプレスリリースに詳細に記載されており、当社開示に何ら問題はありません。

(4)質問項目4)について
 前回回答の通り、白雲峰氏が科信能環の役員およびCEOに就任した事実はありません。
以上

*   *   *   *   *

この回答書には、見るべき点が2つある。1つ目は、「于文革は、北京市供電局を2009年5月に退官」したというくだり。つまり、于文革氏はそれまで北京市政府の公務員であり、彼がトップを務める北京誠信は北京市政府の関連企業だったということだ。

回答書を受け取ったのは10月号の続報記事の校了直前。このため記事中では詳しく解説できなかったが、政府の関連企業を海外で裏口上場させるには複雑な操作が必要だ。正規ルートの上場は、北京誠信程度の規模では中国証券監督管理委員会(CSRC)の許可が下りない。だから、セラーテムのような海外の「ハコ」を使うわけだが、裏口上場は表向き、外資企業に買収される格好になる。政府系企業のままでは何かと都合が悪い。そこで、経営者が政府関連の持ち株を買い取って「民営化」し、政府との資本関係を消すことで、裏口上場への地ならしをする必要がある。

北京誠信でも同じ操作が行われた。同社の登記簿によれば、セラーテムが北京誠信と戦略提携する直前の2009年8月5日付で、株主の変更が記録されている。株主名簿に名前がなかった于文革氏が11.06%を取得するとともに、既存株主の于文翠氏(于文革氏の姉または妹とみられる)が持ち株を23.75%に増やして筆頭株主になった。同時に、大株主の上位4者を占めていた法人の名前が消え、北京誠信は個人株主17人が出資する“純民営企業”に衣替えした。

ちなみに、北京誠信の資本金は7000万元(約8億7500万円)。于文革氏(と于文翠氏)は額面ベースでも2000万元(約2億5000万円)の資金が必要だったはずだ。それをどうやって用意したのか。本誌は2度にわたって質問したが、回答はなかった。

沈黙の理由は容易に想像がつく。このような操作は、見方を変えれば政府のカネとコネで作られた企業の私物化にほかならない。まして、于文革氏は共産党員である。政府関連企業だった北京誠信をどさくさにまぎれて民営化し、日本で裏口上場させて私腹を肥やしたと証明されたら一体どうなるか。于さん、それはあなたが一番よくご存じですね?

見るべき点の2つ目は、「白雲峰氏が科信能環の役員およびCEOに就任した事実はありません」というところ。前回のブログの質問状を見ていただけばわかるように、本誌はチャイナ・ボーチー前CEOの白雲峰氏が、科信能環CEOの肩書きでセラーテムの役員会に出席していたことや、中国の複数の大学で行われたイベントでスピーチしていた事実をつかんだうえで質問している。だが、セラーテムの回答書はそれに一切触れていない。

白雲峰氏も共産党員である。政府にコネを持つ彼の経歴に傷をつけられないということですかね。まさか庄瑩氏の時と同様、白雲峰氏は「便宜上、科信能環CEOという肩書きを使う場合はあったかもしれません」とでも言い訳するつもりでしょうか。

こんなデタラメな会社を監査する会計士は、さぞかし大変でしょう。パシフィック監査法人の笠井浩一会計士からは、以下のような回答書が届いた。その評価は投資家にお任せするとしましょう。

*   *   *   *   *

月刊FACTA発行人
阿部 重夫 様

9月10日付ご照会の件、下記のとおりご回答申し上げます。

(ご質問内容1)
1)  上記の事実から、セラーテムによる北京誠信の買収は、企業会計基準が開示を義務付けている「関連当事者との取引」に該当するはずです。しかし、セラーテムの有価証券報告書には全く記載されていません。笠井先生は監査にあたり、どのような判断を下されたのですか?「関連当事者との取引」に該当しないとすれば、理由を教えてください?
(ご回答1)
 ご存じのとおり、監査基準において、「監査人は、業務上知り得た事項を正当な理由なく他に漏らし、又は窃用してはならない。」こととなっております。
 したがいまして、申し訳ありませんが、被監査会社に関連するご質問に関しては守秘義務の関係からお答えすることが出来ません。

(ご質問内容2)
2) 北京誠信の子会社化と同時に、中国側から于文革氏ら3人がセラーテム取締役に就任し、日本側からは池田修氏が北京誠信の取締役に就任しました。親会社から子会社への派遣が1人で、子会社から親会社への逆派遣が3人というのは異例です。同時に、セラーテムは社外取締役のポストを新設し、東京大学名誉教授の高橋満氏を招聘しました。この社外取締役のポストは、笠井先生のアドバイスにより設けられたと聞いています。その理由は何ですか?IRでは「コーポレートガバナンスを強化するため」と説明していますが、具体的にはどういう意味でしょうか?
(ご回答2)
まず、そもそもとして、社外取締役に関して私どもがアドバイスをしたという事実はありません。当ご質問は、何らかのアドバイスをしたことが前提となっているかと思いますが、アドバイスをしていない以上、その理由等については当然お答えのしようがありません。

 上記も含め、被監査会社に関連する事項については、守秘義務の関係からお答えするのは難しかと存じます。あしからずご了承いただければ幸いです。
 よろしくお願い申し上げます。

2010年9月13日
パシフィック監査法人
代表社員 笠井浩一

投稿者 阿部重夫 - 17:00| Permanent link | トラックバック (0)



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発行人 阿部重夫

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

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