■魅力あふれる壮大な物語
人類の歴史をコンパクトにまとめた文庫上下巻。2008年の刊行だが、今年に入ってから書店の店頭でよく見かけるようになった。オビには「東大・早稲田・慶應(けいおう)で文庫ランキング1位!」とある。昨年4〜9月の歴史部門の統計結果だ。
著者はシカゴ大学で教鞭(きょうべん)をとっていた歴史学界の長老。原書の初版は1967年だが、本書は大幅に加筆された99年の第4版が底本。01年刊行の邦訳の単行本もその後に出た文庫版も地道には売れていた。一昨年、東大生協と組んで中公文庫の歴史関連書のフェアを行ったところ本書の動きがよく、その後他大学からも反応が。仕掛け販売をした一般書店でも好感触を得て、今年から大々的に販促をスタート。書店向けに作ったパネルの「たった2冊で大丈夫」「世界史を理解する最後のチャンスです」という惹句(じゃっく)も知識欲をそそる。メーンの読者層は40代の男性だが、女性客や若者の多い書店でも順調な売れ行きだ。
私見を交えて語られる通史は壮大な物語のよう。出来事や発明が周囲にどう影響したのか因果関係が説明され、時間と場所の有機的な連なりを感じさせる。文庫版を担当した編集者の角谷(すみや)涼子さんは「技術や芸術、宗教の流れがわかるので、教科書の歴史に苦手意識があっても読める。興味のある部分だけ読んでも楽しめます」。
また、市民の生活や意識の変化にも言及しており、各時代・各国に生きた人々の暮らしぶりが見えてくるところも魅力だ。
読みながら思い出したのはジャレド・ダイアモンドの文明論『銃・病原菌・鉄』(草思社文庫)。こちらも今話題である。文明の行き先が見えにくい現在、人類のたどってきた道をいま一度振り返りたくなる人は多いのかもしれない。
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増田義郎・佐々木昭夫訳、中公文庫、各1400円=上巻10刷8万4500部、下巻10刷8万3千部