無言の挑発を繰り返す一塁走者に館山は5球も牽制球を投じた。それによって18・44m先の相手に対する集中力が鈍ったわけではあるまいが、カウント2-2からのシュートは高めに浮いた。精緻なコントロールを誇る館山にしては珍しい失投だった。
井端がコンパクトに振り抜いた打球はレフトポール際に飛び込んだ。荒木の無言の挑発が引き出した決勝2ランだった。
「あの日、館山のシュートはいいコースに決まっていた。打ち崩すのは容易ではない雰囲気でした。走るぞ、走るぞと揺さぶりをかけたのは〝ちょっとでも甘く入ってくれ〟という狙いがあったからです。
結果的に井端さんのホームランが飛び出すわけですが、ああいう勝ち方をすると周りの誰も褒めてくれなくても、自分自身が一番うれしいんですよね。〝よし、今日はオレの勝ちだ〟って。井端さんの打球がスタンドに入った瞬間、〝よし!〟と思いましたよ」
荒木雅博という男、知れば知るほど奥深く、味がある。今季、プロ野球を観る愉しみが、またひとつ増えた。
「週刊現代」2012年3月3日号より
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