ちょっとした事件だった。球界随一の名手同士のコンバート。職人と呼ばれた二塁手にとって、遊撃はまるで未知のフィールドだった。あれから2年、もがき抜いた男は、再び元の聖域へと帰る。
落合さんを本気で恨みました
セカンドとショートを野球の世界ではキーストーンコンビと呼ぶ。キーストーンとは二塁ベース。多くの打球がこの付近を通過し、野手と走者が知略を駆使してベースの争奪を繰り広げる。つまり二遊間はフィールドにおける要害の地である。
落合博満政権下の8年間で4度のリーグ優勝を達成した中日には荒木雅博というキーストーン・プレーヤーがいる。彼の存在なくして落合中日の躍進はありえなかった。
その荒木が落合に面と向かって、こう言ったのは落合がチームを去る直前のことだ。
「監督、本当に殺したいと思っていましたよ」
フフッと笑った落合、すぐさまこう切り返した。
「ようオマエ、泣き言言わんかったなぁ」
落合の命令で荒木がセカンドからショートにコンバートされたのは'09年のシーズンが始まる前のことだ。落合は'04年の監督就任当初から、セカンドの荒木とショート井端弘和のコンバートをほのめかしていた。結局、'09年は二人がともに故障したこともあり、プランを実行するのは1年先延ばしになった。
このコンバートは専門家の間でも懐疑的な見方が支配的だった。なにしろ荒木と井端の〝アライバ〟は'04年から6年連続でゴールデングラブ賞に輝く、球界きっての名コンビなのだ。
なぜ、この期に及んで息の合った二人のポジションを入れ替える必要があるのか。あのピンク・レディーだってケイちゃんとミーちゃんの立ち位置は不変だったではないか。荒木の心中も複雑だった。
「落合さんは監督に就任した時から(コンバートの)話をしていたので、いつかはやるんだろうと心の準備はしていました。しかし、まさか本当にやるとは・・・・・・」
高校(熊本工)時代は名の知れたショートだった。プロでも入団2年目の'97年には16試合、ショートのポジションについている。
しかし、'02年にセカンドのレギュラーに定着してからは、数えるほどしか〝里帰り〟はしていない。久しぶりのショートは荒木にとって針のムシロだった。
「一番ショックだったのはファーストまでボールが届かないこと。普通に投げたら全部ワンバウンド。思いっきり投げたら暴投になりました。
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