【候補作】
- 『橋の上の「殺意」 畠山鈴香はどう裁かれたか』(鎌田慧著 平凡社)
- 『絞首刑』(青木理著 講談社)
- 『ヤノマミ』(国分拓著 日本放送出版協会)
- 『トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所』(中田整一著 講談社)
- 『ファミリー・シークレット』(柳美里著 講談社)
- 『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』
【選考委員名】
- 加藤典洋(文芸評論家)
- 重松清(作家)
- 立花隆(ノンフィクション作家)
- 中沢新一(思想家・人類学者)
- 野村進(ノンフィクション作家)
- 辺見じゅん(ノンフィクション作家)
【司会】藤田康雄
自分の足を使い言葉のなかで踏ん張る
──次に、青木理さんの『絞首刑』の講評を伺いたいと思います。重松さん、よろしくお願いします。
重松 初めに、この作品に対するA評価は、「応援したいA」だと申し上げておきます。堀川惠子さんの『死刑の基準』と比べると、完成度を考えたら、堀川さんに軍配が上がるかもしれません。
けれども、青木さんが死刑というテーマを前にして、オピニオンを書こうとせず、どこまでも具体例を追い、徹底して即物的に書こうとしたところ、そしてとにもかくにも書き切ったところを、ひとつ評価したいと思います。
近年、死刑を巡るノンフィクションが数多く刊行されていて、評価もなされてきていますが、どうしても死刑論議の本に偏ってしまう。死刑そのもの、もしくはそのファクトだけを取り出した、青木さんのようなルポは、まだ少ないと僕は思っています。
とくに、福岡・飯塚の女児殺害事件は、少なくともこんなかたちでまとまったものを読んだのは初めてでしたから、この一章だけで一冊書いてもよかったんじゃないかと思うぐらいの大きなものを感じました。
そしてもうひとつ、鎌田さんもそうだけれど、青木さんは、テレビや映像の世界とは一線を画して、あくまでも自分の足を使って、文章のなかで、言葉のなかで踏ん張っている。その点を高く評価したいなという気持ちがあります。
もしあえてマイナスを言うとしたら、あとがきが長すぎる。そのなかで、自分の課題とか、この作品の欠点とかを言い過ぎてしまっているので、それを半分に減らせば印象はずいぶん変わったと思います。
立花 この本で面白かったのは、頭のところと、お尻のところですよね。いろいろデータ的にも面白いし、冒頭の死刑の描写はユニークだった。ただ、中間のところは平凡で、引用も含めて、それほど評価できないです。
中沢 死刑の問題を取り扱うのに、実例数が中途半端だったのではないかという印象がしました。もっと多くの実例を挙げると、さらに効果があったんじゃないか。もしくは、重松さんがおっしゃったように、たとえば飯塚の事件ひとつにグッと入っていったほうが、考えていることをストレートに表現できたのではないかと感じています。
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