気象・地震

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再生への提言:東日本大震災 指導者は強い姿勢を=東京都知事・石原慎太郎氏

 ◇石原慎太郎(いしはら・しんたろう)氏

=川平愛撮影
=川平愛撮影

 この1年間の行政の動きは全く評価できない。あまりにも動きが遅い。力を使い切れていない。緊急事態であり一種の戦争なのだから、それぞれの「司令官」は権限をフルに使わなければならない。

 例えば、被災地のがれき処理を地元業者に請け負わせるのは分かるが、ゼネコンが効率的に処理できる重機を持っているのに活用しない。さまざまな知識や経験がある役人がいても、政治家が使いこなせていない。がれきを受け入れる自治体を広げるために、首相や担当大臣は「ご協力をお願いします」という姿勢ではなく、強い言葉で命じる、あるいは政令を出すべきだ。

 放射線量をきちんと測り、安全性が確認されたがれきであるにもかかわらず、放射線の風評におびえる人々の反対に遭っている自治体の首長らにも同じ姿勢が求められる。

 それができないのは被災地を再生することへの情熱や指導力、被災した人々に対する思いやりが足りないからだ。

 復旧・復興が進まないのは、戦後の中央集権の仕組みが通用しなくなったからとも言える。大きな権力を持つ者たちこそが、被災地の悲惨さを最も把握していなければならないのに、資料を読んでばかりで現場を知ろうとしない。戦後の日本を良くしたのは役人でもあるが、ダメにしたのも役人だ。雲の上の人になってしまった。

 トインビーは著書「歴史の研究」の中で、「いかなる大国も必ず衰微するし、滅亡もする。その一番厄介な要因は、自らに関わる重要な事項について自らが決定できぬようになることだ」と指摘している。これはそのまま震災や昨夏の節電、原発問題への対応にもたつく日本の姿に当てはまる。

 ものごとの決断、決定には強い意志が要り、その成就のためにはさまざまな抑制や、犠牲さえ伴う。それなのに戦後の日本は、重要な事柄を決めるのに米国の意向を伺ってばかりきた。国家が堕落し、そんな国家の中で国民も堕落した。多くの日本人の人生、生活を占めるのは物欲、金銭欲でしかなくなった。

 この状況を変えるには、占領軍から押しつけられた歴史的に無効な憲法を破棄し、自分の国を自らが守る、運営していく憲法を作ることだ。そうすれば、日本人は本当の「自立」を自覚し、一体感、連帯感を持つことができる。今回の震災でも昔だったら日本人はもっと連帯感を持っただろうに、と思う。【聞き手・渡辺暖】

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 ■人物略歴

 作家。一橋大在学中に芥川賞。79歳。

毎日新聞 2012年3月7日 東京朝刊

 

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