イバライガーに扮した男性。手に持つのは、路上で救ったカルガモ=5月、茨城県つくば市、伊藤写す「獣拳戦隊ゲキレンジャー」のゲキレッド=(C)2007 テレビ朝日・東映AG・東映
子ども向けのテレビ番組「獣拳戦隊ゲキレンジャー」の衣装を無承諾で複製・販売したとして茨城県つくば市に住む男性(41)が先月末逮捕され、今月15日、著作権法違反の罪で罰金100万円の略式命令を受けた。この男性は茨城のご当地ヒーロー「時空戦士イバライガー」でもあった。正義の味方の逮捕は、イバライガー消滅の危機をもたらし、コスプレ業界にも不安を広げている。
■演技者に罰金刑、活動休止
イバライガーは昨年8月、つくば市のイベント会場に突如現れた。未来からやって来たアンドロイドという設定で、茨城の県鳥ヒバリをイメージした容姿。以来、県内各地の催しで、人間の欲が生み出した悪の組織「ジャーク」と闘いを演じた。
ピンチに陥ると、子どもたちは声援を送る。これで立ち直り、必殺技「マックス・ブースト・インパクト」を繰り出し、敵を倒してきた。
イバライガーは、市民有志十数人で製作委員会をつくり、宣伝や音響、美術などを分担。愛知県警に逮捕され、名古屋地裁一宮支部から罰金刑を言い渡された男性が一手に演技を引き受けてきた。
知人らによると、この男性には首都圏のイベントや福祉施設の慰問などでヒーローを演じた経験があった。サーフショップを経営し、サーフボードに使う繊維強化プラスチック(FRP)の加工技術もあった。FRPはヘルメットなどの加工にも使え、衣装はほとんど一人で作っていたという。
逮捕によって、活動は休止に追い込まれた。逮捕翌日の9月26日のつくばみらい市での催しなど、9〜10月は秋の交通安全運動などを中心に5件の登場予定があったが、いずれも中止になった。
アクションも直接教わった男児(4)の母親(30)は「息子は喜んで『大きくなったらイバライガーになりたい』とはしゃいでいたのに、裏切られた気持ち」と話す。一方、自主製作の5分番組を放送していた地元ケーブルテレビ局ACCSや、製作委には「イバライガーが悪いわけではない。活動を再開してほしい」との声も寄せられているという。
■コスプレ衣装業界に波紋
略式命令で認定された事実は、愛知県一宮市の男性医師(47)=罰金50万円=と共謀、テレビ朝日系で今年2月まで1年間放映された「獣拳戦隊ゲキレンジャー」のスーツやマスク、ブーツなど一式を著作権をもつ東映(東京都中央区)の承諾なしに複製し、5月にインターネットオークションに出品、大阪府の男性(38)に8万4千円で販売したというもの。
イバライガーに扮していた男性は今月20日、朝日新聞の取材に「頼まれてマスクに塗装したことはあるが、販売目的とは知らなかった」と話した。県警によると、「子どものころから仮面ライダーなどヒーローものが大好きで、グッズなどを収集していた。衣装などを自分で作るようになり、着て見せることで快感を覚えるようになった」と供述していたという。
あるコスプレ衣装の業者は逮捕後、ゲキレンジャーの衣装の受注を中止した。
客からヒーローもののコスチュームや美少女アニメの衣装の注文を受けると、録画した番組を繰り返し見てデザインを起こし、布の質や色を指定して中国の工場に発注する。オーダー服として要望に応えてきたが、デザイナーの男性は「こういった仕事は著作権法上、グレーゾーンかもしれない」と感じている。
コスプレに詳しい評論家の牛島えっさいさんは、今回の逮捕を「コスプレではなくコピーの問題だ」とみる。コスプレとは、自分が好きなキャラやアイドルに同化したいという愛情表現で、自分で工夫して作るところに意味がある。「コピーをして商売にしたらアウト」と話す。
「ヒーローそのものに対する裏切り行為で、到底許されない」と刑事告訴に踏み切った東映も、「コスプレ文化を否定するものではない。著作権法の『私的利用』の範囲内であれば、むしろ思う存分楽しんで欲しい」(テレビ商品化権営業部)という。(見市紀世子、伊藤悟、梶田正)