福島第一原発の事故当初、新たな水素爆発が起きるなど事故が次々に拡大すれば、原発から半径170キロ圏は強制移住を迫られる可能性があるとの「最悪シナリオ」を、政府がまとめていたことが分かった。首都圏では、茨城、栃木、群馬各県が含まれる。
菅直人首相(当時)の指示を受け、近藤駿介・原子力委員長が個人的に作成した。昨年3月25日に政府は提出を受けたが、公表していなかった。
シナリオでは、1号機で2回目の水素爆発が起きて放射線量が上昇し、作業員が全面撤退せざるを得なくなると仮定。注水作業が止まると2、3号機の炉心の温度が上がって格納容器が壊れ、2週間後には4号機の使用済み燃料プールの核燃料が溶け、大量の放射性物質が放出されると推定した。
放射性物質で汚染される範囲は、旧ソ連チェルノブイリ原発事故の際に適用された移住基準をあてはめると、原発から半径170キロ圏では強制移住、250キロ圏でも避難が必要になる可能性があると試算した。
事故の拡大を防ぐ最終手段にも言及、「スラリー」と呼ばれる砂と水を混ぜた泥で炉心を冷却する方法が有効とした。スラリーの製造装置と配管は、工程表にも取り入れられ、実際に福島第一に配備されている。
政府関係者は「起こる可能性が低いことをあえて仮定して作ったもので、過度な心配をさせる恐れがあり公表を控えた」と説明。
近藤委員長は「当時、4号機のプールは耐震性に不安があり、そこにある大量の核燃料が溶けたらどうなるか把握しておきたかった」と話している。
(c)東京新聞 平成24年1月12日