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金子勇さん(3月1日 05:00)かねこ・いさむ 都賀町(現栃木市)出身。栃木高−茨城大−同大学院卒、工学博士。ソフト開発会社「Skeed」社外取締役。2002年、ファイル共有ソフト「Winny」を開発。東京大学大学院助手だった2004年5月、映画のデータをネット上に公開した男の共犯として、著作権法違反ほう助容疑で逮捕、起訴される。一審の京都地裁で有罪、二審の大阪高裁で無罪。2011年12月、最高裁で無罪が確定した。インターネットの掲示板に書き込んだ際の記事番号から「47氏」と呼ばれた。 −昨年12月、最高裁で無罪が確定した 「長かったけど、本当に良かったと思う。いろんな人にご協力いただいた」 −1審は有罪、2審で無罪の判断だった 「地裁は、良く分からない理由で有罪だった。法律に触れるようなことをやったとは思っていなかった。高裁は、ソフトつくって悪用されたとしても認識した上に利益を得たり悪用を勧めるような行為がない限りはほう助に当たらない、という分かりやすい判断だった。最高裁では(反対意見があり)今回は特例で無罪みたいな言い方で、何をしたらまずいのか分からない、というのが気になった」 −逮捕時の状況は? 「実は、家宅捜索は逮捕時で3回目だった。はじめは(著作権法違反の)正犯の関連先ということでパソコンだけを持っていった。私としては非常に協力的だった。頼まれれば書類にもサインした。私は、何も考えず自分自身の逮捕に協力してしまっていたようだ。2回目はそれを返すという名目で来たが、『今度はあなた自身の容疑で捜索します』と持ってきたPCも持って帰った。ほかのPCも持っていったので、うちのPCがどんどん消えた。トータルで8台押収された。結構困った。今は(返還の)申請中で、実際にはまだ返っていない」 −警察の取り調べは? 「今からするととても誘導的で、初めからシナリオがあってそれを落とし込もうとしていたのだろう。面白いもので『このフレーズを入れたい』というのがあるのだろう。(取り調べの際に)『これ違います』と言うと『じゃあ』と言われて、でも文章中を(フレーズが)移動するだけ。『これを入れたいのね』ということで不毛ですね。結果的に本当に誘導されている。振り返って見ると、警察は私を挙げたかった、ということなんでしょう。だからといって事件を作ってはいけない」 −京都府警の対応に疑問が 「一番最初に情報漏洩にかかわったのが京都府警だったという笑えない話がある。京都府警の漏洩があって、それからはWinnyの周りは漏洩問題騒ぎになった。私からするとWinnyネットワークとウイルスは別にあって、ウイルスに利用されにくくすることはできる。それは本当はやるべきだったのに、放置された感じだった。全て私のせいにしてごまかす、みたいな。正しい対応ではなかったと思う。くさい物にふた状態ですね」 −道具が作られて、良くない使い方をする人がいて。そこで道具を作ったことを罰するのは誤り 「そこは、今回(の裁判で)明確に示せたと思う。ソフトの世界で日本製が広まるのって非常に珍しい。作った人を捕まえれば良い、という短絡的な方向に行ったのはもったいなかった」 −それが有罪になると、プログラマーは規制される 「プログラマーにとっては、ソフトを作った行為そのものがすぐ罪になる、というのは困る話」 −プログラマーが委縮するおそれもある 「(裁判の結果が)プログラマーの変な制約になっては、と、自分も頑張ろうと思った。それで(当初の協力的な姿勢から)180度変わった『警察には何も話さない』と」 −当時の報道は? 「どちらかと言うと、マスコミ報道も警察から情報リークを受けて、世論を誘導するようなノリがあったので、あれは好きじゃなかった」 −一般紙は「犯罪者」的な扱いで報道し、コンピューター関連の雑誌などは冷静にみていた 「そうですね。ネットに詳しい人、技術者は話を良く分かっていた。(ソフトを使った違法行為を)認識し見逃していただけでは罪に問えず、プラスアルファが要る。私は煽ってもいないし、注意しかしていない。『悪用しないで下さい』というのは各所で言っていた。そこは高裁で証拠として取られている」 −世論はどう見えた? 「初めはよく伝わっていない、と感じた。特に一般の人は何が起きているか分からない。『警察が捕まえたんだから、悪いんだろう』と、本質的なところが見えなくなった。当時パソコンは使われるようになっていたが、ネットワーク自体は一般化していなかった」 −Winnyがからんだ情報漏洩は、暴露ウイルスをつくる人がいて、さらに暴露された情報から目ぼしいものを探して「さらす」人がいて、問題が起きる。 「あれもやっかいだった。Winny=ウイルスみたいに間違われたところもあって」 −先日、「さらす」人は2、3人という報道があった。 「メカニズム的には、ダウンロードする人がいないと広がらないシステム。人気があるファイルしか漏洩・拡散しない。必死で地引いている(Winnyのネットワーク上で目ぼしいファイルを探す)人がいれば広まる。数人だけで確かに広がるのかも」 −そもそも、なぜWinnyを開発したのか 「何のためかというと、そもそも動くかどうか分からないので試してみた、というのが本音。弁護団は『山があるから登った』と言っている」 −当初は何に使うかより、動くかどうかに関心があった 「そう。動かないと思っていた。何らかの妨害で失敗すると思っていた。予想以上に動き過ぎちゃった。(バージョン1開発から)ちょうど1年たった2003年4月で、開発を止めて公開停止した。悪用されることが本意ではないので。(ソフトが)動いた結果、応用できるとか問題が起きるというのは、作る前からは示せない。皆さんが見て、考えてくれればいいなあと思った」 編注:Winnyは、バージョン1と2に大別される。1はファイルの共有のみ、2はファイルの更新も共有できる電子掲示板的な機能がある。 −Winnyが本来目指したものは 「あらゆる情報が共有化できる状態。著作物の共有は、言ってみれば図書館みたいなもの」 −情報を共有して便利に、と。ネット上で情報を共有するクラウド技術と同じ思想。 「そう。技術的には同じ。でも、クラウドの発想は情報をユーザー側でなくサーバーに置いてしまえ、ということだから、まだまだ中央集権的」 「あのままWinnyを作っていたら、どっちに行ったか分からない。たぶん、コミュニケーションの方向に発展したと思う」 −金子さんがザッカーバーグ(facebook開発者)になっていたかも? 「分からない。途中でくじけちゃったかも。どっち行ったかは分からない」 −情報共有の流れが進むと、ユーザーの思考、文化も共有される? 「今の段階では始まったばかり。この100倍以上凄い状態になる。ただ、情報は共有されるもの、というのは変わらない」 −デジタル・ネット時代の著作権はどうなる 「私自身はお金を払わないと見られない、じゃなくて、見たらお金を払うシステムにしなきゃ駄目だとずっと言ってきた。問題が起きているなら、私なりに考えてみたのですが皆で議論してみませんか、みたいな感じだった。デジタル時代の著作権については。私の方からは言わない、もう懲りた(笑)。素人が言わない方が良い。専門家が議論してほしい」 −現在取り組んでいることは 「(社外取締役をしている)Skeedという会社のSkeedCastという製品はWinnyの技術をベースにしている。弁護団と拘置所で『こんなアイデアある』としゃべっていたら、『それ、会社つくってビジネスとして回そうよ』というのがこの会社だった。今はリハビリ中。新しいものがないか、探している状態」 −少年時代は 「プログラマー歴長い。小学生のころからやっている。プログラムは簡単だが複雑な動きをする。というのが得意。そういうのが得意だからWinnyが作れた。複雑なものにもツボがある。ここをこうするとこう動く、みたいな。複雑なりに楽しむのが好き」 「初めはエアキーボードだった。教材に付いていた紙のキーボードで打って、プログラムを動かすのは頭の中という、すごい状態だった。マイコンではなく、ナイコンと言われていた、コンピューターはないけど楽しむっていう。初めて実物のコンピュータを動かしたのが、勉強し始めてから1年後ぐらいだった。初めの感想が『うわ、遅っそー』だった。頭の中では瞬間的に動くイメージだった。小学6年のころ」 「中学時代は授業中、延々とノートにプログラムをかりかりと書いている。ノートには、文字じゃなくて16進の数字が並んでいる。で、休み時間になるとポケコン取り出して打ち込んで、友達に『こんなの作ったぜ』とか見せて。今と変わってないですね」 −着想のヒントにするものは? 「私は人の話を聞かない。流行り物も嫌い。ひねくれ者なので自分の考えでしかやらない。自分の考えだと間違いに気づかないが、コンピュータの良いところは、プログラムを組んでみて、動かしてみれば結果が分かる。だから自分自身で検証できる」 −デジタル・ネット時代の新聞社にアドバイスを 「従来、紙はコピー代がかかる、だからコピー代の上に情報代をのせる、みたいな方法でずっとやってきた。これはコピーがただ同然になると破綻してしまう。本もCDも、全ての著作物が同じ問題を抱えている。いかに情報にお金を出してもらうかを議論すべき。うまいモデルを考えたところが一世を風靡する。少額課金のシステムなんかは重要。ただ少額課金そのものは、従来と変わらない。皆が競争してやっていくと、デフレ起こしてやってられなくなってしまう。人気のあるものをつくったところにお金が集まるようにしないと、ネットもうまくいかない」 「もとはインターネットは研究者がつくった。研究者の世界の著作権は、一般とはちょっと違う。参照するのは自由にウェルカム、「中身を自分のものとして盗まないで下さい」というのが研究者の著作権。複製は気にしていない。ネットは元々そういう世界なので、お金を払ってコピーをもらう、という従来のモデルだとうまくいかないのかな。それは本質的なところ。ウェブ自体も物理屋さんがつくった世界だから」。 |
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