【ベルリン篠田航一】欧州が財政危機に見舞われる中、ドイツが強固な輸出力で黒字を続ける「独り勝ち」の状況を背景に、ドイツ語学習者が世界で増加傾向にある。
独誌シュピーゲルによると、世界90カ国以上、約150カ所でドイツ語講座を開く公的文化機関「ゲーテ・インスティトゥート(GI)」でドイツ語を学ぶ受講者は昨年、過去最高の23万4000人を記録した。10年に比べ8%の増加だ。
GI本部のレーマン代表はシュピーゲル誌に「文豪ゲーテやシラーを原書で読みたいとの動機はもはや過去。財政危機の今、特に若者はドイツ語を仕事に生かそうと考えている」と分析している。
急増が目立つのは危機が深刻な南欧諸国で、特にスペインでは10年比で25%も増加。ドイツからの厳格な財政規律順守の要請に反発し、反独デモが絶えないギリシャでも2割増で、「ギリシャを去り、ドイツ語を武器により良い就職を目指す受講者が多い」(アテネのGI代表)という。
実際、ビジネス分野でのドイツ語需要は高まっている。ドイツ経済技術省によると、移民によるドイツでの起業も増える一方で、09年に国内で新たに設立された40万社のうち約3割(13万社)は外国出身者の起業だった。ベトナム出身のレスラー経済技術相は「外国出身者の起業でドイツ経済も活性化する」と歓迎する。
一方で、メルケル政権の与党議員が「欧州では今、ドイツ語が話され始めている」と得意になって語る風潮などには反発も強い。英大衆紙が「(ナチスの第三帝国に次ぐ)第四帝国の台頭だ」とドイツ脅威論をあおるなど、一部では反独感情も高まりを見せている。
毎日新聞 2012年3月6日 19時33分(最終更新 3月6日 21時07分)