東京・八王子の「おなかクリニック」に羽田丈紀先生(47)を訪ねた。「おしり解放運動」を始めたという。以前2回ほど、痔(じ)の症状が出たことを思い出す。深酒のせい? 前の夜のキムチか? 病院にも行かず原因ばかりを考え、落ち込んでいた。
成年の3分の1が悩んでいると言われているのに、肛門科の看板はあまり見ない。同科と精神科はビルの1階では開業できないと言われてきたそうだ。受診しているのを他人に見られたくないから。精神科は近年認知が進んで、残りはひとつということか。来院者が手術に至る割合は欧米では4~7%だが、日本では13%という調査結果がある。つまり、日本人は我慢を重ねて重症化してから、病院に駆け込むのだ。
どうしてなのか。羽田先生は文献に当たり、いろんな人に話を聞きながら研究した。排せつ音を隠す習慣・装置は日本では江戸時代からあったのに、外国人はほとんど関心がない。水洗トイレが普及し始めた高度成長期、ある有名女子大では「マナーとして、最低4回流しなさい」と教えたらしい。便にまつわる物語は、日本固有の「恥の文化」と結びついていると確信した。
恥ずかしくて受診できず、治療機関も見あたらない。そうして「隠れ痔主」になった人を幸せにしたい、というのが羽田先生らの解放運動だ。文化を変えるのは難しいから、気軽にかかれる専門医のネットワークづくりを進めていく。ここ数年、「いぼ」の出っ張りを切らずに注射で縮める療法も広がり始めた。再発率は少し高めだが、痛みも出血も少なく、日帰りも可能という。「遺伝子治療が進めばがんの撲滅は可能かもしれません。でも、二本足で立つ人間に痔はなくなりません。専門医はもっと打って出ないと」。羽田先生は、治療側の意識改革を訴えている。
毎日新聞 2012年3月7日 0時23分
3月6日 | ヒーローはいらない=永山悦子 |
3月2日 | プールの中の水=福本容子 |
3月1日 | 肉食女子のひな人形=榊原雅晴 |
徴兵制と拘束衣社会=布施広 | |
2月29日 | 創刊140年余聞=伊藤智永 |
2月28日 | 終わらない「戦後」=大治朋子 |
2月24日 | 日本人論って?=小松浩 |
2月23日 | 27人のいとこ=藤田悟 |
東京オリンピック=落合博 | |
2月22日 | 食べない理由=滝野隆浩 |
2月21日 | 老いの伴走者=永山悦子 |
2月17日 | モンティの証明=福本容子 |
2月16日 | エリートはつらい=榊原雅晴 |
雪の上越と楓石先生=布施広 | |
2月15日 | ネット革命の正体=伊藤智永 |
2月14日 | 「二重外交」のわけ=大治朋子 |
2月10日 | 権利とは何だろう=小松浩 |
2月9日 | 100年後の再挑戦=藤田悟 |
ローザンヌの栄冠=落合博 | |
2月8日 | ああ昭和ライダー=滝野隆浩 |