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AIJ問題:年金基金損失穴埋め困難で連鎖倒産の危機

AIJ投資顧問の入るビル=東京都中央区で、山本晋撮影
AIJ投資顧問の入るビル=東京都中央区で、山本晋撮影

 AIJ投資顧問の企業年金損失問題で、厚生年金基金の運用を委託していた企業が、経営難に陥るのではないかとの不安を強めている。厚年基金は、企業年金のほかに公的年金の厚生年金の一部の積立金を借り、国に代わって運用している。損失が膨らみ、借りた部分の返済を迫られて基金が存続できなくなれば、企業年金が受け取れなくなるおそれもある。過去には倒産したケースもあり、与野党は救済策の検討を始めた。【田所柳子】

 AIJに年金資産の3割超の約65億円を委託していた長野県建設業厚年基金(約370社)。加入する長野市の建設会社幹部は「『AIJ連鎖倒産』が起きかねない」と危機感を募らせている。

 同厚年基金では10年に事務長が約23億円を横領する事件も発生。「AIJへの委託分がゼロになれば、厚生年金の資金は70億円以上不足する」との見方もある。不足分の返済額は1社平均で約2000万円に上る計算だ。

 厚生労働省によると、AIJに委託していた84企業年金のうち、中小企業などでつくる厚年基金は74。約2000億円の委託資産の大半は既に消失したため厚年基金は資金の大部分を返してもらえない公算が大きい。

 積立金に損失が生じれば、加入企業が穴埋めしたり、保険料を引き上げたり、給付額を減らしたりする必要がある。基金の解散もできるが、国から借りている厚生年金の資金の返済が前提。企業年金も受け取れなくなる。

 しかし、給付減額は受給者らの3分の2以上の同意が必要で、企業による穴埋めも難しい。同厚年基金の加入企業の幹部は「基金を解散したいが、赤字企業も多い。返済できる体力はない」と話す。

 厚年基金が、自前の積立金に加え、厚生年金の一部を借りて運用しているのは、運用成績が厚生年金の想定利回りを上回れば、その分を企業年金の利益にできたからだ。

 しかし、バブル崩壊後の景気悪化で運用実績が想定利回りの5・5%に届かず、その分が損失になっている。それでも想定利回りを下げると将来の収入が減るため5・5%の高利回りに据え置く厚年基金が約9割に及ぶ。

 厚労省によると、厚年基金の4割近くが代行部分まで損失が食い込む「代行割れ」に陥り、昨年3月末で6289億円が不足。企業は損失分を穴埋めする余裕もなく、解散もできず、損失が膨らむ危うい状況にある。

 ◇タクシー会社加入基金で14社倒産の例も

 「代行割れ」による倒産は現実に起きている。タクシー会社が加入する兵庫県乗用自動車厚年基金が06年1月、運転手の高齢化などによる掛け金不足で行き詰まって解散。厚生年金の資金の不足額71億円の穴埋めを迫られた。民間調査会社の東京商工リサーチによると、加入企業50社のうち14社が今年1月までに倒産した。

 不足が生じた場合、加入企業ごとに返済額を割り当てられ、5~10年の分割返済もできる。ただ、倒産する企業があると、残りの企業がその分を返済しなければならず、「連鎖倒産」を招く。

 同厚年基金の解散を巡っては、10年11月の衆院厚生労働委員会で公明党の坂口力・元厚労相が「倒産企業の分も残った会社が負担を求められ、新たに倒れる会社が出かねない」と指摘、国による救済制度創設を求めたが、議論は進んでいない。

 民主党は7日、AIJ問題に関する作業チームの初会合を開くが、同党内には救済に前向きな意見も出ている。ただ、厚生年金で損失を穴埋めするような仕組みは、加入者のサラリーマンなどの反発を招きかねない。

 ◇企業年金

 国民年金(基礎年金)、サラリーマンなどが加入する厚生年金などの公的年金とは別に、企業と社員が積み立てる年金。厚生年金基金は企業年金の一種で、公的年金の厚生年金を借りて国に代わって一部を運用している。自前の資金と分けるため国から借りた資金を「代行部分」と呼ぶ。年金資産が消えてしまうと厚生年金の一部も足りなくなるが、企業が穴埋めするなどして年金支給に支障がないようにする仕組みになっている。

毎日新聞 2012年3月6日 21時47分(最終更新 3月6日 23時52分)

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