雨の中、南京大虐殺記念館を訪れた参観者。後方の30万の数字は中国側が主張する犠牲者数=南京市で2012年2月22日、隅俊之撮影
【北京・工藤哲、南京・隅俊之】南京事件を巡る河村たかし名古屋市長の発言について、南京市内では22日、大きな抗議行動は見られないものの、市民は深い失望感を抱いていた。中国国内では一部の保守政治家の極端な発言と受け止められてきたが、河村氏が22日に発言を撤回しない考えを明示したことで、中国政府も強硬姿勢に転じざるを得ず、外交問題に発展する可能性が出てきた。
南京市内にある南京大虐殺記念館は22日、雨天にもかかわらず参観者がひっきりなしに訪れていた。同館の朱成山館長は21日、河村氏に公開抗議文を送り、「南京と名古屋の友好都市関係を壊した」と強く非難していた。
参観した会社員の潘竟財さん(33)は、「事件の証拠はここにたくさんあり、誰も否定できない。発言は(国交正常化)40周年を迎えた中日関係にも大きな影響を与えてしまう」と語った。
中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は22日の定例会見で「(日本政府に)抗議の意を伝えた」と述べ、南京市による名古屋市との交流停止措置について「理解し、支持する」と明言した。今年は日中双方の交流を深める式典が16日に北京で開かれたばかり。中国政府は自治体同士の問題にとどめ、政府間レベルの問題になる事態は避けたい意向だったとみられる。
南京事件は、中国では今もデリケートな問題だ。昨年末に野田佳彦首相の訪中日程が当初、旧日本軍の南京占領から74年に当たる12月13日とされたが延期されたのは、中国側が国内の反日感情に配慮したためとされる。中国映画の巨匠、張芸謀監督による南京事件を題材にした映画「金陵十三釵」が昨年12月から公開され、計450万人以上を集めた。
北京紙「新京報」は22日の社説で、「大虐殺の歴史を否定して、なぜ『友好都市』と言えるのか」「友好都市となって33年後の挑発は悲しく、恐ろしい」と指摘。中国のインターネット上には「(河村氏は)一度南京に来てみるといい」といった書き込みが相次いでいる。