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発信箱:ヒーローはいらない=永山悦子

 「ガソリンを準備しろ!」

 東日本大震災発生後、宮城県石巻市内の病院を支援のため訪れた医師が発した言葉という。先月開かれた災害医療の学会で、その病院の医師が発表したエピソードだ。

 「支援者」たちの要求は、これだけではなかった。食事、宿泊場所、薬品……。自らも被災した病院職員の負担を減らすための当直勤務の応援は不人気で、「現場に行きたい」という要望が殺到。中でも人気は「がれきがある現場」。それらの調整で、支援を受けた病院の職員が逆に疲弊してしまう結果を招いた。

 東北の被災地には、地震直後から医療関係者が続々と支援に入った。当然、わがままな人は一握りであり、準備以上の活動で被災者の健康を守った医師たちは多い。発表も「支援者がいてくれるだけで力になった」という感謝の言葉で締めくくられた。

 一般に支援者は、「被災者のために活動したい」という強い思いに突き動かされて被災地に入る。その思いは大切だ。だが、石巻のエピソードは、強い思いだけで適切な支援相手や現場にであえるわけではないことを示したといえる。広域大規模災害の支援では、現場の事情をよく知る地元の人による「助け」も必要になる。それらを理解しなければ、一歩間違えると支援者が被災地を困らせる存在になりかねない。

 「1年たって少しは落ち着きましたか」と、発表した医師に聞いてみた。彼の返事は「がれきが片付いただけで、1年前と何も変わりませんよ」。津波の痕が更地になり、プレハブの商店街ができても、街を歩く人影は少なく、それは元の姿ではない。支援はまだまだ必要だ。そのとき支援者がヒーローになってはいけない。支援を必要とする人たちこそ主役、ということを肝に銘じたい。(科学環境部)

毎日新聞 2012年3月6日 東京朝刊

 

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