1.はじめに
わが国の産業汚泥排出量は,
年間に1億7千万トンで,これは産業廃棄物全体の43%を占め1), だんとつの第1位である。
汚泥の再資源化率はわずか11%で,
残りは埋立,焼却,
海洋投棄, 不法投棄されている。
近年, 住民運動の高揚と,
埋立処分場の法的規制の強化で,埋立て地の確保が著しく困難になったため,
埋立て可能容量は,毎年急カーブで減少している。
焼却は, ダイオキシン等環境ホルモンの問題が深刻化しており,また,
地球温暖化防止の観点からも忌避される傾向が定着している。
海洋投棄は, 国際法上も国内法上も禁止になることは避けられない。「海洋還元」などという論法は,もはや通用しないのだ
こうなると, 1億数千万トンもの膨大な量の汚泥の始末が深刻な社会問題を惹起することは必然である。
汚泥を何らかの方法で適切に処理しないことには,日本の美しい自然環境が,
汚泥で無残に汚染されてしまう。げんに,北関東や東北各地に「汚泥銀座」なる汚泥不法投棄地域が発現している。
汚泥の再利用については,
いまも識者たちが熟慮中であるが,農地還元,
焼成, 溶融, 骨材資源化,
コンクリート固化,固形化処理,
天日乾燥, ブラックソイル,
炭化,蛋白資源化,
燃料化, メタンガス製造…といずれもコストとデリバリー両面で欠点を克服できないでいる。
もし, 汚泥の処理法として適切な技術が確立されれば,処理量は毎年1億数千万トンもあるので,
巨大なビジネスどころか,21世紀環境立国を目指す日本の基幹産業に成長する可能性すらある。
ところで, 汚泥は放置すると激しく腐敗し,強烈な悪臭と害虫が発生し,
次には住民の苦情が殺到する。この腐敗の抑制,そして減量化と無害化,
これが汚泥処理のキーポイントとなるが,本報は,
汚泥を特殊な分散機(開発コード名:『グルンバ・エンジン』)で微粒子化し,
細菌等極小微生物がアタックしやすい状態にしてから,次工程において嫌気性発酵消化→消散というプロセスを経て,最終的には汚泥という形態を消滅させるという新技術についての最新情報である。
2.汚泥細胞破壊
わが国において汚水処理方式の主流は,
活性汚泥法である。この方式は,好調時は清澄な処理水が得られるが,
欠点は大量の汚泥が発生することである。
都市下水の標準的な活性汚泥処理では, 固形分1〜2%の汚泥が流入水量に対して1%強も生産される。このように大量に発生する汚泥の主要な構成成分は,
細菌, 真菌類, 藻類, 原生動物, 微少後生動物等の生物体である。2)
生物の第一の特徴は, 細胞体であるということである.細胞内に「生命」は宿り,
細胞外と物質・情報の交換を行うこと,これが「生命現象」である。
生物は, 細胞膜という強固なバリヤを張り,厳しい外部環境から自らを守りつつ生命を維持してゆく。
(表 1) 産業廃棄物排出量(全国)
産業廃棄物の種類 |
排出量(千トン/年) |
割合(%) |
燃えがら |
2,678 |
0.7 |
汚でい |
171,450 |
43.4 |
廃油 |
3,471 |
0.9 |
廃酸 |
2,674 |
0.7 |
廃アルカリ |
1,547 |
0.4 |
廃プラスチック類 |
4,334 |
1.1 |
ゴムくず |
94 |
0.0 |
金属くず |
8,533 |
2.2 |
ガラスくず及び陶磁器くず |
5,295 |
1.3 |
動植物性残渣 |
3,543 |
0.9 |
紙くず |
1,193 |
0.3 |
木くず |
6,573 |
1.7 |
繊維くず |
99 |
0.0 |
鉱さい |
42,507 |
10.8 |
建設廃材 |
54,798 |
13.9 |
家畜ふん尿 |
77,208 |
19.6 |
家畜死体 |
28 |
0.0 |
ダスト類 |
7,491 |
1.9 |
その他 |
1,218 |
0.3 |
計 |
394,736 |
100.0 |
(備考)平成2年度, 厚生省調べ.
平成5年版環境白書(各論)より |
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(表 2) 産業廃棄物の再資源化の状況
産業廃棄物の種類 |
再資源化率(%) |
燃えがら |
17.5 |
汚でい |
11.5 |
廃油 |
24.5 |
廃酸 |
26.5 |
廃アルカリ |
8.0 |
廃プラスチック類 |
31.2 |
紙くず |
63.2 |
木くず |
43.3 |
繊維くず |
51.1 |
動植物性残渣 |
31.3 |
ゴムくず |
12.5 |
金属くず |
93.0 |
ガラスくず及び陶磁器くず |
50.8 |
鉱さい |
84.7 |
建設廃材 |
16.0 |
ばいじん(ダスト類) |
78.0 |
処分するために処理したもの |
7.4 |
(備考)平成2年度, 通商産業省調べ.
平成5年版環境白書(各論)より |
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図1は, 細菌細胞の構造図である。細胞膜は菌体の外側をとりかこむ膜状構造で,内側から細胞質膜,
細胞壁, 粘液層あるいは莢膜になっている。細胞壁は細胞質の外側にあるかたい膜である。3)
何層もの様々な膜に守られながら, 生命現象は安全に進行する。図2に掲げた微生物たちも,
すべて膜状構造に守られた生命体である。
汚水の生物処理工程は, 図2の微生物群が汚水中の有機物や無機物を分解しつつ基質として摂取するプロセスであり,この微生物群の塊(フロック)が汚泥である。
生物処理の最終は, 汚泥の脱水工程と次の汚泥ケーキ製造工程であるが,脱水されたとはいえ脱水ケーキの水分は80%もある。どんなに優秀な脱水機でも,
せいぜい70%程度の含水率である。これは,細胞外の水分が脱水されただけで,
細胞内には,表3のように水分がたっぷりと残存しているからである。

(表3)大腸菌細胞の成分
成 分 |
% |
水 |
70 |
蛋白質 |
15 |
核酸 |
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DNA |
1 |
RNA |
6 |
糖 |
3 |
脂質 |
2 |
アミノ酸, ヌクレチオド等 |
2 |
無機物 |
1 |
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