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  とある主従の攻防戦 作者:七誌
真由  後編
「……ん、あぁ、ん、さとる、さまぁ」
 これでは悟様のことを非難できません。私の言い方も子供のようです。
 悟様は飽かずに口で刺激しています。そして指がとんでもないところに入りました。
「いっ、っつう、」
 男の人の指が私の中に、入ってます。ゆっくり入った指は少し動いては止まり、また進んでととうとう根元まで埋まってしまいました。
「すごい、真由の中、きつい、熱い」
 ゆるり、と指が抜かれ瞬間私の中が指を追うようにざわめきました。指はひねられて中の側面をこすっています。
 ぞわり、と背筋をはいのぼる何かがあります。悟様の指の動きにあわせてそのぞわぞわが強弱をつけたり、間隔を変えて襲っています。

「ま、ゆ、真由。どこにも行かせない」
 熱に浮かされたように悟様が繰り返します。指が私の中をこすります。浅いところで指を曲げられ上側を擦られた途端に高い声が出てしまいました。悟様は嬉しそうです。
「――見つけた。真由のいいところ」
 それからは執拗に擦られました。悟様がこんなにしつこい方とは知りませんでした。
「あぁっ、あぁ、ひ、さ、とる、さ……」
 なんだかそこから漏らしたような感じのぬるついたものが出ています。ぬるん、と指がすべりまたさっきの場所に戻ってと、私の中は今や大変なことになっています。相変わらずぞわぞわは消えてくれません。
「指、増やすよ」
 一本でも私には大問題だったのに悟様は二本入れてきました。また痛いです。悟様は意地悪です。
 何で痛いことをしてくるのでしょう。そう言うと
「俺は悪くない。これは俺達の今後のためなんだ」
 俺達の今後とは。悟様のベッドに引きずり込まれてから人が変わられたようです。
 さっきまで泣いて絡んですがっていたのに、何だか強引で、でも子供っぽくて。

 ようやく指が引き抜かれてほっとしていたのに、三度目に私の中に入ってきたのはとんでもないものでした。
 痛い! イタイイタイ、痛い。それしか頭に浮かびません。
 悟様の、その、あれが入っていました。
「……やっぱり、きつい。でも、すごく嬉しい、真由、真由」
 すごく嬉しそうに、そして大事そうに名前を呼んでくださったので少し痛みが薄まった気がしました。
「俺のところにいてくれるか? どこにも、行かないで」
 切なそうに言われて私の胸がまたつきん、と痛みました。
 一度ぎゅっと抱きしめられた後で、悟様がゆっくり動き始めました。動かれると引き攣れるようでやっぱり痛い、です。
 泣きたくないのに勝手に涙がでます。悟様は泣き顔を見ても嬉しそうです。
 やっぱり意地悪です。

「好きだ、真由、だいす」
 私の顔の横に突っ伏した悟様が囁きました。私を好き? 
 かぶさるように悟様がじっとしています。
 溢れる感情で胸がいっぱいになりました。私にとってもいつからか悟様の笑顔は特別なものになっていました。
 私の動悸だって悟様限定です。他の人には、あんなに胸が苦しくなるなど決してないのです。気持ちを告げるなら今しかありません。
「わ、私も悟様のことをお慕いして……聞いていらっしゃいます?」
 悟様は何もおっしゃいません。姿勢もそのままです。
「悟、様?」
 返事のかわりにすう――という音が聞こえました。いわゆる、寝息、です。
 この状況で寝るんですか。いやあれだけ飲めば酔って眠くなるでしょう。それは分かります。でも、でも。

 なんで今寝るんですか?

 中に入ったままの悟様のものも眠ったせいか、小さくなりました。それを体をずらして離しました。
 ずっとこのままだと重いので、体をずらしてどうにか下からは抜け出しました。
 服は、ひどい有様です。悟様のシャツか上着でも借りて部屋に戻るしかありません。
 そろそろとベッドからおりようとした私は、またすごい力で引かれました。本日二度目です。
 悟様が起きたのかと首をめぐらせると、悟様は私ごと横向きになりました。
 ご丁寧にも腕が、片方は腕枕をしてもう片方は腰に回されています。悟様は寝たままです。さっきのは寝ぼけての行動でしょう。
 今や格闘技の固め技のような状態で拘束されています。悟様は寝ているくせに、私を離してはくれません。
 本気でどこにも行かせない気でしょうか。
 こうして私は悟様の腕の中で眠れぬ夜をすごしました。
 背後に聞こえる実に能天気な寝息や寝言にむかむかしながらです。

 そして翌朝、悟様は覚えてはいらっしゃいませんでした。好きだとおっしゃったことも、私の返事も。
 昨夜のことは全部、きっと酔った上での冗談だったのでしょう。
 それを私は真に受けて振り回されたのです。
 私は怒りもありましたが、とても悲しくてやるせない気分でした。
 ですのでつい言ってしまいました。途中までは――けだものでした、と。

 それなのに、それなのに。
 開き直ったかのような悟様は、私が結婚を承諾するまでと散々とベッドで……
 今度は途中で眠ることもなく中をかき回されて、痛みよりも気持ちよさを覚えてしまい、何よりずっと耳元で名前を呼ばれ愛している、どこにも行かないでくれと言われたら……ええ、私はほだされてしまいました。
 疲れ果てた私がドアを開けると、そこには満面の笑みの旦那様と、少々複雑そうなお顔をした奥様がいらっしゃいました。

 あの、まさか、ずっと聞いていらしたんですか? 悟様の服を着て呆然とする私の手を取った旦那様がおっしゃいました。
「真由、いいやもう使用人じゃないから真由さん、どうか、どうかうちの馬鹿息子と一緒になってほしい」
 私、昨日まで使用人ですよ。そう言ってもお旦那様の耳には届いていないようです。
 悟様が後ろから顔を出して、駄目押しをされます。二日酔いのくせして異様に満ち足りた表情です。
「真由は承諾してくれたよ。近いうちにご両親に話をするつもりだ」
 旦那様の舞い上がり様ははっきり言って怖いほどでした。
 それでいいのですか? 本当にいいんですか?
 ただ、奥様は悟様の前に立たれると思いっきり頬を張り飛ばしました。叩かれた頬を押さえて呆然とする悟様と、奥様の暴力を目撃してやはり呆然とする旦那様と私をよそに、奥様はおっしゃいました。
「真由がお前と結婚してくれるのは嬉しいけれど、若宮から預かった大事なお嬢さんに無体なことをした、己の所業は反省しなさい」
 奥様が怒ると怖いと知りました。反抗する気は失せました。
 主から包囲されて撥ね付ける気力はもうありません。
 私はこうして高杉真由になりました。


 そして気付いたことがあります。悟様が馬鹿旦那様であればその妻の私は馬鹿奥様なのだ、と。
 仕事の上で悟様をそう呼ばせるわけにはまいりません。私生活で、特に二人きりの時にはその呼称はぴったりと思わざるをえない状況は多々ありましたが。

 私は発奮しました。その努力は旦那様と奥様を喜ばせる結果に終わりそうです。
 ……結局私はうまく転がされてしまったような気がします。高杉家の方々に。


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