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  とある主従の攻防戦 作者:七誌
真由  中篇
 私も寂しいです、と言おうとした時、悟様が私の足にすがりつかれました。
 高杉家の跡取りである悟様が私の足にすがっている? あまりなことに私は硬直してしまいました。
 これが現実なのに、なんだか脳が認識するのを拒否しているようです。
 悟様は膝をあたりを抱きしめながら、腿のあたりに顎をおいて私を見上げています。目尻には涙がたまり、なんということでしょうとしか言えない状況です。
 大の大人に、しかも主に泣きすがられて、私の方が情けなさに泣きたい気分でした。

 そんな私の気持ちには気付かず悟様は繰言を述べられます。
「真由は俺を捨てるのか? 故郷で誰かと結婚するのか?」
「捨てるって、悟様。私は悟様を拾った覚えもなければ捨てた覚えもありません」
「俺を拾ってはくれないんだな。何故だ」
 何故と言われてもどこの世界に主を拾う使用人がおりましょうか。
 鼻をすすって悟様はテーブルに戻られましたが、おもむろに酒を注いで一気に飲まれています。
 気付いた時には既に二本目でした。
「悟様、飲みすぎですよ。明日に響きます。これくらいでおよしになってくださいませ」
 いくらお酒には強い悟様といえども飲みすぎのような気がしましたので、それ以上飲むのを私は止めました。
 悟様はグラスを片手に私を見ます。なんとなく目が血走っているようです。

「明日に響く? ろくでもない明日など来なくていい」
 こんなに酒癖の悪い方だったのでしょうか? 私は自分の酔いなどとうに醒めて悟様をいさめました。
「悟様」
「真由が行ってしまうのが悪い。悪い子にはお仕置きだ。どこにも行かせてなどやらん」
 一体どんな思考回路なのでしょうか。もう私には理解できません。
 空にした二本目のボトルがテーブルの上で横倒しになりました。
 ゆらり、と立ち上がった悟様の目が据わっています。
 何か得体の知れない恐怖を感じました。じりじりとドアの方へと下がる私を見据えながら悟様は近づいていらっしゃいます。
 これ以上は耐えられなくて背中を悟様に見せて、ドアへと急ぎました。
 もう少し、というところで急に後ろに引っ張られ倒れそうになりました。
 でもそうはならず、悟様にすっぽりと抱きしめられていたのです。

「真由、逃げるな、行くな、ここにいろ」
 頭一つ背が高い悟様の声が耳元で聞こえます。すこし語尾が震えています。
「悟様……それは」
 手をはずそうとしましたが、さすがに男の人の力にはかないません。むしろ更にぎゅっと抱きしめられてしまいました。
「婚約者がいるのか?」
「そんな人は、いません」
 これは本当です。しばらく親子水入らずでのんびりする予定でした。
「じゃあ俺が立候補する」
「はい? 今なんて……」
「真由の相手に立候補する、と言ったんだ」
 私の肩に顔を埋めて悟様はおっしゃいました。吐く息は明らかに酒臭いです。

 私はため息をつきました。
「酔っていらっしゃいますね。冗談はやめましょう」
 私の言葉に悟様はがばっと顔をあげました。前に回された腕に力が入ります。これは、苦しいです。窒息しそうです。
 悟様の手が震えたと思うと私の服をぎゅっと握りました。
「どこにも行かせない。――これならどこにも行けないだろう」
 え、と思うまもなく、悟様の両手が握りこぶしのまま両脇に広がりました。私の服を握ったままで、です。
 布の裂ける音とともに私のブラウスはボタンがはじけ前を広げられてしまいました。
 私は頭が真っ白です。
 ブラウスの前を開いて、悟様は私のスカートのファスナーに手をかけました。
 ここまでくればさすがに私にも危機意識が生まれます。これはまずいです。非常にまずいです。
 ファスナーを下ろされたら負けです。私は必死に抗いました。
 それなのに、この酔っ払いの馬鹿力はまたしてもファスナーのところを力まかせに引っ張って破壊してくださいました。
 スカートは重力に忠実にその場にふわりと落ちました。

 そのまますごい力で引きずられます。この先にあるものはベッドです。
「さ、悟様。正気に戻ってください。冷静に、いいですか興奮するのはよくありません。速やかに私を解放してください」
「い、や、だ」
 一言一言を区切って悟様はおっしゃいました。駄々っ子のようです。
 子供の口からでれば可愛らしいと思いますが、いい大人でしかも酔っ払いの口から出ればただのたわ言です。
 抵抗も空しくベッドに押し倒されました。酔っ払いの癖に、逃げられないようにか知りませんが、器用に体重をかけて私の動きを封じています。こんな技一体どこで覚えたんでしょうか。
 その上で私のブラウスを剥ぎ取ります。ぽい、と投げ捨てられました。
 軽く殺意がわきます。お気に入りでしたのに。
「まゆ――」
 甘えるように名前をよばれて、下着も取られてしまいました。
 いよいよ危機です。
 悟様は上からじいいっと私を眺めます。その視線が怖いです。甘さはかけらもなく、なんだか肉食獣のようです。
 思わずごくり、と唾を飲み込んでしまいました。悟様はなおも見つめたかと思うと、
「真由ばっかり裸はずるい、俺も裸になる」
 ……ああ、酔っ払い。



「さとる、さまっ止めてください。酔っ払っていらっしゃいます」
「嫌だ、やめない。真由に触る。ずっとずっとずうううっと触りたかったんだから」
 悟様にキスされて、ぼんっと私の体温が上がりました。何度か唇がくっついたと思ったら舌でつうっと唇をなぞられます。
 その後でやんわりと唇を噛まれました。悟様の熱い指が耳たぶをなでています。
 くすぐったい、でも嫌じゃない、変な感じです。
 息が苦しくてぷはっと口を開けた途端何かが入り込みました。何これ? 熱くてぬるりとして……
 悟様の舌でした。
 目を見開いて悟様の肩を押しますが、がっちりと後頭部に差し入れられた手が離れずにむしろ密着しています。
 舌が、悟様の舌が、口のなかに。それは探るように動いて私の口を混乱に陥れます。
 ただでさえ悟様の体温を直に感じて身のおきどころがないのに。
 悟様の手は私のいろんなところに触れました。首筋をなでおろされ、鎖骨に沿ってと思うと大きな手が胸を覆いました。

 男の人の手、でした。はじめは置かれただけの手がむに、と胸をもみます。
 親指と人差し指で先端をつままれて思わず体がはねてしまいました。
 やんわりもまれているのに、指先で擦りあわされるようにされると先端がずきんとするんです。
「真由、ここ、かたくなった、可愛い、食べたい」
 悟様の声に、ぞくりとしてしまいました。声に含まれる感情は今まで知らないものでした。
 そして宣言通りに先端をぱくり、と口に含まれてしまいました。途端生じたものに私は身をよじりました。
「あっ、さ、とるさま、っあ」
 あめを舐めるようにしゃぶられて、泣きたくなるような気分です。でも悲しいわけではなく、未知の感覚が怖いという方でした。
 悟様に舐められるとどんどん力が抜けていくのです。それでなくても体格差や体力差があるのに、これ以上非力になったらもう逃げられません。

 片方は口で、もう片方は手でくりくりとされてそれだけでもいっぱいいっぱいなのに、悟様は私の片足をまげて足の間を触りました。
「ひゃっ」
 我ながら間抜けな声です。でも人間、驚きすぎると変な声が出てしまっても仕方ありません。
 悟様の指がつうっと上下しています。割れ目上のところで指が止まりました。胸の先端と同じようにくりくり、とされました。
 途端はねた体は先程の比ではありません。そこは痙攣スイッチですか?
「真由。ここも食べるよ」
 胸を含んでいた悟様の口が、舌がそこに触れます。さっきまで悟様に舐められた胸の先端はつん、ととがって濡れています。
 でも胸を舐められたよりも今、悟様が水音を響かせながら口をつけている所への刺激の方が私には大問題です。
「綺麗な色だ、美味しそう」
 食べ物ではありません。悟様、お気を確かに。そう言いたいのに、私の口からは甘い、甘ったるい声しか出ません。
 そこは言語中枢も破壊するのでしょうか。




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