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この作品は<R-18>です。
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悟 後編
あろうことか翌日には去っていく使用人に、酔ったあげくに手を出したとと。
赤くなったり、青くなったり悟の顔色は面白いように変わっていく。
知らず後ずさってベッドから転げ落ちたが、そんなことはどうでも良かった。
「ま、真由、俺は」
「まずは服を着てください、若旦那様」
起きてからこっち真由は『若旦那様』としか呼ばない。人目がある時はこの呼び方だが、二人の時は『悟様』と悟が希望した呼びかけをしてくれた真由が。
これは相当に怒っているのだろう。
真由の絶対零度の怒りにおののきつつも、とりあえずは言われた通りに服を着る。
「私のは二度と着られませんので、服を貸していただくか、私の部屋に取りにいっていただきませんと」
依然首から下は布団にもぐりこんだまま真由は淡々と言う。
真由と目が合った瞬間、悟はベッドの脇で土下座をしていた。
「すまない、真由。何と言ってわびればいいか、本当にすまない」
「謝罪などいりません、若旦那様。けだものに襲われただけです。犬に噛まれたとでも思っておりますので」
「で、でも、真由。故郷に帰るんだろう? あちらに婚約者とかいないのか?」
泣きそうな気分で悟は真由に尋ねる、
真由は行儀見習いのために家に来た娘だった。そんな娘は礼儀作法が身に付くと、故郷に戻って婚約者と結婚するのが自然な流れだった。つまり結婚目前の娘を無理やりに、というあるまじき行為をしてしまったのだ。
預かった大事な娘さんを傷ものにしたなど、いくらわびても取り返しがつかない。
真由は悟をじっと見て少し顔をゆがめた。辛そうな表情だった。
「そのような人はおりませんのでご心配なく。故郷に戻って両親とのんびり暮らす予定でしたのでお気遣いなく」
そこまで言うと、真由は悟にコートでも貸してくれと頼んだ。それを着て自室に戻るからと。
悟は正座したまま勢いよく顔を上げる。真由をしっかり見つめて再度土下座した。
「俺に責任を取らせてくれ」
「どう、責任をとるおつもりですか?」
「へ? あ、いや、あの、俺と結婚してくれと言いたかったんだが」
真由は悟の言葉にぐっと眉間にしわを寄せた。
「若旦那様。寝言は寝て言え、です。冗談もたいがいになさいませ」
「俺は本気で申し込んでいる」
言い切って悟は納得する。ああ、そうだ、ずっと真由のことが好きで去っていくのが寂しくて、いつまでも側にいてほしくて、酔いにまかせて本心と本能を吐露してしまった。
残念無念なことに昨夜のことを覚えていない。痛恨の極みだが関係を持ったのなら好都合だ。
真由に伴侶になってもらえたら、これ以上に幸せなことはない。
我ながらなんていい考えだと舞い上がる悟を前に、反比例するように真由の機嫌は降下していく。
「本気ならなおのこと救いようがありません。いいですか私は使用人です。主と結婚するなど許されるはずがないでしょう」
「もう使用人じゃない。真由は真由だ。俺はずっと好きだったんだ」
使用人としての真由は細々と働き、よく気がついて家の中を明るくしてくれるような娘だった。
何度も話しかけて人目がない時は友人として接してくれるようになった。
しっかり者で優しい性質を見せてくれて、悟はどんどん真由に惹かれていった。
両親からの結婚話をことごとく蹴散らし、最近では諦められている節まであるのも心に真由がいたからだったと今更ながらに気付いた。
真由は悟の告白を聞いて泣きそうな顔になった。
初めて見る、真由の悲しそうな表情を見て悟は慌てた。
「ま、真由、俺が告白したのがそんなに嫌か? 当然か、俺は昨日真由を……」
「私は使用人です。職を辞しても若旦那様との立場の違いは変わりません。良家のお嬢様と結婚されるのが若旦那様の幸せです」
私は決して若旦那様の妻になれるような者ではありません、と言い切られる。
それきり壁のほうを向いて、真由は悟の顔を見ようとはしなかった。
あれこれと言葉を尽くしても真由は振り返らない。
そのうち悟は焦りだした。その焦りがだんだんと自分勝手な怒りに変わってきた。
「真由は俺の幸せが分かるのか。俺の幸せは俺が決める、俺は真由以外いらない」
着ていた服を再び脱いでベッドに上がり真由の後ろに膝をつく。
振り返った真由が裸の悟を見て悲鳴をあげた。
構わずに布団を引き剥がして真由をこちらに向かせる。
「真由は俺が嫌いか?」
「嫌い、だなんて、そんなことは……」
「じゃあ好きなんだな。両想いじゃないか」
顔を真っ赤にした真由はすす好きだなんて恐れ多い、と慌てているが好きなんだな? と確認すると小さく頷いた。
「で、でもそれと結婚とは別問題です」
じたばたともがく真由を抱きしめて耳元で真摯な気持ちを伝える。
「俺は真由がいいんだ。真由といるのが幸せなんだ。うんと言ってくれるまで」
「……どうなさるというんですか」
胸元でおそるおそる尋ねる真由にゆっくり、にっこり、はっきり告げる。
「うんと言ってくれるまでベッドから出さないぞ」
言うなり遠慮なく腕の中の真由を触り始める。
よくやった昨夜の俺。頑張れ今朝の俺。喜べ未来の俺。
真由の抵抗を封じ、記憶の彼方の昨夜の出来事を取り戻すべく悟は想いをこめて真由を抱きしめる。
「いや、ちょっと、止めて、っどこ触っているんですか?」
「ん? 真由はどこもかしこも柔らかくていい匂いがするなあ。うん、この揉み心地なんか最高だ」
「この……この、馬鹿旦那がああ!」
「ははは、真由は手厳しいなあ」
扉の向こうで悟の両親が手を取り合っていた。
母親は複雑な顔をしつつも、ぼんくら息子に気立てのよい嫁が来てくれることには大賛成だった。
お気に入りの真由に逃げられないようにと、外堀を埋めるべく色々な手配していたのは、人生をかけた攻防を繰り広げている二人には知る由もなかった。
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