工場が密集し、頻繁に海上輸送船が行き交う和歌山県沖の紀伊水道の津波対策として、国土交通省近畿地方整備局港湾空港部(神戸市中央区)が、世界初の可動式防波堤の整備を進めている。平時は航路を確保し、津波発生時に海底の杭(くい)を浮力で浮き上がらせる「直立浮上式」を採用。懸念されている南海地震への備えとして、2012年度に着工する。(斉藤絵美)
敷設されるのは、和歌山県海南市の和歌山下津港。沿岸部には製鉄所や石油精製所、火力発電所のほか、世界的にシェアの高い化学製品の製造会社などが密集している。
同市によると、東海、東南海、南海の3連動の地震(マグニチュード8・6相当)が発生すると、沿岸部に押し寄せる最大の津波は約6メートルとされ、市街地も浸水すると想定されている。
直立浮上式防波堤は、沖合約1・5キロの海底約30メートルに、鋼管を格納した円筒計75本を一直線上に埋設。津波警報が発令されると、自動で鋼管に空気を送り込み、海面上約7メートルまで浮き上がって防波堤の役割を果たす。延長約230メートルになり、3連動地震が発生した場合でも、想定内であれば市街地への浸水を防ぐことができる。
同港は船舶の出入りが多く、防波堤の設置は困難な上、岸壁の防潮堤をかさ上げすることも船の着岸に支障をきたすため、不可能だった。浮上式は平時、海底に沈み込んでいるため、航路の邪魔にならない利点もある。
総事業費250億円。近畿の港湾・空港の整備に当たる近畿地方整備局港湾空港部が、現地での実証実験を経て19年度の完成を目指す。担当者は「仮に想定外の津波でも威力を低減させ、逃げる時間を稼ぐことができる」としている。
(2012/03/05 15:33)
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