'12/3/5
客や従業員ら万感の別れ
58年の歴史に幕を下ろした広島市中区の百貨店、天満屋八丁堀店。最終日の4日、古くからの買い物客や長年勤めた従業員は、店の歩みに自らの人生を重ね、それぞれに華やかな売り場の記憶をよみがえらせた。
雨の中の閉店セレモニー。約千人が店を取り囲むように歩道を埋め、シャッターが下りるのを見守った。中には涙を流す人の姿も。
広島市安佐南区の予備校講師大田輝美さん(64)は、母の形見のコートを着て駆け付けた。58年前の開店日、連れてきてくれたのは母。「できれば閉店も母と見たかった。切ない気持ちだけど、店員さんを他の職場へ笑顔で送り出したい」
午前10時半の開店前に並んだ200人の中には、岡山市南区の主婦横山弘子さん(65)の姿があった。18歳から同店に4年勤め、女性服を売った。店で知り合った夫は昨年3月に他界。「たくさんの思い出をくれた青春の場所」と店の入り口で次女と記念撮影した。
社員は最後のにぎわいに熱心に接客した。1991年から勤める催事担当の池本裕子さん(43)は入社後、紳士用品担当を長く務めた。「当時はいつもお客が多く、首が疲れるほど礼をした」と振り返る。「まだ閉店の実感はないが、新しい職場で前向きに働きたい」。婦人服担当の竹岡浩志さん(37)は「入社した店が閉店するのは寂しい。広島市に残る2店をしっかり盛り上げたい」と語った。
郊外の大型店の相次ぐ進出を受け、天満屋広島地区(八丁堀、アルパーク、緑井店)の売上高は10年近くで3割強も落ち込んだ。特色を打ち出すため2004年に海外高級ブランドを拡充。10年には大型書店を入れるなどてこ入れを図ったが、巻き返せなかった。
周辺の商店街には危機感が広がる。胡町商店街振興組合の大崎浩志理事長(64)は「新たなテナントで引き続き活気を呼んでほしい」。市中央部商店街振興組合連合会の下村純一理事長(62)は「厳しいのは商店街も同じ。中心市街地の存在意義が問われている」と受け止めた。
【写真説明】58年の営業の最終日、大勢の客が詰め掛けた天満屋八丁堀店(撮影・山崎亮)