「立法府に身を置くものとして反省しなければならない」(樽床伸二民主党幹事長代行)
衆院小選挙区の1票の格差是正で、衆院議員選挙区画定区割り審議会の改定案は2月25日の勧告期限を過ぎても提出されず、「違憲・違法状態」になった。
議会制民主主義のあり方が問われ、到底、一朝一夕にはいかない定数削減と選挙制度の抜本改革が絡み、さらにそれが本来、別物であるはずの「税と社会保障制度の一体改革」の条件のように語られている。
このため最高裁の違憲状態判決で突きつけられた1票の格差是正問題が単純化されず、すっきりと整理できないまま与野党協議が暗礁に乗り上げていると言えよう。
与野党で責任のなすりあいが行われているが、小選挙区制導入時の激しい議論を思い返せば分かるように、比例定数80削減や小選挙区比例代表連用制の導入を本格的に議論すれば、簡単に結論がまとまるわけがない。党利党略を超えて、1人別枠方式を廃止し民主、自民で妥協した小選挙区「0増5減」案が緊急措置としてなぜできないのか。
本来なら積極的に収拾に乗り出すべき衆院議長も有識者ヒアリングを提案する程度で、ほとんど機能していない。まさに決めることができない日本政治の象徴的な懸案先送りで、既成政党に対する不信を増幅させている。
野田佳彦首相は2月17日「一体改革」の大綱決定にこぎつけたものの、「定数削減」を盛り込んだことに、野党が「国会の話で、内閣の越権行為」と反発した。反発は当初から予想されたことで、野田首相が陳謝に追い込まれるなど、首相が政治生命をかける一体改革の重みを疑われる結果になってしまった。
神経を使うべき大綱作りの過程で、この点で野党に突かれるとの指摘は誰からもなかったのか。それともあえて野党の反発を予想して、取引材料にしたかったのか。あいかわらずの民主党の政権運営の稚拙さを示すものだ。
当然、立法府の無責任ぶりに関しては、民主、自民両党に大きなしっぺ返しがくる。『朝日新聞』『読売新聞』の2月調査では「支持政党なし」が5割を超え、第1、第2党の両党を足しても支持なしに遠く及ばない。『毎日新聞』調査では菅政権時代の2010年11月以来、「支持政党なし」が両党を足した数字を上回るという異常事態だ。
このままでは選挙を実施しても両党ともに過半数をとれず、第3極がキャスチングボートを握ることは明白だ。既成政党に対する絶望感を打ち消してくれる希望の星として、橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」に注目が集まっていると言っていい。
当初、「大阪維新の会」の国政に対する影響を過小評価する向きもあったが、3月に開講する「維新政治塾」には3000人以上が応募するなど、既成政党の間では今、選挙が行われたら「大阪維新の会」は大ブームになるとの警戒感が広がっている。
「全く関係ない。解散権が縛られるという規定はどこにもない」(藤村修官房長官)と、政府は違憲・違法状態であっても首相の解散はできるという立場だ。しかし、格差是正が進まなければ裁判所から選挙無効の判決が出る可能性もある。与党内からも「憲法違反だから選挙は絶対できない。できるはずはない」(藤井裕久民主党税制調査会長)との発言も出ている。
一方、石原伸晃自民党幹事長は「1票の格差を違憲状態にしておけば衆院選挙ができない理由になる。手の込んだアリバイ工作に使われた」と批判。確かに「大阪維新の会」の進出で民主党が壊滅的な打撃を受ける可能性があり、民主党内の解散を避けたいという人々には格差是正問題の先送りは、皮肉にも朗報であるかもしれない。
内閣支持率は20%台に入るなど続落状況で、支持率と不支持率の差は開いている。ただでさえ選挙の勝利の見込みは低く、政権を握っている与党から「今、選挙をしたら維新の会に議席をもっていかれる。できるだけ選挙は先延ばしにすれば、維新の会のぼろが出るかもしれないし、自民党も困る」(中堅議員)との声が出るのは必然でもあろう。
「0増5減」案の先送りを民主党執行部が容認したことから、早期の解散に反対する小沢一郎元代表への配慮ではないかとの見方も出る。
消費増税反対を訴える小沢氏の発言が目立つようにようになり、首相は内閣記者会とのインタビューで「政府与党がまとまって対応する時に必要な場合には、どなたでもお願いしたり、説得することはもちろんある」と小沢氏の存在を無視できなくなっている。
裁判で小沢氏の共謀関係を裏付けるともみられた元秘書、石川知裕衆院議員の供述調書が証拠採用されず、4月の判決では小沢氏サイドに有利に働くとの見方も強まっている。
大綱決定までは鳴りを潜めていた小沢氏グループが、消費増税法案の国会提出に向けて反対の動きを強め、首相が主張を貫けば党内は混乱する可能性がある。与党を構成する国民新党の亀井静香代表は野田首相について「消費増税の殉教者になって残念だ。死出の旅に旅立ちかけている」とも言う。
東日本大震災の復旧・復興に取り組む菅政権を崩壊に導いた根本原因は与党内のごたごただった。それを再び見せつけられている状況で、民主党がまとまらなければ、自民党も議論に乗りにくくなる。このごたごたに対するうんざり感は内閣支持率のさらなる低下につながり、選挙どころではなくなるという悪循環になる。
「選挙は任期満了。新しい代表の下でも仕方がない」という、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人に続く6人連続の「1年首相」を容認するかのような民主党の厭戦気分を恐れる。
年初、野田首相は「ネバー・ギブアップ」と意気軒昂で、時に解散も辞さぬと語った。「税と社会保障制度の一体改革」は「首相は消費税で解散できないだろう」と甘く見られた瞬間に主張から迫力が消え、首相の求心力は一気に失われてしまう。
2012年3月5日
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。