どうしんウェブ 北海道新聞

  • PR

  • PR

社説

君が代条例 強制も府民市民の声か(3月5日)

 大阪府や大阪市で、公立学校の教職員に君が代斉唱を強いる動きが加速している。

 主導するのは橋下徹・市長率いる地域政党「大阪維新の会」だ。府に続き、市も「君が代起立条例」を制定。維新の会が多数派を占める府議会では、教職員らが職務命令に3回違反するとクビにできる職員基本条例案も近く可決される見通しになっている。

 府教育長名で職務命令はすでに出ており、条例案可決後は君が代斉唱を拒んだ教職員の免職まで踏み込める。

 府内では2月24日の卒業式初日だけで8人の教職員が起立しなかった。またもや、不起立―処分が繰り返される恐れがある。教育の場にふさわしくない対立が続くのではないかと心配だ。

 維新の会が過半数に達していない市議会にも、今定例会で橋下市長が府と同様な職員基本条例案を提案する。府議会と市議会には、条例案の慎重審議を求めたい。

 今年1月、最高裁は東京都教委による不起立教員への処分について、厳罰を戒める判決を下した。

 式典に対する妨害行為がなかった教職員を減給や停職にした処分を「裁量権の乱用で違法」と取り消している。

 裁判官の1人は、起立しない背景に歴史観や世界観、教育上の信念があるとして「精神的自由にかかわるものとして憲法上保護されなければならない」とする意見も付した。

 府議会には、この判断を踏まえた条例案の修正を期待したい。

 松井一郎知事が提案した条例案の基本線は変わっていない。

 3回の職務命令違反で自動的に免職とする昨秋の維新の会の条例案を「違反のつど研修を受けさせる」「標準的な処分が免職」と書き換えたが、研修の義務づけなど、一層の思想統制にもなりかねない。

 一方、大阪市の君が代起立条例案には、府議会では反対した自公両党も一部修正した上で賛成した。衆院選をにらんで、維新の会との反目を避けたい思惑があったとみられている。

 卒業式や入学式を整然と祝いたいのはわかる。しかし、君が代の強制には、戦中の挙国体制の記憶から抵抗を覚える人が今なお多い。

 教職員が内心の自由に反して服従を余儀なくされる環境で、伸び伸びした学びが保証されるだろうか。

 知事選、市長選のダブル選挙で圧勝した維新の会は「自分たちが民意である」と主張しているが、有権者が、自分や子どもたちの内心に踏み込まれることまで認めたわけではないだろう。

このページの先頭へ