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2012年3月5日(月)付

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夏の電力需給―第三者機関で検証せよ

欧米の原発関係者が不思議がっているという。日本で54基ある原発のほとんどが止まっているのに、電力がまかなえていることについてだ。確かに昨夏もこの冬も、電力不足が言われな[記事全文]

中国国防予算―大国に求めたい透明さ

中国の軍事力の増強が止まらない。内実が不透明なままの力の拡大が世界に「脅威論」を広げていることを、中国の指導者は理解すべきである。2012年の中国国防予算は11年の実績[記事全文]

夏の電力需給―第三者機関で検証せよ

 欧米の原発関係者が不思議がっているという。日本で54基ある原発のほとんどが止まっているのに、電力がまかなえていることについてだ。

 確かに昨夏もこの冬も、電力不足が言われながら、大きな停電は起きていない。先日も日本列島を寒波が襲ったが、暖房を止める必要はなかった。

 その理由として、まず国民全体の節電努力がある。電力会社も、ガスタービンなど臨時の設備を増やしたりしている。

 しかし、そもそも日本の電力設備自体が過剰だったといえるのではないか。

 電力会社は、最も電気が使われる季節・時間帯の「ピーク需要」にあわせて発電所を増やしてきた。設備投資を料金に転嫁できる「総括原価方式」がこれを後押しした。発電所の稼働率が諸外国に比べて低いのは、そのあらわれだ。

 需要見積もりも不透明だ。

 政府の見通しでは、今夏、2010年並みの需要があった場合、原発がないと日本全体で約1割の電力が不足する。

 ただし、昨夏並みに需要が抑えられれば、何とかまかなえる水準になるとも指摘している。

 だから、実際に電力不足が言われても、「原発を動かしたい電力会社が需要を過大に見積もっているのではないか」との疑念が晴れない。

 私たちは昨夏の電力需給の実態や今後の見通しについて、詳細な分析を求めてきた。

 だが、電力各社は口を閉ざしたままだ。彼らの「電力不足」を、うのみにはできない。

 政府は、電力需給について第三者の立場からチェックする外部委員会を設けるべきだ。

 参考になるのは、原子力や火力など電源別の発電コストを洗い直した政府の「コスト等検証委員会」だ。立場の違いを超えて学者や専門家が集まり、徹底討論や詳細な情報収集を通じて統一見解を導き出した。

 電力需給でも、電力各社の提出する電源別の供給能力や発電計画、利用者への働きかけなどを専門家たちが検証する。

 企業が所有する自家発電をもっと活用するよう促すほか、他社との電力融通を念頭に、各発電所の稼働率や定期検査時期を調整し、広域でやりくりする。

 いざというときに電力を減らしたり止めたりする代わりに料金を割り引く大口顧客との「需給調整契約」を徹底し、ピーク時にどれだけ電力確保ができるか調べておく必要もあろう。

 電力需給の情報は、電力会社の独占物ではない。政府は情報公開を徹底させるべきだ。

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中国国防予算―大国に求めたい透明さ

 中国の軍事力の増強が止まらない。内実が不透明なままの力の拡大が世界に「脅威論」を広げていることを、中国の指導者は理解すべきである。

 2012年の中国国防予算は11年の実績と比べて、11.2%増の6702億元(約8兆7千億円)に上ることになった。

 13億人以上が暮らす中国は、確かに広大だ。海岸線は1.8万キロ、陸の国境線は2万キロに達する。「しかし、米英などに比べて国防費の国内総生産(GDP)に占める比率は低い」という。全国人民代表大会(全人代)で報道官を務める李肇星・前外相が4日に説明した。

 11年の国防費の対GDP比率は1.28%である。米英などは2%を超える。「中国の軍事力はまったく他国の脅威にはなり得ない」と李氏は強調した。

 「新型の兵器を含むすべての兵器の開発・購入費は、毎年公表される国防予算のなかに含まれ、その数字は非常に透明だ」とも語った。

 だが外から見れば透明とはいえず、まわりの国は変わらぬ懸念を感じざるを得ない。

 国防予算案を審議する全人代の代表にさえ、具体的な内容は明らかにされない。根拠のはっきりしない数字を伝えられるだけである。審議しようにもできず、全人代が中国の国会にあたるとは、とても言えまい。

 米英などの軍事費は中国よりもずっと透明で、議会の厳しいチェックを受ける。それも最近は、財政難で削減が強く求められる傾向にある。

 中国共産党はこの秋に5年に1度の大会を開き、次の党指導者を選ぶ。国家副主席と中央軍事委員会副主席を兼ねる習近平氏が、トップの総書記に就くと確実視されている。

 父が副首相だった習氏は、大学を卒業した後に国防相の秘書を務めた。妻は人民解放軍所属の有名な歌手である。

 このような背景から、習氏は軍との関係が良好だと指摘されている。気がかりなのは、それがさらなる軍事力増強につながりかねないことだ。

 習氏が最近訪問した米国や、日本など周辺国には、中国の軍事力への懸念がますます強くなっているが、世界経済を引っ張る中国と真正面から対立するとは考えられない。

 指導部の交代を迎える政治の季節に指導者が軍との関係を気にするのは理解できる。

 しかし中国は世界に開かれた超大国になりつつある。そんな大国に、予算作りで軍部ばかり重視する「内向き」はもう似合わない。

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