---松本さん自身は把握していないのか。
「私はさきほどの質問で知った次第です」
質問に答える松本純一原子力・立地本部長代理の歯切れはいつにもまして悪く、通常1時間ほどで終わる会見は、中断をはさみ予定時間を大幅に超過した。
「試算について、東電は『調査研究なので、そもそも公表する予定はなかった』という態度を貫いています。さらに『3月11日以降は、事故調査委員会が立ち上がって我々の活動が調査対象となったので、私どもからの公表は控えた』と、事故調のせいにしてかわす姿勢をみせたのですが、記者から、『事故調を隠れ蓑にするな』と鋭い指摘があり、東電側も会見を中座して確認に追われる場面がしばしばありました」(全国紙社会部記者)
そもそもこの試算が行われたきっかけは、'06年9月に国の耐震設計審査指針が改定されたことがきっかけだった。津波に対する安全性に関する文言も明記され、原子力安全・保安院が、各原発の耐震安全性の再評価を求めたのだ。
それに基づいて行われたのが、問題の「津波試算」だった。1896年に起こった「明治三陸地震」(M8.3)と同規模の地震が、福島第一原発の正面で起きたと仮定したもので、東日本大震災での13.1mを上回る、最大15.5mという結果が出た。しかし、原子力安全・保安院に報告を提出したのは、前述のように震災直前だった。東電は今回の大津波に対して「想定外」と繰り返していたが、実際は津波を想定していた上に、3年間も対策はおろか報告すらしなかった。あまりにもひどい〝人災〟だったのである。
「一方、'06年の耐震設計審査指針改定から5年も経っているにもかかわらず、報告書の提出を強く促さなかった保安院の姿勢も大問題です。実は、同じ'08年に東電は『明治三陸地震』とは別に869年に発生したとされる『貞観地震』の数値に基づいた試算も行い、最大9.2mという数値を算出していました。しかし、この報告も遅れ、保安院には1年後の'09年に、『6m級の津波もありえる』と弱められた内容で報告されたのです。もし正確に報告されていれば、事故の様相はまったく違っていたはずです」(前出・記者)
試算が行われた'08年の6月には、報告を受けた武藤氏が、津波対策の指針を定めてきた土木学会に、この試算の検討を要請。その後、武黒氏にも報告された。しかし、取締役会ではこれについて議論されることはなかったという。本誌の直撃に唯一口を開いた藤本孝副社長(当時も)はこう説明する。
「当時、試算後に議論はしていない。役員会議に上がってきていないから。あらゆる過酷な条件で試算は出したが、施設面に不備があるかどうかについて役員は会議をしていないんだよ」
こうした経緯から浮かび上がってくるのは、重要な情報が一部の役員にしか知らされず、監督機関である原子力安全・保安院にも過小に報告していたことが招いた〝人災〟という福島第一原発事故の構図だ。
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