【萬物相】韓国人の「生活の質」と信頼

 米国ニューヨークの青年ジムは、ビルの片隅に屋台を出し、ドーナツとコーヒーを販売していた。だが、朝食や昼食の時間に客が集まってきても待ち切れず、イライラして立ち去るのが常だった。ジムは1人で店を切り盛りしており、釣り銭を渡すのに時間がかかったからだ。ジムは悩んだ末、紙幣やコインがたくさん入ったバスケットを置き、客が自分で会計をするようにした。客たちは「自分は信頼されているんだな」という気持ちから、喜んでチップを多めに置いていくようになった。注文品の受け渡し時間が節約できた上、売り上げは2倍に増えた。

 ジムの話は、著述家スティーブン・R・コヴィー氏が書いた『7つの習慣-成功には原則があった!』で紹介されているエピソードだ。著書『歴史の終わり』で有名な政治学者フランシス・フクヤマ氏は1990年代半ば、世界の各都市で見知らぬ人にお金を借りるという実験をした。お金をすぐに貸してくれる人数のランキングで、ソウルの人々は真ん中くらいの順位だった。フクヤマ氏は著書『「信」無くば立たず』で、人々が一緒に働けるよう助ける能力を「社会的資本」と規定、社会的資本の最たるものは信頼だと主張した。

 米ミシガン大学のロナルド・イングルハート教授は、所得や安定よりも生活の質を重視する方向へ価値観が変わる傾向を「静かな革命」と呼ぶ。同教授は健康・財政・教育を「福祉指数」で、満足・幸福・帰属意識を「楽しさ指数」で表し「生活の質=福祉指数+楽しさ指数」とした。経済協力開発機構(OECD)は26日、ミシガン大学の世界価値観調査(WVS)チームによる研究を基に、韓国人の生活の質は加盟32カ国中31位だと発表した。特に、韓国は集団間の包容力や信頼の部門で評価が低かった。

 WVSチームは「ほとんどの人が信頼できるか、それとも非常に用心しなければならないか」「麻薬中毒者・後天性免疫不全症候群(AIDS)患者・移民・同性愛者・宗教が違う人・酔っぱらいが近所に住んでいるとしたら嫌か」などの質問でテストした。採点の結果、韓国は平均を大きく下回った。韓国は政府・司法・メディアの信頼も下位だった。「助けを求められる知り合いや友達がいる人」の割合も悲惨なものだったという。

 いつごろからだろうか、韓国人の多くが「タルダ(違う)」という単語を「トゥルリダ(間違っている)」という意味で使うようになった。自分の考えと一致しない他人の考えや主張は、「違う」のではなく全て「間違っている」と見なすことから始まった使い方ではないだろうか。それだけ韓国人は「異なる人」「異なる集団」を認め、受け入れるという信頼や包容力に欠けているのだ。そうだとしたら、心安らかでいられるはずはなく、生活の質も下がるほかないだろう。

キム・グァンイル論説委員
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