監査役の機能の強化
コーポレート・ガバナンスの実効性を確保するため、監査役の機能の強化が図られました
1)監査役の取締役会への出席・意見陳述の義務化
監査役は、取締役会に出席しなければなりません。また、必要に応じて、取締役会で意見を陳述しなければなりません。
2)社外監査役の員数等(商法特例法上の大会社に適用)
商法特例法上の大会社(資本金5億円以上か負債総額200億円以上)の監査役の員数は、3人以上であることが必要です。
また、そのうち半数以上は、いわゆる社外監査役(会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人となったことがない者)でなければなりません。
→罰則:監査役の半数以上を社外監査役としなかった場合は、100万円以下の過料
3)監査役の任期
監査役の任期は、就任後4年以内の最終の決算期に関する定時株主総会終結時まで延長されました(改正前は、3年以内)。
4)監査役の辞任に関する意見陳述権
辞任した監査役は、辞任後最初に招集される株主総会に出席し、監査役を辞任した旨及びその理由を陳述することができます。
会社は、辞任監査役に対し、辞任後最初に招集される株主総会が招集される旨を通知しなければなりません。
他の監査役は、株主総会において当該監査役の辞任について意見を陳述することができます。
5)監査役の選任に関する監査役会の同意権及び提案権
商法特例法上の大会社の監査役の選任に関する議案を取締役が株主総会に提出する場合には、監査役会の同意が必要です。また、監査役会の決議により、取締役に対し監査役の選任を株主総会の会議目的とすることを請求したり、監査役の選任議案を提出することができます。
取締役等の会社に対する賠償責任軽減要件の緩和
株主代表訴訟制度による取締役等の賠償責任が過大すぎるとの声に応え、一定の場合には取締役等の責任を軽減する措置が取られました。
改正前にも取締役等の責任を免除する規定はありましたが、それは総株主の同意を要件としていましたので、事実上機能しえないものでした。
取締役等の責任を軽減する方法として、次の2つがあります。
<1> 株主総会決議をもって行う免除
<2> 定款規定に基づく取締役会決議をもって行う免除
また、社外取締役の責任を限定する方法として、定款規定に基づく損害賠償責任の限定契約があります。
1)株主総会決議をもって行う免除
ア)免除の要件
法令違反行為等に対する取締役等の責任について、その取締役等の職務執行が、「善意にして、かつ、重大な過失がなかったとき」は、例外として、株主総会の特別決議をもって、賠償責任負担額から、次の金額を控除した額を限度として免除されます。
<1> 免除決議を行う株主総会終結の日の属する営業年度又はその前の各営業年度の報酬等の額の営業年度ごとの合計額のうち、最高額の4年分(代表取締役は6年分、社外取締役・監査役は2年分)相当額
<2> 次のうち、いずれか低い額
ア 会社から受けた退職慰労金等の合計額
イ 退職慰労金等の合計額を取締役又は監査役としての在職年数で除した額に4(代表取締役は6、社外取締役・監査役は2)を乗じた額
<3> 新株予約権等を取締役等に就任後に行使した場合、若しくは譲渡した場合の利益相当
イ)株主総会における責任免除理由等の開示
取締役等の責任免除決議を行う株主総会においては、次の事項の開示が必要です。
<1> 責任の原因となる事実と賠償責任額
<2> 責任免除限度額とその算定根拠
<3> 責任を免除すべき理由と免除額
ウ)監査役の同意
取締役は、責任免除議案を株主総会に提出する場合、各監査役の同意が必要です(商法特例法上の大会社では、監査役会の全員一致の決議が必要です。また、小会社(資本金1億円以下)では、監査役の同意は不要です。)。
エ)免除後の退職慰労金の支給等
責任免除決議後に取締役等に対し退職慰労金等を与える場合、及び取締役等が免責決議後に新株予約権を行使したり、又は譲渡する場合には、株主総会の承認が必要です。
オ)新株予約権証券の預託義務
責任免除決議があった場合において、責任が免除された取締役等が新株予約権証券を所持する場合、当該取締役等は遅滞なくそれを会社に預託する必要があります。また、その返還を請求する場合には、株主総会の譲渡についての承認が必要です。
2)定款規定に基づく取締役会決議をもって行う免除
ア)免除の要件
法令違反行為等に対する取締役等の責任について、その取締役等の職務執行が、「善意にして、かつ、重大な過失がなかったとき」は、諸事情を勘案して特に必要がある場合は、取締役会決議をもって、賠償責任負担額から次の金額を控除した額を限度として免除することができる旨を、定款に定めることができます。
<1> 免除決議を行う取締役会決議の日の属する営業年度又はその前の各営業年度の報酬等の額の営業年度ごとの合計額のうち、最高額の4年分 (代表取締役は6年分、社外取締役・監査役は2年分)相当額
<2> 次のうち、いずれか低い額
ア 会社から受けた退職慰労金等の合計額
イ 退職慰労金等の合計額を取締役又は監査役としての在職年数で除した額に4(代表取締役は6、社外取締役・監査役は2)を乗じた額
<3> 新株予約権等を取締役等に就任後に行使した場合、若しくは譲渡した場合の利益相当額
イ)監査役の同意
定款を変更して、取締役等の責任免除規定を新たに定款に設ける議案を株主総会に提出する場合、及び責任免除議案を取締役会に提出する場合は、各監査役の同意が必要です(商法特例法上の大会社では、監査役会の全員一致の決議が必要です。また、小会社では、監査役の同意は不要です。)。
ウ)責任免除決議に対する株主の異議手続
定款の定めに基づき取締役会が責任免除決議を行った場合、取締役は責任免除理由や免除額等及び免除に異議があれば一定の期間内(1か月以上)に異議を申述すべき旨を、遅滞なく公告し、又は株主に通知する必要があります。
なお、総株主の議決権の100分の3以上の株主が異議申述期間内に異議を申述した場合は、定款の定めに基づく責任免除はされません。
エ)免除後の退職慰労金の支給等
責任免除決議後に取締役等に対し退職慰労金等を与える場合は、株主総会の承認が必要です。
3)社外取締役の会社に対する損害賠償責任の限定
ア)定款の定めをもって行う損害賠償責任の限定
会社は、いわゆる社外取締役(業務執行取締役でなく、過去及び現在、会社及び子会社の業務執行取締役でない者)との間において、取締役として行った法令違反行為等により会社に損害を加えた場合、その職務を行うにつき、「善意にして、かつ、重大な過失がないとき」に限り、定款に定めた範囲内において、あらかじめ定める額と次の金額の合計額とのいずれか高い額を限度として、賠償の責任を負う旨の契約(責任限定契約)をすることができる旨を、定款で定めることができます。
<1> 責任の原因事実が生じた日の属する営業年度又はその前の各営業年度における社外取締役としての報酬等の営業年度ごとの合計額のうち、最高額の2年分相当額
<2> 次のうち、いずれか低い額
ア 退職慰労金額等の合計額
イ アの合計額を社外取締役の在職年数で除した額に2を乗じた額
<3> 新株予約権等を社外取締役に就任後に行使した場合、若しくは譲渡した場合の利益相当額
イ)責任限定契約の失効
社外取締役が、社外取締役としての要件を満たさなくなった場合、責任限定契約は将来に向かって失効します。
ウ)監査役の同意
定款を変更して、社外取締役の責任限定契約をすることができる旨の定めを新たに定款に設ける議案を株主総会に提出する場合は、各監査役の同意が必要です(商法特例法上の大会社では、監査役会の全員一致の決議が必要です。また、小会社では、監査役の同意は不要です。)。
エ)株主総会における事後報告
社外取締役の責任限定契約をした会社が、社外取締役の法令違反行為等により損害を受けたことを知った場合は、取締役は、その後最初に招集された株主総会において、賠償責任額や社外取締役の報酬額・責任負担免除額等を開示しなければなりません。
オ)行為後の退職慰労金の支給等
責任限定契約により、損害賠償責任の限定が行われた場合で、その後社外取締役に対し退職慰労金等を与える場合は、株主総会の承認が必要です。
4)規定の整備
定款に取締役や監査役の責任免除規定等を定めた場合は、株式申込書にその定めを記載し、登記簿にその事実及び社外取締役である旨を記載する必要があります。
株主の代表訴訟制度の整理・合理化
コーポレート・ガバナンスの実効性を確保するため、株主代表訴訟制度の整理・合理化が図られました。
1)監査役の考慮期間
株主による取締役等の責任追及の訴え提起請求の日から60日以内に訴えの提起がない場合は、請求をした株主は、訴えを提起できます(改正前は、30日以内)。
2)公告又は株主に対する通知
会社は、取締役等の責任追及の訴えを提起した場合、又は株主代表訴訟の告知を受けた場合は、遅滞なく、訴えに関する事項を公告するか、又は株主に通知しなければなりません。
3)訴訟上の和解における取締役等の責任の免除
取締役等の責任追及の訴えについて会社が和解をする場合、また、株主代表訴訟について和解をする場合で、会社が和解の当事者でなく、その和解内容に会社が異議のない場合は、総株主の同意は必要ありません。
4)取締役等を補助するために会社が行う参加の申出
会社が取締役等を補助するために株主代表訴訟に参加する旨の申出をする場合、各監査役の同意が必要です(商法特例法上の小会社では、監査役の同意は不要です。)。