【東京】福島第1原発事故を調査してきた民間の「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」は、政府首脳陣が首都圏から3000万人が避難するといった「最悪シナリオ」を示された際の懸念と緊迫を浮き彫りにした。
内閣府の近藤駿介原子力委員長が3月終盤に作成し、菅直人首相(当時)に提示したこのシナリオは、使用済み核燃料プールの崩壊を想定している。現実になっていれば、コンクリートの基盤に連鎖反応を引き起こし、大量の放射性物質が放出。その結果、首都圏を含む原発250キロ圏の住民が避難を余儀なくされていただろう。
このシナリオは、船橋洋一理事長(元朝日新聞社主筆)率いる財団、日本再建イニシアティブが28日に発表した報告書に記載されている。
民間事故調の委員長で科学技術振興機構の前理事長である北澤宏一氏は、事故調が菅前首相や閣僚をはじめとする政府高官など約300人に対して行った聞き取り調査の結果、これまで国民にはっきり知らされていなかった事故の詳細がわかったと述べた。
たとえば枝野幸男経済産業相は、政府首脳陣が近藤氏の報告書の作成前から「最悪シナリオ」を懸念していたと語った。この言葉は、地震と津波による事故が悪化しメルトダウンの恐怖が高まっていた3月14、15日に、頻繁に政府幹部の口にのぼったという。
民間事故調は枝野氏の発言として、「1(福島第1原発)がダメになれば2(福島第2原発)もダメになる。2もダメになったら今度は東海もダメになる、という悪魔の連鎖になる」と書いている。同氏は「そんなことになったら常識的に考えて東京までだめでしょう」と思っていたという。
こうした懸念のなか菅氏は、福島第1原発に関する最悪のシナリオと、住民の安全を確保するために必要な措置を報告書にまとめるよう近藤氏に指示した。菅氏に提出されたのは3月25日。政府首脳陣と当局者の懸念をおおむね確認する内容だった。
近藤氏は同報告書で、福島第1原発最大のリスクは4号機の使用済み核燃料プールだと結論づけている。4号機建屋の上にあるプールは、水素爆発により屋根が吹き飛ばされたことから野ざらし状態だった。米政府の原子力専門家も、プール内の燃料が露出し、急速に過熱するとの懸念を抱いていたが、航空写真でプールに水があることがわかり懸念は和らいでいた。しかし、近藤氏は3月終盤時点でなお、新たな水素爆発など追加的な事象でプールの底が崩壊し、燃料が危険にさらされることを恐れていた。
北澤氏は、「情報隠蔽(いんぺい)、すなわち『国民がパニックに陥らないように』との配慮に従って行政の各階層が情報を伝えないという情報操作」があったこともわかったとしている。科学者、医師、弁護士、ジャーナリストなど30名以上からなる民間事故調は、政府の調査委が見逃したり避けたりした恐れのある事故の側面を調べる使命を帯びていた。