先日誕生した芥川賞作家…と言うと「不機嫌キャラ」の田中慎弥さんが話題となりましたが、実はもうお一方も大変興味深い作家さんです。 大阪で執筆活動を続ける円城塔さん。 受賞作はすんなりとは読ませてくれません。 奇抜な表現を生み出すその秘密を探ります。 2月17日に行われた第146回芥川賞の贈呈式。 一躍話題になったこの人と並ぶ、もう一人の受賞者が円城塔さん(39)です。
【円城さん】 「大変大きな賞を頂き、光栄に思っております。今後とも精進していきたいと思っております」 北海道出身で、おととしから大阪市内に住む円城さんは、3回目の候補入りにして今回、芥川賞を受賞。 連日、あいさつ回りやサイン会などに追われています。 【円城さん】 「いろんな方が読んで下さるようにはなっているようです。嬉しいのと怖いのとですね」 ところで今回の受賞作「道化師の蝶」は、読者の間で物議をかもしているのです。 【読者】 「いやあ私に果たして最後まで理解しながら進めるかどうかって」 「10人が見て8人は投げ出して2人は天才だと褒めるような、というような話をどこかで聞いたことがあるので」 「頭がねじれるような複雑な感じだったんですけど、すごく面白かったです」 「道化師の蝶」は、世界各国を移動し多くの言語を操る謎の作家を追うストーリー。 芥川賞の選考委員をも悩ませた難解な構成や表現が特徴です。 文章や言葉の持つ意味を根底から問う作品とも言われています。 円城さんの行きつけで、同じく芥川賞作家の玄月さんが営む大阪の文学バー。 【玄月さん】 「『道化師の蝶』を読んだ時はもう、はっきり言ってよく分からへんかったけれども、まあでもこれは(芥川賞を)取るやろうなと思いました」 【円城さん】 「そうですか?」 【玄月さん】 「いや、ほんまですよ」 円城さんの執筆活動は、どこにでもあるような街中の飲食店で行われます。 【円城さん】 「面白がってもらえればいちばんというのが、いつも思う事ですね。だからページをめくるごとに何かびっくりするとかぎょっとするとかいうのがあるがあるのがいちばん良いと思って書いているので。だから本当に満たされたと思った瞬間は何でしょうね。『その本の最初3行を読んだ人が全員飛び上がる』とかですよね、きっと。そこまでやれたら『何か、あ、やったぞ』という気にはなるでしょうけど」 円城さん、ここでペンを手にしました。 難しいとされる「道化師の蝶」を「解説」すると…。 【円城さん】 「1章があって、その1章は翻訳だっていうのが2章で明かされる。3章はこの1章の話を書いている人の話で、4章はこれ全体をレポートとして提出する話。で、書かれたレポートを読むのが5章。これ全体は本で、最後ここから何かちょっと蝶が飛んだりする。この辺が、蝶が飛んだりする。何となくそういうイメージ。特に分かりやすくならない解説っていう感じなんです」
実は円城さん、学生時代に物理を専攻し34歳まで研究者をしていました。 その影響か、小説を書く際にまず構成を図で考えるという変わった手法をとっているのです。 【円城さん】 「あらすじを書くくらいなら図を書く。こういう図を『小説です』と出すと普通、困られますよね。なので小説に書き直す意味はある」 こうして図で書いた構成の中に後で言葉を入れ込むことによって小説が出来上がっていくといいます。 【道化師の蝶より】 「台所と辞書はどこか似ている」 「さてこそ以上。さてこそ。まさしくそう思ったとおりに」 「偽物の旅が機能をはじめる」 小説の中で随所に見られる奇抜な言葉や表現。 円城さんは生活の中で頭に浮かんだことを、その都度メモしています。 【円城さん】 「こういうのです。一言メモです。頭蓋骨の中からノックが聞こえる話があったら、これなんだろうと。歩きながらどっかで浮かんだんでしょうね、覚えてないですけど」 小説ににじみ出る独特の感性は、円城さんが普段から持つ強いこだわりから生み出されているのです。 【円城さん】 「『ウソを管理するツール』とか。ウソを管理したいなと思ったんでしょうね、その時は。『実在しないことの役割が実在する』とかね。存在しないことにも役目はあるみたいな。ふと思ったんでしょうね」 これまでに出会わなかった未知の世界へ読者をいざなう円城作品ですが、敷居は決して低いとは言えません。 なぜあえて変わった作品を作り続けるのでしょうか。 【円城さん】 「小説とは何かという話だとすれば、やっぱり自分が考えてもいなかったことにアクセスするための、手に入れるための道具、そういうきっかけであるとは思っています。本があったから色んな事を考えられるようになった。なので自分の書いた本でも色んなことが考えられるようになってもらえれば嬉しいという。本当にそういうものですね」 物事の正解は一つではないことを伝えたい。 円城さんはこれからも、奇妙な作品を出し続ける意欲に満ちています。