野田佳彦首相と自民党の谷垣禎一総裁による2月25日の極秘会談は消費増税へ向けた民主、自民両党の連携を探る動きと受け止められ、与野党の駆け引きは衆院解散・総選挙含みの「3月政局」に突入した。ただ、消費増税法案の今国会成立に政権の命運をかける首相と、今国会での解散を確約させたい谷垣氏の思惑は必ずしも一致していない。消費増税に反対する民主党の小沢一郎元代表を排除した「小沢抜き大連立」を模索する意図もちらつき、両党内から反発も噴き出している。【須藤孝、犬飼直幸、岡崎大輔】
首相がこの時期に谷垣氏との会談に踏み切ったのは、「消費増税反対」を明確にした小沢元代表に「民・自」連携で対抗する構図を作りたい思惑からだ。与野党が対立したままでは、民主党内で最大グループを率いる小沢元代表に消費増税法案の成否を握られかねない。そのため首相は、消費増税の必要性で一致する自民党の協力を得て民主党内の反対派を押し切る方向にかじを切りつつある。2月29日の党首討論では「(党内の賛否が)51対49でも党で決めたら、しっかり野党と協議する」と強調した。
もともと首相官邸側は昨年末から藤村修官房長官らが自民党の大島理森副総裁らと複数のルートで法案成立に向けた接触を水面下で重ねてきた。その具体策の一つが、法案の成立に自民党が協力する代わりに首相が衆院解散を約束する「話し合い解散」だ。
しかし、政権奪還を目指す自民党内はなお主戦論が強く、首相の呼びかけた消費増税の与野党協議が一向に進まない。このまま解散・総選挙となれば民主大敗との見方が広がり、首相も慎重に解散時期を探る姿勢を示すようになった。極秘会談も解散時期で折り合いが付かなかったとみられ、自民党幹部は「首相に迷いがあるのではないか」と語る。
それでも、選挙基盤の弱い若手中心の小沢グループに対しては、極秘会談が発覚しただけで「解散して小沢を切るぞという官邸側のメッセージ」(自民党ベテラン議員)になる。消費増税反対で小沢元代表と歩調を合わせる鳩山由紀夫元首相は1日、自身のグループの会合で「党として一体感を示すために頑張っていかなければならないときにどういうことなのか」と語り、極秘会談について口をつぐむ首相側への不信感を隠さなかった。
民・自協力が進めば、解散・総選挙後の「小沢抜き大連立」も現実味を帯びる。民主党の輿石東幹事長は1日の記者会見で「消費税に財源を求めることで一致するんだから話し合おうというのが首相の希望だった。谷垣総裁は、それは選挙が終わったらやりましょうと。そこが食い違っている」と思惑の違いを強調。「今、選挙をやる状況にないし、できる状況にもない」と話し合い解散の可能性も否定し、消費増税に突き進む官邸と党内の結束を重視する執行部の温度差ものぞかせた。
「会っていない。(2月25日の極秘会談を否定する)アリバイを示せということには答えない」。谷垣氏は1日の記者会見で極秘会談を打ち消したが、歯切れは悪かった。
自民党内では政党支持率がなかなか上向かないことへの不満が募り、今国会中に野田政権を衆院解散に追い込めなければ、9月の党総裁選を前に「谷垣降ろし」が活発化しかねない状況だ。一方で、消費増税の失敗が財政危機の引き金をひくことへの懸念は野田首相と谷垣氏の双方が共有しており、「話し合い解散」の可能性をトップ会談によって探る狙いだったとみられる。
しかし、極秘だったはずの会談が表面化。1日に国会内で開かれた自民党代議士会では主戦派から「敵は民主党だ。まもなく沈没する野田内閣の船長に救命ボートをさしのべることはない」(河井克行衆院議員)、「政権奪還の戦略が見えない」(下村博文元官房副長官)との党執行部批判が相次いだ。
自民党幹部は「12年度予算案(の審議)などで野田政権との対決姿勢を見せなければいけない時期に極秘会談をしていたのでは谷垣降ろしの動きが加速する」と懸念した。
衆院の解散権は首相が握っており、野田政権と対決する正攻法だけで解散に追い込むのは難しいとの見方から、自民党内でも森喜朗元首相や安倍晋三元首相らが話し合い解散を主張している。消費増税だけ先食いされることを警戒し、解散前の協力に否定的だったのは谷垣氏や大島副総裁だった。
谷垣氏は2月29日の党首討論でも「(選挙後なら)協力する道はいくらでも開ける」と強調。大島氏も官邸側との接触で選挙後の協力を説いてきた。それだけに、官邸側との思惑の違いが残る段階で極秘会談に踏み切ったことには「谷垣総裁も追い詰められている」(自民中堅議員)との厳しい指摘も出ている。
毎日新聞 2012年3月2日 東京朝刊
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。