本文へジャンプします。



文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大
※スタイルシートを有効にしてご利用ください


卵子は次々に作られる、幹細胞の新研究

2012年3月1日(木)18時6分配信 ナショナルジオグラフィック

記事画像

 精子に囲まれたヒトの卵子(400倍に拡大)。Image from Clouds Hill Imaging/Corbis [ 拡大 ]

-PR-

 卵子の数は生まれながらにして決まっているという長年の定説に、新しい研究が異議を唱えた。出産年齢の女性は卵子を新しく作り続けているとする今回の発見は、女性の健康と生殖能力の向上にもつながる可能性がある。

 これまでの定説では、女性は一生分の卵細胞をもって生まれてくるとされていた。しかし最近の実験で、実験室で培養すると未熟な卵細胞(卵母細胞)を生み出す、新しいタイプの幹細胞が卵巣にあることが発見された。成体のマウスの卵巣から単離された卵母細胞は受精卵にもなる。

 幹細胞は、大人の生体組織の一部や胚にみられる、さまざまな細胞に成長する能力をもった細胞だ。

 今回の発見は、同じチームが以前にマウスで行った実験を補強するものだ。以前の実験では、メスのマウスの卵子の源を生殖期間を通して再生する新しいタイプの卵巣幹細胞が確認されていた。

 研究を率いたジョナサン・ティリー(Jonathan Tilly)氏によると、2004年に「Nature」誌に発表された以前の研究は、「若い女性は生まれながらにして、新たな預金ができない、ただ引き出すだけの卵子の口座を与えられているのだという長年の教えが、もはや真実ではないとする結論に初めて到達した」。

 今回の研究は、こうしたこれまでの結果をヒトにおいて補強しており、マウスの実験からの「大きな前進」だとティリー氏は強調する。同氏はボストンにあるマサチューセッツ総合病院生殖生物学ビンセントセンター(Vincent Center for Reproductive Biology)の所長を務めている。

 またティリー氏は、男性の精子は継続的に補充されているのだから、出産年齢の女性が継続的に新たな卵子を生み出しているという考え方は、純粋に生物学的に見ても理にかなっていると述べる。

◆提供された卵巣に幹細胞を確認

 ティリー氏は最初、研究用にヒトの健康な卵巣組織を見つけようとして壁にぶつかった。米国で実験のための卵巣組織を入手するには、今のところ手術で摘出されたものしかない。その場合、組織が健康でないことに加え、小さな塊でしか取り出されず、卵巣のどの部分なのかを正確に知ることができないという問題がある。

 ティリー氏は日本人の同僚とのふとした会話から健康な卵巣組織の提供者にたどり着いた。性別適合手術を受けた日本人女性が生殖器官の一部を検体提供していたのだ。健康な卵巣組織を手にしたティリー氏らは、マウスの実験の時と同じ手法を使ってヒトの卵巣の幹細胞を単離した。

 初めに、生殖細胞(卵子、精子、およびその前駆細胞)に特有の、遺伝子的にコード化されたタンパク質を特定した。このタンパク質は卵子の前駆細胞の表面に小さな「ロープ」を残す。

 そして、「そのロープをつかむ」抗体と呼ばれる別のタンパク質を使い、「蛍光マーカー」で標識をつけた。

 蛍光標識を見つけ出す特別な装置に、卵巣細胞のプールを1列にして送り込むと、卵子の幹細胞はほかのタイプの細胞からあっけなく分離され、ヒトの卵巣の幹細胞が「魔法のように」出現した。

 ただ、卵子の幹細胞はとても珍しく、細胞の数は卵巣全体の1%未満であることも分かった。卵巣でずっと幹細胞が見つからなかったのはこのためかもしれない。「大勢の中に埋もれていたのだ」とティリー氏は述べている。

◆生殖能力の低下は「育成室」の老朽化か?

 研究チームが次に必要としたのは、人体内における卵巣の幹細胞の成長をテストするモデルだった。生身のヒトによる実験は当然ながら法的にもできないため、蛍光標識のついた幹細胞をヒトの卵巣組織の小片に注入し、その組織をメスのマウスに移植した。遺伝子操作によって免疫システムがないマウスであり拒絶反応はない。

 蛍光標識のついたヒトの幹細胞が1〜2週間で若い卵細胞に成長し、蛍光標識がなければ組織内に元からあった卵細胞と区別できないようになった。

 この実験は、生きた人間の組織の中で幹細胞から若い卵細胞が誕生することを示し、「女性の中で新しく発見された細胞の正体を決定づけた」とティリー氏は述べている。

 またティリー氏は、「出産年齢の女性の卵巣にこうした卵子の前駆細胞があることと、年齢を重ねると生殖能力と卵巣の機能が低下するという事実とはまったく矛盾しない」と言う。

 例えば、精巣が衰えた年老いたマウスは、精子の幹細胞はあるが機能しなくなっていることを他の研究者らが発見している。しかし、年老いた幹細胞は若いマウスの精巣に移植されると「目を覚まし精子をもう一度作り始める」のだという。「つまりオスの場合、生殖腺の年齢による衰えは、貴重な幹細胞の減少ではなく、幹細胞がある“育成室”の劣化が原因なのだ」。

 女性が年齢を重ね新しい卵細胞が生み出されなくなるのも、卵巣内で似た現象が起きているのではないかとティリー氏は推測している。

 今回の研究結果は「Nature Medicine」誌オンライン版で2月26日に公開された。

Christine Dell'Amore for National Geographic News

「金星」について詳しくはこちら »

■ 関連コンテンツ
幹細胞注射でマウスの“若返り”に成功
ヒトの精子生産のメカニズム解明
iPS細胞から作成の精子でマウス誕生
精子は“兄弟”認識、群れで卵子目指す
吸引した脂肪から幹細胞の製作に成功


ナショナルジオグラフィック 科学&宇宙最新ニュースはこちら »






推奨画面サイズ
1024×768 以上

  • Copyright (C) 2008-2012 Broadmedia Corporation. All rights reserved./各記事のタイトル・本文・写真などすべてのコンテンツの著作権は、それぞれの配信社、またはニフティ株式会社に帰属します。


このキーワードの