3月4日に実施されるロシア大統領選で与党「統一ロシア」推薦候補のウラジーミル・プーチン首相が勝利し、再び大統領の座に就くのは間違いない。焦点は、第1回投票でジュガーノフ共産党党首など対立候補にどれだけの差をつけて勝利するのかである。圧勝するのか、それとも得票が50%台前半に留まる辛勝なのか---どちらの勝利なのかによってプーチン新体制の行く末が変わってくる。
ナショナリストであり、ポピュリストでもあるプーチン氏の目指す「大ロシア」再建の成否を見るうえでの着目点4つを指摘したい。外務省のロシアンスクール出身幹部などから聞いた話をまとめると、以下の通りである。1.大統領選後、経済における近代化、政治における民主化は進むのか? 2.大統領選後、米国を始めとする欧州諸国とは協調路線か、対立路線か? 3.大統領選後、アジア太平洋地域への外交ベクトルは強化されるのか? 4.プーチン体制の終焉の序章か、一時的な不調なのか?
4については、若干の説明が必要だ。昨年12月以来、首都モスクワで反政府抗議集会が頻発しているのは報道にある通りだ。興味深いのは、抗議集会に4万人参加(主催者発表、以下同じ)した12月10日以降、同24日集会13万人、2月4日集会12万人、同26日集会3万人、いずれの抗議集会でも逮捕者がゼロだったことである。それ以前の各集会では200~300人の市民が逮捕されている。なぜか。
狡猾で知られるプーチン氏は超リアリストであり、ロシアに誕生した中間層を敵にすれば、大統領選勝利はおろか、近い将来ロシアにも「アラブの春」が出来しかねないと認識しているからだ。データを見れば、それは理解できる。抗議集会といっても当局に事前に届け出たものではあるが、無視できないのは参加者13万人のうち約7割が大卒以上の高学歴者であるという事実である(全ロシア世論調査センターの現場調査による)。
所得分布の推移を見ると、2004年では月平均賃金3500ルーブル(約1万円)以下の層が33.8%だったのが、10年には4%まで激減した。さらに15000~25000ルーブル/月が23.3%、25000~35000ルーブル/月は10.6%、35000ルーブル/月以上も11.4%へと飛躍的に増えている(1ルーブル=約2・5円)。彼らがまさに中間層である。そして彼らの批判の対象は体制そのものではなく、地方選挙の不正を契機としたものであり、横行する汚職・腐敗に失望しているのだ。ある意味ではロシアにおける市民社会の成熟を反映していると言える。
プーチン氏はその点を看破しているからこそ、抗議集会への強権発動・弾圧を控えたのだ。その象徴と言えるのが、2月になって登場した「青いバケツ行進」である。中間層が保有するクルマなので高級外車はなかったが、彼らはマイカーの屋根に青いバケツを括りつけてモスクワ市内を行進した。政府・与党の高級幹部専用車はいつでも好きなときに車内から青色警戒灯を取り出し、屋根の上に据えて信号遵守など道路交通法を無視して走る特権を有している。そうした特権階層に対する抗議の意思表示行進なのだ。それを放置するなど、以前では考えられなかったことだ。
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